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異世界恋愛(短編)シリーズ

聖女は負けません!

 勇者様の一撃が、遂に魔王の霊核を貫いた。


 満身創痍の勇者様は魔王の胸から剣を引き抜くと、力尽きたように片膝をつく。


 魔王は霊核を貫かれてもなお両足で立ち、私を見つめていた。


 もう、魔王に戦う力は残されていないというのに――。


 私は勇者様の前に出て、魔王に向かって告げる。


「これで最後よ、魔王。大人しく封印されなさい」


 勇者様が声を振り絞って私に告げる。


「待てクラウディア! お前が命を捧げる必要などない!」


 私は振り返らずに聖神様への祈りをささげ始める。


「これが聖女の使命。

 命を懸けて魔王を封印する――それこそが私がこの旅に同行した理由です。

 さようなら勇者様。愛していました」


 魔王の体を白い輝きが包み込んでいく。


 白銀紅眼の魔王が私を見据え、静かに告げる。


「聖女よ、それで構わぬと言うのか。

 たとえお前が命をかけようと、その封印はいつか破られる。

 それでも命をかける覚悟があるか」


 私はニコリと微笑んで魔王に応える。


「たとえ一時でも、あなたを身動きできない状態にするのが私の役目。

 これこそが聖女として生まれた私の果たすべき使命よ」


 魔王の体が白い輝きに溶けるように薄くなっていく――。


「……聖女よ、願わくばまた会おう」


「私の名前も覚えられない人に、二度と会いたくはないわね」


 魔王の姿が掻き消えるのと同時に、私の体から力が抜けていった。


 倒れ込む私を勇者様が抱きとめる。


「――クラウディア! しっかりしろ!」


 私は精一杯の笑顔で勇者様に応える。


「……ごめんなさい、勇者様。今までありが――」


 それっきり、私の意識は暗闇に溶け込んでいった。





****


「クラウディアお嬢様、朝でございます。ご起床ください」


 ぱちりと目が覚め、私はベッドの中でゆっくりと伸びをする。


 なんだか変な夢だったなぁ。


 ふと枕元の本に目を向ける。


 五百年前に起こったという魔神戦争。その叙事詩を綴った本だ。


 寝る前にこんなものを読んだから、変な夢を見たのかなぁ?


 侍女の用意した湯桶で顔を洗い、身支度を整えてダイニングへと向かう。


 ダイニングではお父様とお母様が朝食を食べていた。


「おはようクラウディア。今日でお前も十五歳だね」


 笑顔の両親に私も笑顔で応える。


「おはようございますお父様、お母様。

 今日も良い天気ですわね」


 窓から差し込む朝日を浴びながら、席について冷製スープを口に含む。


 パンをちぎって口に運ぶ私に、お父様が告げる。


「今夜はお前の誕生パーティーだ。

 夕方になれば、ハインツ殿下もやってくる。

 お前の将来の夫になる方だ、きちんと相手をするんだぞ?」


 ――夫か。実感がわかないな。


 私はニコリと微笑んで応える。


「ええ、わかっていますわお父様」


 お母様は嬉しそうに私に告げる。


「第二王子とはいえ、王族に嫁げるのよ?

 我が伯爵家の家格からすれば、願ってもない縁談だもの。

 決して逃しちゃダメよ?」


「もちろんわかっていますわ、お母様」


 貴族令嬢の婚姻なんて、親の言いなり――それが当たり前。


 お母様もそうやって婚姻したというし、そんな形でも愛し合うことはきっとできるのだろう。


 そう思わなければ、とてもやっていられない。


 私は黙って朝食を済ませると、「庭に出てまいります」と告げ、ダイニングを後にした。





****


 日傘を持って付いてくる侍女と共に、伯爵邸の庭を歩いて行く。


 冬の朝でも、庭師の仕事で花壇には冬の花が小さく咲いていた。


 ――おや? 地面から鳥の声が聞こえる。


 辺りを見回すと、羽を怪我した青い鳥が地面に落ちていた。


 近づいても逃げ出す元気がないらしく、手ですくい上げても抵抗しない。


「かなり弱ってるわね。外敵にやられてしまったのかしら」


 私は手の中の小鳥に対し、聖神様への祈りを向けた。


 ――どうか癒しの奇跡をこの小鳥に。


 青い鳥が白い輝きに包まれていく。


 たちどころに小鳥は元気を取り戻し、羽をはばたかせて空へ飛んでいった。


 侍女がおずおずと私に告げる。


「お嬢様、その力はむやみにお使いになりませんよう」


「ええ、わかってるわ」


 この力は幼い頃から私に備わった力。


 なんでも聖女の証なのだとか。


 本来なら聖教会に所属して聖女として働くことになるのだけれど。


 私は事情があって、こうして貴族令嬢として今も暮らしている。


「お嬢様、お身体が冷えます」


「……そうね、散歩はもう充分かしら」


 私は侍女と共に、ゆっくりと伯爵邸の中へと戻っていった。





****


 午後からは屋敷中がパーティの支度で大忙しだった。


 私は部屋でまた叙事詩の続きを読みながら、ふとあることに気付く。


 昨晩は勇者たちの旅の途中までしか読んでいなかった。


 だけど、読み進めていくと夢の通りに叙事詩が進んでいく。


 気になって最後の方まで読み飛ばしていくと、同行した聖女は魔王を封印して命を落としたらしい。


 ――これは、どういうことだろう。


 聖女の名前はクラウディア――私と同じ名前だ。


 お父様が叙事詩の聖女にあやかって名付けたらしい。


 そういう親は案外多いらしく、私の名前はどちらかというと有り触れた名前だ。


 同じ名前だから、あんな夢を見たの?


 でも内容を知らない叙事詩の結末を夢に見るなんて……。


 困惑する私に、侍女が背後から告げる。


「お嬢様、ハインツ殿下がお見えになりました」


「――え、もういらしたの?

 パーティは夜から、今から来られても困りますわ」


 王族とはいえ先触れもなくやってくるなんて……迷惑な人。


 私はため息をついて本を閉じ、立ち上がって応える。


「着替えます。ハインツ殿下には少しお待ちいただいて」


 辞去する侍女を見送ると、私は他の侍女たちと一緒に外行きのドレスに着替え始めた。





****


 応接間ではハインツ殿下が退屈そうに足を組んで待っていた。


 私は精一杯の愛想笑いを浮かべ、ハインツ殿下に告げる。


「お待たせしました、ハインツ殿下」


 彼はパッと笑顔になって私に応える。


「ようやく姿を見せたか。私を待たせるなど不敬だぞ?」


「女は支度に時間がかかるものですわ。

 待つのがお嫌なら、きちんと先触れを寄越してください」


 ハインツ殿下が立ち上がって私の手を取った。


「まぁそう言うな。一秒でも早くお前に会いたかったのだ」



 ――この人が私の夫か。


 あの夢を見てしまったからわかる。


 ハインツ殿下の目は私を見ていない。


 私を想う人の目を、あの夢で見てしまったから実感できてしまう。


 私はハインツ殿下から自分の手を取り返して告げる。


「婚姻前にベタベタと手を触れるなど、作法がなっておりませんわよ?」


「……私にそのような口をきいていいと思っているのか?

 誰が聖教会からその身を守ってやったのか、忘れた訳ではあるまい?」


「それは――その節は、お世話になりましたわ」


 そう、聖教会が私の身柄を欲した時、王家が横やりを入れてたのだ。


 五百年前は王族よりも権威を持っていたらしい聖教会も、今では王族に一歩譲る力しかない。


 国王陛下が私を守る代わりに突き付けてきた条件が、ハインツ殿下との婚約だった。


 ハインツ殿下が私の肩に手を回して囁いてくる。


「お前のためを思って言ってやる。

 クラウディア、お前は私と婚姻するのが一番幸せになれるのだ」


 この手を振りほどければ――。


 そんなことをして王家の庇護が外れれば、私は聖教会に身柄を奪われるだろう。


 あそこは貴族を相手に寄付という名目で金銭を巻き上げ、聖女に治療をさせているという。


 聖職者なら平民にも聖女の奇跡を施せばいいのに、お金を払えない庶民たちは相手にされないそうだ。


 まったく、どの面を下げて聖神様の名前を使うのやら。



 私をにやけた顔で見つめてくるこの男も、本音は私の力が目当て。


 きっと王家に聖女の血を入れて、聖教会の権威をさらに下げたいのだ。


 第二王子でも聖女と婚姻するなら、きっと王位が手に入る。


 だからハインツ殿下が私を手放すことも、本当はないのだろう。


 いくら未来の王妃が見えていても、愛のない婚姻まで見えてしまった。


 愛のない生活で、多忙な王妃として生きて行く――そこに幸せなど感じられる気もしない。


 私はハインツ殿下の手から逃れ、「気分が悪いので失礼します」と告げ、応接間を後にした。





****


 部屋に戻った私は、うなだれながらパーティの支度をしていった。


 ――やっちゃった。


 これでハインツ殿下の機嫌を損ねたら、私は王家の庇護から外れちゃうのかな。


 でも王家が聖女の血を、そしてハインツ殿下が王位を欲するなら、きっとそれはないだろう。


 万が一でも奇跡が起きて王家の庇護から外れても、私は聖教会の金づるとして生涯を過ごすのが定められる。


 どこにも逃げ場が見えなくて、思わずため息が漏れた。


「お嬢様……」


 心配そうな侍女に、精一杯の笑顔を向けて応える。


「大丈夫よ、すぐに気分を立て直しますわ」


 夜会用のドレスに着替え、化粧を施してから時計を見る――そろそろ時間だ。


 私はゆっくりと静かに息を吐き出すと、気合を入れて椅子から立ち上がった。


 ――私は伯爵令嬢なのだから! しっかりしないと!


 背筋を伸ばし、再び応接間へと私の足は向かっていった。





****


 我が家の小さなホールには大勢の来客が詰め寄せていた。


 ハインツ殿下にエスコートされる私に、招待客たちが挨拶を告げていく。


「お誕生日おめでとうございます、クラウディア様。

 ハインツ殿下とのご婚姻が待ち遠しいですな」


 誰もが異口同音で祝辞を述べていく。


 ここに来てるのは、将来の国王と王妃に面識を作りたい人たち。


 その魂胆が透けて見え、貴族社会の汚れが魂を穢してしまいそうだった。


 心の中で聖神様へ祈りを捧げることで、なんとか気を持たせる。


 ――私はこんな人たちとは違う。


 だけど、本当に違うのだろうか。


 そんな疑問の声も湧いてくる。


 私だって貴族の一員、彼らと何も変わりはしない。


 叙事詩の中の聖女のように、気高く立派に生きることなんてできやしない。


 いつか私も彼らの色に染まり、貴族社会で損得勘定をしながら生きて行くのだろう。


 心が淀んでいくのが自分でも分かってしまった。



「お初にお目にかかる、クラウディア嬢」


 いつの間にか落としていた目線を上げると、目の前には銀髪の男性が立っていた。


 長く輝かしい銀髪、血のように赤い瞳――それはまるで、夢の中の魔王のような。


「あなた……魔王なの?」


 彼の顔を凝視してしまった私の口が、思わず口にした。


 そんな馬鹿な。封印は『いつか解かれる』と魔王は夢の中で言っていた。


 だけど魔王が復活したなら、世の中が平和な訳がない。


 五百年前の魔神戦争のような戦乱が起きているはずだ。


 目の前の男性が嬉しそうに微笑んだ。


「我が名はフェルディナント・フォン・リヒター……とでも名乗っておこうか。

 人間だった頃の名前だ。魔王でもフェルディナントでも、お前の好きに呼べ」


 私の手が震えながら口元を抑える。


「まさか……本当に魔王なの?」


 彼――フェルディナントはニヤリと微笑むだけだった。


 ハインツ殿下が不機嫌そうにフェルディナントに告げる。


「貴様、何者だ? 見覚えのない顔だな」


 フェルディナントが鼻で笑いながら応える。


「一か月前に聖女の封印が解けたばかりだ。

 貴様のような若造が私を知る訳があるまい。

 冗談はそのツラだけにしておけ」


 顔を真っ赤に染めたハインツ殿下が、片手を振り上げて周囲に告げる。


「不敬罪だ! この愚か者を捕らえろ!」


 伯爵家の衛兵たちが慌ててかけよってきて、フェルディナントに槍を突き付けた。


 フェルディナントがフッと笑うと、一陣の風が巻き起こって衛兵たちが吹き飛ばされて行く。


「無理をするな、人間ども。

 貴様らごときが私に勝てると勘違いするなよ?」


 私は震える足を抑えながらフェルディナントに尋ねる。


「なぜ、魔王がここに居るの?」


 フェルディナントは不敵な笑みで私の顎を持ち上げた。


「お前に会いに来た、クラウディア。

 今度はきちんと名前を憶えてきた。

 よもや『会えない』とは抜かすまい?」


 ――そういえば、『名前も覚えられない人とは会いたくない』って聖女は言ってたっけ。


「じゃあ、あの夢は本当の出来事だったの?」


「夢を見たのか? ならばそれは、前世の記憶だろう。

 お前の魂に刻まれた記憶が蘇っただけだ。

 私はお前の魂をこの一か月探し回り、ようやく見つけた。

 もう二度と離しはしない」


 ああ、この目だ。勇者様と同じ、『私を想う目』。


 なぜ魔王がそんな目を私に向けるのか、それはわからないけれど。


「魔王がなぜ、私に会いに来るの?」


「お前の魂に惚れ込んだ。

 どうだ、今度は一緒に世界を征服してみないか」


 む、それは聞き逃せないな。


 私は魔王の手から逃れ、顔をそらして応える。


「平和な世を乱そうとする人に付いて行く気はありませんわ」


「フッ、そうか。

 では平和な世を平和に生きる――それなら付いてくるか?」


 私の目が、フェルディナントを盗み見た。


 彼は変わらず不敵に微笑んでいるけれど、目は真剣そのものだった。


「魔王が平和に生きられるとでも言うの?」


「お前の愛があれば、それも可能だろう」


 隣で震えていたハインツ殿下が、私とフェルディナントの間に割って入った。


「き、貴様! 魔王だかなんだか知らんが、私を無視するんじゃない!」


 魔王がジロリとハインツ殿下を睨み付け、氷のような眼差しで告げる。


「思い上がるなよ、人間。

 クラウディアの前だから見逃してやるが、次に邪魔をすれば命の保証はせんぞ」


 フェルディナントが腕を横に大きく振るうと、ハインツ殿下は暴風に煽られたように壁に叩きつけられていた。


 震える私に、フェルディナントが手を差し伸べてくる。


「どうしたクラウディア。

 見たところ、お前らしくない有様じゃないか。

 それではまるで、籠の中の鳥だ。

 お前はもっと自由に空をはばたく女だっただろう?」


 ――夢の中の聖女のように、自分に正直に生きる。


 あの憧れを抱いた聖女のように、私も生きられるのだろうか。


 王家からも、聖教会からも逃れて生きて行くことが、私にできるだろうか。


 迷いながらも、震える私の手がフェルディナントの手を取った。


 彼の口がニヤリと微笑む。


「それでいい。後は私が守ってやる。

 お前はただ、私の隣で私を愛せ」


「……それは約束できないわね。

 あなたがきちんと私を愛してくれたなら、その時は考えてあげるわ」


 フェルディナントが楽し気な笑い声をあげた。


「そう! それだ!

 それでこそクラウディアだ!」


 私は背後で困惑する両親に告げる。


「ごめんなさいお父様、お母様。

 私は魔王と共に行きます。

 でも安心して。決してこの人が悪さをしないよう、見張っておきますから」


「クラウディア! いかん!」


「行っちゃダメよ、クラウディア!」


 私は会釈をすると、フェルディナントにエスコートされながらホールを後にした。





****


 伯爵家の衛兵たちを風で薙ぎ払いながら、フェルディナントは外に待たせていた馬車に乗りこんだ。


 私たちを乗せた馬車は、夜の闇を切り裂くように走っていく。


 ――あーあ、やっちゃったな。


 逃げ道のない牢獄のような人生――そう思っていた。


 だけどまさか、そこに救いの手を差し伸べてくれるのが魔王だったなんて。


「ねぇ魔王、あなたこれからどうするの?」


 背もたれに体を預けたフェルディナントが、楽し気に応える。


「まずはこの鬱陶しい国を出るとしよう。

 放置しておくと軍隊を出してきそうだしな」


「逃げるんだ?」


 フェルディナントの目が私を見つめた。


「殺してもいいならそうするが」


「そういうのはだーめ!

 ちゃんと平和に生きて!」


 クスクスと楽し気に笑うフェルディナントに、私は尋ねる。


「ねぇ、魔王って元は人間だったの?」


「正確には、今も人間だ。

 魔神に祈りを捧げて力を得ただけの人間――それが私だ。

 その力も、五百年の封印ですっかり消え去ったがな」


「でも、魔法を使ってなかった?」


 フェルディナントが手の中で小さなつむじ風を起こしてみせた。


「今の時代の人間どもは、どうやら魔法を失ったようだな。

 この程度なら魔神の力を使う必要もない」


 私はおずおずと尋ねる。


「ねぇ魔王――いえ、フェルディナント。

 あなたは本当に平和に生きていけるの?」


「お前が魂から俺を愛するなら、聖神へと宗旨替えしても構わんぞ?」


 そっか、そんなに本気なのか。


 ――でも! だからって簡単に落ちる女だと思わないでほしいな!


 私はフェルディナントの顔に指を突き付けて宣言する。


「悪さをしたら、また封印するからね!」


 楽し気なフェルディナントが、私の手を優しく握った。


「それで構わん。

 だがいつかでいい。俺を愛せ」


「なんで命令形?! ……まぁ、考えてあげる!

 ともかく、平和に生きていける国に移動しましょう」


「平民の生活になるが、耐えられるか?

 贅沢をしたくなったらいつでも弱音を吐けよ?」


「吐かないわよ、そんなもの!

 愛さえあれば、文句はないんだから!

 あなたこそ、庶民の暮らしに耐えられるの?!」


 フェルディナントが私の手の甲に唇を落とす。


「お前が隣に居てくれるなら、それぐらいは耐えてみせよう」


「じゃあお互い、我慢比べね!

 どっちの意地が強いか、勝負よ!」


「いいだろう、ではお前が負けたら魔神に宗旨替えをしろ」


「負けないってば?!」


 明るい笑い声を夜道に残しながら、馬車は国境に向かい駆けていった。





****


 温かな春の日、畑仕事を終えたフェルディナントが家に帰ってくる。


「戻ったぞ、クラウディア」


「お帰り、フェルディナント!

 朝食までもう少し待ってね!」


 お互い、平民の服もすっかり板についた。


 着ていたドレスを売り払い、そのお金で私たちは辺境の国に家を買った。


 フェルディナントの銀髪や赤い瞳は目立つけど、この姿が魔王を示すものだと知る人間は居ない。


 私が炊事にもたついていると、フェルディナントが手伝ってくれた。


「クラウディアは中々家事を覚えないな」


「仕方ないでしょ?! ずっと伯爵令嬢をやってたんだから!」


 クスリと笑うフェルディナントが、私に告げる。


「焦る必要はない。ゆっくりと覚えていけばいい。

 お前が足りない分は、私が補ってやるだけだ」


 むー、魔王の癖になんで優しいのかなぁ?!


 最近、少しずつフェルディナントにほだされてきた気がする。


 仮初の夫婦生活も、いつか終わりになりそうだ。



 今日も温かい朝食を笑顔で食べながら、フェルディナントと言葉を交わす。


 魔王と聖女、こんな夫婦が居たって良いだろう。


 意地の張り合いは……私が負けそうかなぁ?


 貧困には負ける気がしないけど、フェルディナントの愛は日々増していく気がする。


 そんな心地良い愛に浸りながら、私は今日も家事に勤しむのだ。


リハビリ的なサムシング。


そろそろインフル治ってくれないと長編書けないですね。

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