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異世界恋愛(短編)シリーズ

聖女は負けません!

掲載日:2025/01/11

 勇者様の一撃が、遂に魔王の霊核を貫いた。


 満身創痍の勇者様は魔王の胸から剣を引き抜くと、力尽きたように片膝をつく。


 魔王は霊核を貫かれてもなお両足で立ち、私を見つめていた。


 もう、魔王に戦う力は残されていないというのに――。


 私は勇者様の前に出て、魔王に向かって告げる。


「これで最後よ、魔王。大人しく封印されなさい」


 勇者様が声を振り絞って私に告げる。


「待てクラウディア! お前が命を捧げる必要などない!」


 私は振り返らずに聖神様への祈りをささげ始める。


「これが聖女の使命。

 命を懸けて魔王を封印する――それこそが私がこの旅に同行した理由です。

 さようなら勇者様。愛していました」


 魔王の体を白い輝きが包み込んでいく。


 白銀紅眼の魔王が私を見据え、静かに告げる。


「聖女よ、それで構わぬと言うのか。

 たとえお前が命をかけようと、その封印はいつか破られる。

 それでも命をかける覚悟があるか」


 私はニコリと微笑んで魔王に応える。


「たとえ一時でも、あなたを身動きできない状態にするのが私の役目。

 これこそが聖女として生まれた私の果たすべき使命よ」


 魔王の体が白い輝きに溶けるように薄くなっていく――。


「……聖女よ、願わくばまた会おう」


「私の名前も覚えられない人に、二度と会いたくはないわね」


 魔王の姿が掻き消えるのと同時に、私の体から力が抜けていった。


 倒れ込む私を勇者様が抱きとめる。


「――クラウディア! しっかりしろ!」


 私は精一杯の笑顔で勇者様に応える。


「……ごめんなさい、勇者様。今までありが――」


 それっきり、私の意識は暗闇に溶け込んでいった。





****


「クラウディアお嬢様、朝でございます。ご起床ください」


 ぱちりと目が覚め、私はベッドの中でゆっくりと伸びをする。


 なんだか変な夢だったなぁ。


 ふと枕元の本に目を向ける。


 五百年前に起こったという魔神戦争。その叙事詩を綴った本だ。


 寝る前にこんなものを読んだから、変な夢を見たのかなぁ?


 侍女の用意した湯桶で顔を洗い、身支度を整えてダイニングへと向かう。


 ダイニングではお父様とお母様が朝食を食べていた。


「おはようクラウディア。今日でお前も十五歳だね」


 笑顔の両親に私も笑顔で応える。


「おはようございますお父様、お母様。

 今日も良い天気ですわね」


 窓から差し込む朝日を浴びながら、席について冷製スープを口に含む。


 パンをちぎって口に運ぶ私に、お父様が告げる。


「今夜はお前の誕生パーティーだ。

 夕方になれば、ハインツ殿下もやってくる。

 お前の将来の夫になる方だ、きちんと相手をするんだぞ?」


 ――夫か。実感がわかないな。


 私はニコリと微笑んで応える。


「ええ、わかっていますわお父様」


 お母様は嬉しそうに私に告げる。


「第二王子とはいえ、王族に嫁げるのよ?

 我が伯爵家の家格からすれば、願ってもない縁談だもの。

 決して逃しちゃダメよ?」


「もちろんわかっていますわ、お母様」


 貴族令嬢の婚姻なんて、親の言いなり――それが当たり前。


 お母様もそうやって婚姻したというし、そんな形でも愛し合うことはきっとできるのだろう。


 そう思わなければ、とてもやっていられない。


 私は黙って朝食を済ませると、「庭に出てまいります」と告げ、ダイニングを後にした。





****


 日傘を持って付いてくる侍女と共に、伯爵邸の庭を歩いて行く。


 冬の朝でも、庭師の仕事で花壇には冬の花が小さく咲いていた。


 ――おや? 地面から鳥の声が聞こえる。


 辺りを見回すと、羽を怪我した青い鳥が地面に落ちていた。


 近づいても逃げ出す元気がないらしく、手ですくい上げても抵抗しない。


「かなり弱ってるわね。外敵にやられてしまったのかしら」


 私は手の中の小鳥に対し、聖神様への祈りを向けた。


 ――どうか癒しの奇跡をこの小鳥に。


 青い鳥が白い輝きに包まれていく。


 たちどころに小鳥は元気を取り戻し、羽をはばたかせて空へ飛んでいった。


 侍女がおずおずと私に告げる。


「お嬢様、その力はむやみにお使いになりませんよう」


「ええ、わかってるわ」


 この力は幼い頃から私に備わった力。


 なんでも聖女の証なのだとか。


 本来なら聖教会に所属して聖女として働くことになるのだけれど。


 私は事情があって、こうして貴族令嬢として今も暮らしている。


「お嬢様、お身体が冷えます」


「……そうね、散歩はもう充分かしら」


 私は侍女と共に、ゆっくりと伯爵邸の中へと戻っていった。





****


 午後からは屋敷中がパーティの支度で大忙しだった。


 私は部屋でまた叙事詩の続きを読みながら、ふとあることに気付く。


 昨晩は勇者たちの旅の途中までしか読んでいなかった。


 だけど、読み進めていくと夢の通りに叙事詩が進んでいく。


 気になって最後の方まで読み飛ばしていくと、同行した聖女は魔王を封印して命を落としたらしい。


 ――これは、どういうことだろう。


 聖女の名前はクラウディア――私と同じ名前だ。


 お父様が叙事詩の聖女にあやかって名付けたらしい。


 そういう親は案外多いらしく、私の名前はどちらかというと有り触れた名前だ。


 同じ名前だから、あんな夢を見たの?


 でも内容を知らない叙事詩の結末を夢に見るなんて……。


 困惑する私に、侍女が背後から告げる。


「お嬢様、ハインツ殿下がお見えになりました」


「――え、もういらしたの?

 パーティは夜から、今から来られても困りますわ」


 王族とはいえ先触れもなくやってくるなんて……迷惑な人。


 私はため息をついて本を閉じ、立ち上がって応える。


「着替えます。ハインツ殿下には少しお待ちいただいて」


 辞去する侍女を見送ると、私は他の侍女たちと一緒に外行きのドレスに着替え始めた。





****


 応接間ではハインツ殿下が退屈そうに足を組んで待っていた。


 私は精一杯の愛想笑いを浮かべ、ハインツ殿下に告げる。


「お待たせしました、ハインツ殿下」


 彼はパッと笑顔になって私に応える。


「ようやく姿を見せたか。私を待たせるなど不敬だぞ?」


「女は支度に時間がかかるものですわ。

 待つのがお嫌なら、きちんと先触れを寄越してください」


 ハインツ殿下が立ち上がって私の手を取った。


「まぁそう言うな。一秒でも早くお前に会いたかったのだ」



 ――この人が私の夫か。


 あの夢を見てしまったからわかる。


 ハインツ殿下の目は私を見ていない。


 私を想う人の目を、あの夢で見てしまったから実感できてしまう。


 私はハインツ殿下から自分の手を取り返して告げる。


「婚姻前にベタベタと手を触れるなど、作法がなっておりませんわよ?」


「……私にそのような口をきいていいと思っているのか?

 誰が聖教会からその身を守ってやったのか、忘れた訳ではあるまい?」


「それは――その節は、お世話になりましたわ」


 そう、聖教会が私の身柄を欲した時、王家が横やりを入れてたのだ。


 五百年前は王族よりも権威を持っていたらしい聖教会も、今では王族に一歩譲る力しかない。


 国王陛下が私を守る代わりに突き付けてきた条件が、ハインツ殿下との婚約だった。


 ハインツ殿下が私の肩に手を回して囁いてくる。


「お前のためを思って言ってやる。

 クラウディア、お前は私と婚姻するのが一番幸せになれるのだ」


 この手を振りほどければ――。


 そんなことをして王家の庇護が外れれば、私は聖教会に身柄を奪われるだろう。


 あそこは貴族を相手に寄付という名目で金銭を巻き上げ、聖女に治療をさせているという。


 聖職者なら平民にも聖女の奇跡を施せばいいのに、お金を払えない庶民たちは相手にされないそうだ。


 まったく、どの面を下げて聖神様の名前を使うのやら。



 私をにやけた顔で見つめてくるこの男も、本音は私の力が目当て。


 きっと王家に聖女の血を入れて、聖教会の権威をさらに下げたいのだ。


 第二王子でも聖女と婚姻するなら、きっと王位が手に入る。


 だからハインツ殿下が私を手放すことも、本当はないのだろう。


 いくら未来の王妃が見えていても、愛のない婚姻まで見えてしまった。


 愛のない生活で、多忙な王妃として生きて行く――そこに幸せなど感じられる気もしない。


 私はハインツ殿下の手から逃れ、「気分が悪いので失礼します」と告げ、応接間を後にした。





****


 部屋に戻った私は、うなだれながらパーティの支度をしていった。


 ――やっちゃった。


 これでハインツ殿下の機嫌を損ねたら、私は王家の庇護から外れちゃうのかな。


 でも王家が聖女の血を、そしてハインツ殿下が王位を欲するなら、きっとそれはないだろう。


 万が一でも奇跡が起きて王家の庇護から外れても、私は聖教会の金づるとして生涯を過ごすのが定められる。


 どこにも逃げ場が見えなくて、思わずため息が漏れた。


「お嬢様……」


 心配そうな侍女に、精一杯の笑顔を向けて応える。


「大丈夫よ、すぐに気分を立て直しますわ」


 夜会用のドレスに着替え、化粧を施してから時計を見る――そろそろ時間だ。


 私はゆっくりと静かに息を吐き出すと、気合を入れて椅子から立ち上がった。


 ――私は伯爵令嬢なのだから! しっかりしないと!


 背筋を伸ばし、再び応接間へと私の足は向かっていった。





****


 我が家の小さなホールには大勢の来客が詰め寄せていた。


 ハインツ殿下にエスコートされる私に、招待客たちが挨拶を告げていく。


「お誕生日おめでとうございます、クラウディア様。

 ハインツ殿下とのご婚姻が待ち遠しいですな」


 誰もが異口同音で祝辞を述べていく。


 ここに来てるのは、将来の国王と王妃に面識を作りたい人たち。


 その魂胆が透けて見え、貴族社会の汚れが魂を穢してしまいそうだった。


 心の中で聖神様へ祈りを捧げることで、なんとか気を持たせる。


 ――私はこんな人たちとは違う。


 だけど、本当に違うのだろうか。


 そんな疑問の声も湧いてくる。


 私だって貴族の一員、彼らと何も変わりはしない。


 叙事詩の中の聖女のように、気高く立派に生きることなんてできやしない。


 いつか私も彼らの色に染まり、貴族社会で損得勘定をしながら生きて行くのだろう。


 心が淀んでいくのが自分でも分かってしまった。



「お初にお目にかかる、クラウディア嬢」


 いつの間にか落としていた目線を上げると、目の前には銀髪の男性が立っていた。


 長く輝かしい銀髪、血のように赤い瞳――それはまるで、夢の中の魔王のような。


「あなた……魔王なの?」


 彼の顔を凝視してしまった私の口が、思わず口にした。


 そんな馬鹿な。封印は『いつか解かれる』と魔王は夢の中で言っていた。


 だけど魔王が復活したなら、世の中が平和な訳がない。


 五百年前の魔神戦争のような戦乱が起きているはずだ。


 目の前の男性が嬉しそうに微笑んだ。


「我が名はフェルディナント・フォン・リヒター……とでも名乗っておこうか。

 人間だった頃の名前だ。魔王でもフェルディナントでも、お前の好きに呼べ」


 私の手が震えながら口元を抑える。


「まさか……本当に魔王なの?」


 彼――フェルディナントはニヤリと微笑むだけだった。


 ハインツ殿下が不機嫌そうにフェルディナントに告げる。


「貴様、何者だ? 見覚えのない顔だな」


 フェルディナントが鼻で笑いながら応える。


「一か月前に聖女の封印が解けたばかりだ。

 貴様のような若造が私を知る訳があるまい。

 冗談はそのツラだけにしておけ」


 顔を真っ赤に染めたハインツ殿下が、片手を振り上げて周囲に告げる。


「不敬罪だ! この愚か者を捕らえろ!」


 伯爵家の衛兵たちが慌ててかけよってきて、フェルディナントに槍を突き付けた。


 フェルディナントがフッと笑うと、一陣の風が巻き起こって衛兵たちが吹き飛ばされて行く。


「無理をするな、人間ども。

 貴様らごときが私に勝てると勘違いするなよ?」


 私は震える足を抑えながらフェルディナントに尋ねる。


「なぜ、魔王がここに居るの?」


 フェルディナントは不敵な笑みで私の顎を持ち上げた。


「お前に会いに来た、クラウディア。

 今度はきちんと名前を憶えてきた。

 よもや『会えない』とは抜かすまい?」


 ――そういえば、『名前も覚えられない人とは会いたくない』って聖女は言ってたっけ。


「じゃあ、あの夢は本当の出来事だったの?」


「夢を見たのか? ならばそれは、前世の記憶だろう。

 お前の魂に刻まれた記憶が蘇っただけだ。

 私はお前の魂をこの一か月探し回り、ようやく見つけた。

 もう二度と離しはしない」


 ああ、この目だ。勇者様と同じ、『私を想う目』。


 なぜ魔王がそんな目を私に向けるのか、それはわからないけれど。


「魔王がなぜ、私に会いに来るの?」


「お前の魂に惚れ込んだ。

 どうだ、今度は一緒に世界を征服してみないか」


 む、それは聞き逃せないな。


 私は魔王の手から逃れ、顔をそらして応える。


「平和な世を乱そうとする人に付いて行く気はありませんわ」


「フッ、そうか。

 では平和な世を平和に生きる――それなら付いてくるか?」


 私の目が、フェルディナントを盗み見た。


 彼は変わらず不敵に微笑んでいるけれど、目は真剣そのものだった。


「魔王が平和に生きられるとでも言うの?」


「お前の愛があれば、それも可能だろう」


 隣で震えていたハインツ殿下が、私とフェルディナントの間に割って入った。


「き、貴様! 魔王だかなんだか知らんが、私を無視するんじゃない!」


 魔王がジロリとハインツ殿下を睨み付け、氷のような眼差しで告げる。


「思い上がるなよ、人間。

 クラウディアの前だから見逃してやるが、次に邪魔をすれば命の保証はせんぞ」


 フェルディナントが腕を横に大きく振るうと、ハインツ殿下は暴風に煽られたように壁に叩きつけられていた。


 震える私に、フェルディナントが手を差し伸べてくる。


「どうしたクラウディア。

 見たところ、お前らしくない有様じゃないか。

 それではまるで、籠の中の鳥だ。

 お前はもっと自由に空をはばたく女だっただろう?」


 ――夢の中の聖女のように、自分に正直に生きる。


 あの憧れを抱いた聖女のように、私も生きられるのだろうか。


 王家からも、聖教会からも逃れて生きて行くことが、私にできるだろうか。


 迷いながらも、震える私の手がフェルディナントの手を取った。


 彼の口がニヤリと微笑む。


「それでいい。後は私が守ってやる。

 お前はただ、私の隣で私を愛せ」


「……それは約束できないわね。

 あなたがきちんと私を愛してくれたなら、その時は考えてあげるわ」


 フェルディナントが楽し気な笑い声をあげた。


「そう! それだ!

 それでこそクラウディアだ!」


 私は背後で困惑する両親に告げる。


「ごめんなさいお父様、お母様。

 私は魔王と共に行きます。

 でも安心して。決してこの人が悪さをしないよう、見張っておきますから」


「クラウディア! いかん!」


「行っちゃダメよ、クラウディア!」


 私は会釈をすると、フェルディナントにエスコートされながらホールを後にした。





****


 伯爵家の衛兵たちを風で薙ぎ払いながら、フェルディナントは外に待たせていた馬車に乗りこんだ。


 私たちを乗せた馬車は、夜の闇を切り裂くように走っていく。


 ――あーあ、やっちゃったな。


 逃げ道のない牢獄のような人生――そう思っていた。


 だけどまさか、そこに救いの手を差し伸べてくれるのが魔王だったなんて。


「ねぇ魔王、あなたこれからどうするの?」


 背もたれに体を預けたフェルディナントが、楽し気に応える。


「まずはこの鬱陶しい国を出るとしよう。

 放置しておくと軍隊を出してきそうだしな」


「逃げるんだ?」


 フェルディナントの目が私を見つめた。


「殺してもいいならそうするが」


「そういうのはだーめ!

 ちゃんと平和に生きて!」


 クスクスと楽し気に笑うフェルディナントに、私は尋ねる。


「ねぇ、魔王って元は人間だったの?」


「正確には、今も人間だ。

 魔神に祈りを捧げて力を得ただけの人間――それが私だ。

 その力も、五百年の封印ですっかり消え去ったがな」


「でも、魔法を使ってなかった?」


 フェルディナントが手の中で小さなつむじ風を起こしてみせた。


「今の時代の人間どもは、どうやら魔法を失ったようだな。

 この程度なら魔神の力を使う必要もない」


 私はおずおずと尋ねる。


「ねぇ魔王――いえ、フェルディナント。

 あなたは本当に平和に生きていけるの?」


「お前が魂から俺を愛するなら、聖神へと宗旨替えしても構わんぞ?」


 そっか、そんなに本気なのか。


 ――でも! だからって簡単に落ちる女だと思わないでほしいな!


 私はフェルディナントの顔に指を突き付けて宣言する。


「悪さをしたら、また封印するからね!」


 楽し気なフェルディナントが、私の手を優しく握った。


「それで構わん。

 だがいつかでいい。俺を愛せ」


「なんで命令形?! ……まぁ、考えてあげる!

 ともかく、平和に生きていける国に移動しましょう」


「平民の生活になるが、耐えられるか?

 贅沢をしたくなったらいつでも弱音を吐けよ?」


「吐かないわよ、そんなもの!

 愛さえあれば、文句はないんだから!

 あなたこそ、庶民の暮らしに耐えられるの?!」


 フェルディナントが私の手の甲に唇を落とす。


「お前が隣に居てくれるなら、それぐらいは耐えてみせよう」


「じゃあお互い、我慢比べね!

 どっちの意地が強いか、勝負よ!」


「いいだろう、ではお前が負けたら魔神に宗旨替えをしろ」


「負けないってば?!」


 明るい笑い声を夜道に残しながら、馬車は国境に向かい駆けていった。





****


 温かな春の日、畑仕事を終えたフェルディナントが家に帰ってくる。


「戻ったぞ、クラウディア」


「お帰り、フェルディナント!

 朝食までもう少し待ってね!」


 お互い、平民の服もすっかり板についた。


 着ていたドレスを売り払い、そのお金で私たちは辺境の国に家を買った。


 フェルディナントの銀髪や赤い瞳は目立つけど、この姿が魔王を示すものだと知る人間は居ない。


 私が炊事にもたついていると、フェルディナントが手伝ってくれた。


「クラウディアは中々家事を覚えないな」


「仕方ないでしょ?! ずっと伯爵令嬢をやってたんだから!」


 クスリと笑うフェルディナントが、私に告げる。


「焦る必要はない。ゆっくりと覚えていけばいい。

 お前が足りない分は、私が補ってやるだけだ」


 むー、魔王の癖になんで優しいのかなぁ?!


 最近、少しずつフェルディナントにほだされてきた気がする。


 仮初の夫婦生活も、いつか終わりになりそうだ。



 今日も温かい朝食を笑顔で食べながら、フェルディナントと言葉を交わす。


 魔王と聖女、こんな夫婦が居たって良いだろう。


 意地の張り合いは……私が負けそうかなぁ?


 貧困には負ける気がしないけど、フェルディナントの愛は日々増していく気がする。


 そんな心地良い愛に浸りながら、私は今日も家事に勤しむのだ。


リハビリ的なサムシング。


そろそろインフル治ってくれないと長編書けないですね。

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