23 寝室に、居る。
キングサイズの俺のベッドの上で、理沙が寝息を立てている。
夕飯のあと、風呂から出てこないと思ったら湯船でのぼせてたのをチータリアが介抱した。
きっと湯船であれこれ考えたんだろうな。
それでなくても今日は怒濤の一日だったわけだし、俺もそれで無理強いするほど鬼畜じゃないってのに。
「ゆっくりでいいよ。前期だって、一年かかったんだ。気長に待つさ。」
眠る理沙にそう言って、俺はリビングに戻った。
ふと、ローテーブルの上に置きっぱなしになっている理沙のタブレットが目についた。
今日の昼、ここで作業してそのまま出掛けたんだろう。
前期に教えてもらったパスワードがまだ使えるか、試してみた。
理沙とはいつもストーリーを共有して、ああだこうだとブラッシュアップしていたんだ。
(今期はどんな作品を書いてるんだ?)
次回作は貧乏な少女が異世界に転生して料理無双する話みたいだ。
ふと見ると、ドラフトの一番下のところに「Fuga・アナザー・ストーリー」という見出しがあるのが目についた。
(…なんだ?これ。)
タップして読んでみた。
……それは、聖女への恋に狂う、魔王の話だった。
***
魔王は一度、異世界に転生した聖女に捕らえられた。
輝かしい栄光を得たはずの聖女は、嫉妬に狂い、王女を害しで国を追われた。
そして魔王の元に戻ってきて、魔王を誘惑する。
魔王は聖女を心から愛してしまった。
聖女の頼みを聞いて、その力で元の世界に帰してやる。
「すぐに戻ってくるから。」
その言葉を信じて。
しかし、聖女が魔王の元に戻ることはなかった。
それどころか、自分が門をくぐったあと、外側からゲートに鍵をかけてしまったのだ。
魔王から盗んだ、鍵を。
絶望した魔王は、聖女と繋がる唯一の空間である、聖女が作ったブラックホールに自ら身を投じる。
気が遠くなるほどの時間さまよい続け、ある日遂に、魔王は、ブラックホールに綻びを見つけ、そこから聖女の声を聞くのだ。
声を頼りに、魔王はその綻びから手を伸ばす。
指先に触れた懐かしい感触を、魔王は絶対に離しはしなかった。
愛しい聖女を再び手にし、魔王は幸せな気持ちで悠久の時をさ迷うのだった。
***
俺はこの物語の更新日を見た。
それは、俺と理沙が刺され、理沙がタイムリープした日の夜だった。
「……なるほど……。」
無意識に、理沙は復讐していたんだな。
なぜあのタイミングで魔王が出てきたのか、少しひっかかっていたんだ。
「全ては『創造主様の、手の内』ってわけか。……理沙、君はやっぱり、すごいんじゃないか?」
俺はベッドルームに戻った。
俺が今いるのは、本当に現実なんだろうか?
それとも、理沙が書いた物語の中?
「頼むから、ハッピーエンドにしてくれよ。俺の創造主様。」
横たわる理沙の頬に軽く口づけて、俺は心地よい眠りについた。
まぁ、君のそばにいる限り、俺はどこでだってハッピーエンドだけどな。




