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恋愛キャンセル界隈に元勇者は無用(もちろん使役獣も)  作者: 紅かおるこ(ハノーバー)
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2 夢の中に、居る。 

理沙視点です。

「愛」だとか「恋」だとかは私の人生には登場する予定のない単語だ。


私は十歳で交通遺児になり、保護児童施設「願い星」に引き取られた。

中学はイジメを受けて途中から行かなくなった。

中一の半ばくらいだったかな。

義務教育だから卒業できたけど、つまり、学歴としては、ほぼ小卒だ。


十八才になって、「願い星」も出なければならなくなった。

施設の中で私の事を気にかけてくれた姉のような人、詩亜姉ちゃんが仕事を紹介してくれて、雑誌やカタログの編集をする下請けの会社に就職した。

詩亜姉ちゃんは施設で育った先輩だ。

私の大恩人にして、職場の人間関係以外で、この世でただ一人、私の人生に関わりがある人。


職場では毎日、与えられたノルマをこなすのに精一杯。

それでもお給料は生きていくのにギリギリの額。

仕方ない。

「いまどき職人の見習いでもないのにほぼ小卒の中卒を雇ってくれてるんだから、感謝しなきゃだよ。」

詩亜姉ちゃんにそう言われちゃ、そうだよなと思うしかない。

『会社』と名のつくところに勤められているだけでも奇跡なのかもしれない。

なんたって、保険証だってあるのだ。

……まぁ、病院に行くお金はないけどね。


持ってる服は古着屋で買ったスーツが一着と、中に着るシャツが二枚。

下着はワゴンに積んであった390円のブラトップ二枚と100均で買ったパンツ。

ストッキングは伝線するからはかない。

100均で買った靴下と、古着屋で200円で買った黒いスリッポン。

幸い、私ごときが社外の人に直接応対することはないから、この格好で十分だ。


髪は三年ほど前に詩亜姉ちゃんが工作用のハサミで切ってくれた。

「美容院くらい行きなよぉ…。千円ぐらいで切ってくれるところ、探せばあるでしょう?」

詩亜姉ちゃんはそういうが、まだ一つに結べば問題ない長さだ。

『千円ぐらい』って、千円あれば三日はご飯が食べられるというのに。

「これが腰ぐらいまでになると、タオルで乾かないし、トイレのとき便器に着いちゃうかもしれないから、そのときはまた切ってね」

そう言ったらおもいきりため息をつかれた。


古着屋で見つけた、度があっていない、でもかけないよりはマシのセルフレームの眼鏡に、100均で買った黒いトートバック。

家賃三万円の今にも倒れそうな木造の文化住宅が私の住居。

隣は住んでた住人が首を吊ったとかで随分長いこと空き部屋になっている。

壁が薄くてうるさかったから、いなくなってほしかったけど、死んでくれとまでは思っていなかったんだけどな。


職場はここから自転車で20分。

スクラップ工場を探して、これから潰される予定のオンボロ自転車を無料でゆずってもらった。

ブレーキがキーキーうるさいしハンドルはサビだらけだけど、ちゃんと走る。

定期代はもらっているけどそれは食費に回して近所のビルの社員が使う駐輪場にこっそり停めて、そこから通っている。

自転車は4800円もしたけど、すぐに元をとったからオーライだ。

お給料は手取りで十万円。

食費三万円。

都会だから光熱費と水道代が高くて、エアコンも暖房も使っていないのに基本料金だけで二万五千円もとられる。

時々ご褒美にシュタバでコーヒーを飲んだり。

どうしても読みたいラノベを買ったり。

保険料を払ったら、あとはもう何も残らない。

ギリギリの生活だ。

スマホは持っていなかったんだけど、連絡がつかなくて不便だと会社の上司に言われ、社用のを借りている。


そんな生活をしてる私だから。

愛だの恋だの、あの人素敵だの、もっとオシャレしなきゃだの。

考える余裕は一ミリもないのだ。

今すぐポックリ死ぬのなら、それでも別にかまわないとは思っているんだけど。

幸か不幸か、今、この瞬間、生きているものだから。

生活はさておき、脳ミソだけは健全な私には、生きる以外の選択肢はないものだから。

毎日を死に物狂いで生きている。


「せめて恋ぐらいしなよ…。」

いつぞや詩亜姉ちゃんに言われた。

思わず出てきた言葉が、

「恋愛キャンセル界隈に恋とか無用なの」。

なんてしっくりくる台詞なのかと思った。

「恋愛キャンセル界隈」。

今の自分を卑下するわけでもなく、ありのままの自分を受け入れてる感じがいい。

毎日窓辺にやってくる青い鳥にパンクズをあげて、話しかけるだけで、十分満足してる。


さて。

そんな私のたった一つの趣味は、物語を読んだり書いたりすること。

学校にいかなくなった頃から、施設から徒歩15分のところにある区民が利用できる図書館で片っ端から本を借りて読んでいた。

スマホを持ってみて初めて、下の階の人のWi-Fiが使えることに気がついて、初めて給料をもらったあと秋田原の電気街に行き、中古のタブレットを買った。

それからは小説が無料で読めるサイトで、小説を読んでいる。


私にとって愛だの恋だのは、そういった物語の中で楽しむだけのものなのだ。

二年前から自作の小説も投稿し始めたんだけど、これが割りと好評で更新するたびにランキングトップテンに入ることもしばしば。

最近は疲れはてて更新も滞りがちなんだけどね…。

(奇特な読者の方が楽しみにしてくださっているんだから、がんばらなきゃと思ってるんだけどなにせ時間がなくて……)

実は書籍化だってされたことがある。

印税には手をつけていない。

ベストセラーになったわけじゃないし、、一年ほど前の作品だから、月額数百円くらいしかなおのが年末にまとめて入ってくるだけだけの、雀の涙だし。


その頃くらいからお給料が少し増えて、少しだけマトモな生活ができるようになった。

古着屋じゃなくて、「ファッションセンター・イマムラ」で体型に合った新品のジャケットも買った。

やせっぽちなのにダボダボのジャケットを着た私は、自分でも会社に勤める人間としては不格好だと思っていた。

マナーとして最低限のみだしなみぐらいは整えられるようになって良かった。


でもいつ何時、クビになったり会社がつぶれたりするかわからないんだから、他の生活はそれまでどおり。

ボロアパートに住み続け、ボロい愛車で通勤している。


正直、最近では小説の世界に現実逃避する以外の時間は、身も心も死んでる。

ストレスのせいか、繰り返し変な夢を見る。

今の私と全然違う髪型の、眼鏡もかけていない私が、背中から誰かに刺される夢。

黒いフードを被った人物が、地下の駐車場のようなところで、私に襲いかかる姿を、私は俯瞰して見てる。

一度刺されて、またナイフが振り上げられて、恐怖にひきつった顔の私が振り向くと、ナイフと私の間に誰かが飛び込んできて…


そこで大体、冷や汗をかいて目が覚める。


心療内科や精神科にいく時間もお金もないし、とりあえず図書館で夢占いの本でも借りて、どういう心理状況なのか調べてみようっと…。


そういえば…今日は変わった夢を見たなぁ…。

カワウソが部屋に居る夢。

かわいかったし、夢なのに紅茶も美味しかった。

そういや、なんか窓に向かって浄化の術かけてたな。

ハエ退治してくれたのかな?

蚊が出てくるにはちょっと早いしな。

朝になったら窓枠のちょっと飛び出たところに「ピッチュルン」が来るから、危ないし朝はやめてほしいんだけど。

って、まぁ、夢なんだけどね。

あんな夢なら見るのも悪くないけど、あれはあれで、どういう心理状況なんだろ……………。


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