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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

スピアバード 〜ドリーム・モンスターズより〜

作者: 朝日超乾

※注意:この話ではグロ描写が含まれます。苦手な方はブラウザバックを推奨します。




 私はなんの変哲もない男子高校生。といってもテストはいつも赤点ギリギリを取っていた。高校を選ぶときは偏差値を気にしてそれに合わせて勉強し、見事に偏差値が高い志望校に入学することができたがギリギリであるなら選択はミスであったのかもしれない。まわりと変わりなく、学校へ行き授業を受けて帰宅部として帰るだけの日々だ。

 そんな私には年が一つだけ違う妹がいる。その名は雪。同じ高校に通っていて、あくる日も行きと帰りは一緒だ。雪は大して地頭が良かったわけでもなく、私がこの高校に行くと言うと雪は寂しそうにしていた。自分でいうのもなんだが、私は地頭が良かったため勉強していて飲み込みが速く、この高校に受かるレベルの学力がついた。しかし、雪は地頭が良かったわけではない。だからこそ、雪は私を羨み、妬んでいた。

 日に日に雪の学力は落ちていき、私も自分のことばかり気にしていては雪の将来がよろしくないものになると危惧して、本気で勉強してみてはと励ましてみた。それでもなかなか勉強しないものだから母も困った。ここまでくると私も受験勉強に忙しくなる時期にさしかかっていた。だから、私が狂うように勉強しかしない『勉狂』になる前に最後の説得を行った。

「勉強しないならお金が手に入らず並大抵の生活を送ることになるけど、それは嫌じゃないの?」

説得というよりかは問いかけといったところであろうか。その場では雪は何も言わなかった。私も何も言わず立ち去り、それから勉強に専念した。

 でも、今入学できていることからも、雪も考えを改めて勉強し始めたのだ。それまで見ていたネット、友達との不必要な連絡は自ら断ち切った。こうやる気になってくれたのは良いことだが、私の言葉攻めは正しかったとは思えない。

「おいお前、遅かったな。居残りでもあったのか?早く家に帰ろうよ。」

「あぁ。」

 言葉遣いはもっと丁寧なものになると思ったが、こうだ。中身が変わっていないなら別に気にすることではないが、今では私より学力が高いのか居残りがない優等生だ。頭のいい高校生。私より上ならそう思う。

「もう冬なんだから早めに帰らないとお母さんたち心配するじゃん。」

「あぁ、そうだな、すまん。お母さんには連絡した?」

「『気お付けてね』だって。」

 親は外国人だ。私たち兄妹はその血を継ぐ純血外国人だ。親の育ちは外国だが、私たちは生まれたときからここに住んでいたからここの言葉を流暢に話せる。でも親はそうとはいかない。流暢でない外国人特有のカタコト言葉だ。完璧ではないが意思疎通はできる。私たちもここで育ったとはいえ、親が別の言語で会話しているから自然と聞いていて意味がわかる程度になった。でも私たちは話せるわけではないから、親は外国語で話すが私たちはここの言葉で話す。周りから見たら意味不明な会話だろう。言葉は違えど、この高校に入学するまで支えてくれた親の愛情には感謝しかない。必ずとも親孝行を果たしたい。

 帰りのバスがやってきた。雪とICカードをピッと当てて二人座席に座った。



 ある人気のない夜の山道で、とてもこの世の生き物とは思えないような生物がいた。その生物は鳥をベースにしているようでくちばしがスピアのように長く尖っていて体長は約3m、うち2mほどがくちばしを占めているようだった。私はその見た目にちなんでそのまま「スピアバード」と呼ぶことにした。

 1体のスピアバードは道端の草むらにそのくちばしを突っ込んだ。しかし何もない。腹が減っているようだ。そのスピアバードは獲物を探しに山を下った。そのあとを別のスピアバードたちがついていった。



 ある家に少女とその母が住んでいた。少女とその母は食事をとっていた。

「このカレーおいしい!」

「そう?良かった。明日の運動会のためにもたくさん食べてね。」

「あっ、そうだ!お母さんに運動会のプログラム渡すの忘れてた!とってくる!」

少女は自分の部屋に取りに行った。

「どこかなー...。結構前にもらったものだから棚とかにあるかな...。ん?あ、あった!お母さん!」

少女はプログラムを手に取り駆け出そうとしたそのとき。大きな悲鳴が響いた。

「あぁ、あぁ!お願い!こっちにこないで!お願いだから...部屋から出てこないで...。」

叫び声と弱々しい声が少女の耳に届いた。その声の主は少女の母だった。

「なにがあったの、お母さん!」

少女は心配になりドアを開けようとしたが、

「だめ...こっちにこないで...。お願いだから...静かにしていて...。」

そう言い終わる前に声は途切れた。少女は突然のことに動揺して、母の悲痛な叫びに恐怖心を抱いた。自然と声が出なかった。ドアの鍵を閉めてベッドにうずくまった。その目は大きく見開いていた。リビングでは激しい音が鳴る。食器が割れ、机が倒れ、部屋が散らかる音。少女は恐怖のあまり、眠ってしまっていた。

 少女は何かが自分を呼びかけていることに気づき、目を覚ました。声はドアの向こうからする。ベッドからゆっくりと抜けて、音を立てないようにドアに近づく。

「おいで。おいで。おいで。おいで。もう何もないよ。何もないよ。怖くないよ。さぁ。さぁ。こっちに。来て。」

母親の声だった。少女は夢だったのかと安堵した。鍵を外してドアを開けた。

「お母さん、何があったの?」

次の瞬間、少女の胸を鋭利なものが貫いた。胸から血がトクトクとただれる。

「えぁっ、なにこれ、痛いよ、お母さん...。」

ドアの前に立っていたのはくちばしが異常に長い鳥さん。散らかった部屋はところどころ赤く染まっていた。お母さんは部屋におらず、代わりに肉塊が散らかっていた。

「なぁんにもなかったよ。この部屋には。」

その鳥さんはそう喋った。



 学校から家まではそう遠いわけではないが勾配のある坂がたくさんで徒歩では疲れてしまう。バスの窓側から外の空を眺めていた。どこまでも続く青い、深く青い空が広がるだけ。こんなにも寒い日なのに晴れている。バスに揺られてのんびりとしていた。

「まもなく、到着します。」

空には自由に飛び交う鳥たちの姿が。...しかしよく見れば何かが違う。高くを飛んでいる割にはデカい図体をしている。中でもくちばしは鋭く大きかった。...そう、スピアバードだった。スピアバードの群れの多くは街の中央部に向かっている。少数は中心部から離れた郊外にもやってきた。スピアバードたちは急降下してそのくちばしを尖らせ、ハヤブサのように狙いを定めてきた。周りのビルに激突し、壁を次々と突き破る。いとも簡単に壁が破られている。至る所から悲鳴が上がる。スピアバードが飛んでいることに気付いた私は、

「雪!逃げるよ!」

「は、はぁ?え、なに、なにがあったの!?」

戸惑う雪の手を掴み、もうすぐで次のバス停に着くバスを降りようとした。バスにいては串刺しにされるかもしれない。出口でICカードをかざそうとしたとき、私と雪の前後に2本の槍が上から突き破ってきた。槍は円を描くように回り、バスの上を丸くくり抜いた。スピアバードだ。雪も異常事態に気づいた。スピアバードがそんなことをしているうちに出口から出て全速力で家に向かった。

 バス停から家までの道は二つの直線的な歩道とガードレールのない車道だ。スピアバードにとっては有利な地形となってしまっている。

 手を繋ぎ全速力で走る私に対してスピードが不足して走れていない雪に気付いた。学力は彼女の方が上になったが、この運動能力の差は変わっていないのだと安心とかけっこをしていた昔を思い出して懐かしさを感じた。でもそんなことを考えている場合ではない。雪が全速力で走れるように私はスピードを少し落とした。そんな私たちを追ってバスのうちの1体のスピアバードがくちばしをこちらに向けて突撃してきている。けど、すぐに差が縮まっているわけではない。意外とスピードはないのかもしれない。縮まるには縮まっている。1m、また1mと近づいている。あと少しで曲がり角だ!速く!速く!突き刺されるギリギリのところで曲がることができた。追いかけてきていたスピアバードは止まることができずその後直進していった。

「猪突猛進タイプの野郎だな。」

「お兄ちゃん、早く家に行こう!」

直進して止まれないのなら避けることが可能かもしれない。

 この道を直進して最後、左に曲がれば家に着く。すぐに別のスピアバードが私たちの後ろを追いかけてきた。先程の道よりかは道がうねっている。スピアバードは獲物を逃さんとスピードを増して追いかけてくる。まだ家までは程遠い。

「雪!もっと速く!そして、あいつが私たちのギリギリまできたら横に避けるんだ!」

雪は了解した。すぐにそのチャンスは迫ってきた。

「恐れることはない!3、2、1!」

私と雪は二手に分かれてその間をスピアバードが通過した。上手く行った。が、それもつかの間、スピアバードは上に旋回して私たちの背後にまわろうとしていた。私と雪は残りの道を死ぬ気で走った。

「雪!あと少しだ!踏ん張れ!」

「ああああああああああああああっ!なんでこんなことになるの!!!」

雪は加速して私より前に行った。...なんだと...?まさか、運動能力ですらこの場で抜かれてしまったのか?ふと脳裏をよぎった。もしそうなったら私に取り柄なんて残るだろうか。運動能力でも、頭の良さでも妹と比べられ、お前は妹に比べて劣っていると言われる。それは実に煩わしい。しかし、昔の妹もそうだったのではないか。私と比べられて、力の差を感じる。無力だっただろう。こんな気持ちを長い間感じていたというのなら、私の対応は極めてそっけないものだったはずだ。痛みを感じなければ、人の痛みもわからない。自分が体験していないようなことを想像できるなんてあり得ない。妹に比べて自分はマシだ。そう思っていたからこうも見返される。なんてことを自分はしてしまっていたのだろう。この苦しみに耐えて勉強した雪は、私よりずっと凄い力を持っている。羨ましい。

 気づけば雪と間が空いていた。背後には鋭い槍。後ろを振り返った雪は顔が青ざめていっていた。

「はは...。ははははっ...。」

なあに、絶望するでない。スピアバードを私に惹きつけて雪は無事に離れられた。ならば、私が避ければよい!私は左斜め前に飛び込んでスピアバードの軌道から外れた。そのまま前転して立ち上がり、すぐそこの家の階段を飛ばして駆け上った。

「ほら!入るぞ!」

雪と共に玄関の扉を開き、飛び込んですぐさま鍵をかけた。

「お前、何考えてたんだよ!油断すんなよ!死ぬかと思ったじゃん!」

雪は涙をこぼしていた。私が勉強に励むよりも前のことを思い出す。毎日遊んだ。喧嘩をして体を傷つけあってしまうこともあった。でもそんな日々がよかった。雪はそのときに戻ったようだった。

 スピアバードから身を隠すためにさっさとリビングに行くことにした。一歩踏み出したそのとき、非情にも玄関の扉を突き破る音が背後から聞こえた。おそるおそる振り返ると、扉もろとも鋭いくちばしに貫かれた雪の姿があった。雪は赤く染まった。

「お兄ちゃん、ごめん。雪の方が油断してた。」

一気に背筋は凍り、目の奥は熱くたぎる。くちばしは勢いよく開き、雪の体を真っ二つに引き裂いた。真っ二つに引き裂いた。真っ二つに。裂いた。引き裂いた。雪を無惨な姿にした生き物は扉に引っかかり、抜けることも突き抜けることもできずもがいていた。私はゆっくりと後退りした。恐怖からではない。妹が生きていないということが信じられない。そして私の体にも右から衝撃がやってきた。私もスピアバードに貫かれたかと思っていたが、それは違った。誰かが私の頭を掴んで壁にめり込ませている。私を掴む誰かと、リビングにそれを見る見知らぬ二人がいた。

「それはお前の力だ。」

リビングにいる一人がそういうと、私を掴んでいるやつが私の左胸を手で貫いた。痛みはしない。代わりに力が漲る。しかしそのまま意識は途切れた。



 目が覚めた。夢であったことに気づいたが、こんなにもリアルな夢はそうそうにない。夢の最後に現れた3人は誰だったのか。私はどうなったのか。また眠って続きを見ようとしたが、むしろ意識が覚醒してしまい探ることはできなかった。目が覚めてからも妹を失った喪失感を感じていた。確認すると、妹はぐっすりと眠っていた。

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