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恋愛キャンセル界隈に元勇者は無用(もちろん使役獣も)  作者: 紅かおるこ(ハノーバー)
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回想4 理沙の死と勇者フーガの召喚


エントランス前でスーパー帰りの理沙とバッタリ会った俺は、一緒に部屋に上がろうと思って、買い物の荷物を預かり、一階のエレベーター前で待っていた。

なのに、地下の駐車場の駐輪スペースに自転車を停めにいった理沙が、なかなか上がってこない。

何かトラブルでもあったのかと、俺は地下に降りていった。


そこで目にしたのは、血反吐を吐きながら這いつくばる理沙の背中に黒尽くめの人間が馬乗りになり、ナイフをふりかぶる衝撃の状況だった。

咄嗟の判断で、本当ならその人物を蹴り倒すなどするべきだったのだろう。

なのに俺は、誤った行動を選んでしまった。

『血まみれの理沙を目の前に正常な判断力を失い、次に受けようとしている攻撃から理沙を守る』。

ゲームだったら、絶対選ばないコマンドだ。


でも、今はこれでよかったと思う。

きっと、そうでなければ、俺の人生には単に目の前で理沙が息を引き取るのを看取る、という選択肢しか残らなかったろうから。


理沙が受けるはずのナイフを背中に受け、必死に理沙にしがみついた。

「だい…じょうぶ…か…!」

犯人のことも自分の傷のことも頭にない。

俺はとにかく理沙に呼びかけた。

『ごめん』。

そう理沙の唇が動いたように見えた。

その瞬間。


凄まじい光に包まれ、気がつくと俺は、CGで見るような動物の顔に覗き込まれていた。


***


石の天井、白い硬めのベッド。

「良かった!勇者どの!目を覚まされましたか!」

「な………!」

キョロキョロと周りをみまわす。

象に、チーター、サイ、羊、キリン…んで…なんだ?カワウソ?

「なんっ…だよ!夢??どこからどこまで??理沙は?」


「混乱しておられるようですね」

「無理もなかろう。そりゃ、別世界に来とるわけじゃからの。」

そんな話し声が耳に入る。

ふと見ると、着てた服に血がついている。

はっ、とその部分をつかんだ。

理沙の背中に付いていた血だ。

ばっ、と背中に手をやる。

背なかのシャツに裂け目がある。


「怪我を負っておられましたから、治癒術をかけさせていただきました。具合はいかがですか?」

チーターが言った。

「な…俺は…これは一体なんなんだ!?夢なんか見てる場合じゃないんだ!理沙が!!理沙が死にそうなんだ!!」

動物たちは困ったような顔をした。


「召喚したタイミングが悪かったのでしょうか」

「取り込み中だったようだな」

また動物たちが話し合う。

「とにかく、帰してくれ!とにかく、夢から現実へでも何でもいいから、俺を元の世界に!!」


カワウソが近寄った。

「申し訳ないのじゃが、(それがし)らには召喚する方法しかわからん。」

「召喚!?ゲームじゃねぇんだから!!」

そういった瞬間、俺は気がついた。

サイもカワウソもチーターも象も、俺のゲームのキャラクターにそっくりだ。

俺がデザインした服を着てる。

どうりで既視感があるはずだ。

「おいおいおい……まさかここがビースタリオード王国だとか言い出すんじゃないだろうな?」

「いかにも。我がビースタリオード王国へ、ようこそお越しくだされた。」

「だーーーーっっ!?マジかよ!?ちょっ……フーガって…俺かよ!?そんなつもりでつけたんじゃないんだけど!」

現実だか夢の中だか知らないけど、とにかく俺はできることをするのみ。

「…水盆(ミラード)…。」

俺はゲームアイテムの名前を口にした。

「おい、そこのジラーフレン!水盆(ミラード)があるだろう?すぐに持ってきてくれ!」

「な、なぜわたくしの名を!?」

「名前なんかどうでもいいから、早く!(てか、俺が付けたからに決まってるだろ)」

「さ、さすが勇者殿ともうしますか、とにかく承知!」

ジラーフレンは部屋からすっとんで出ていき、洗面器ぐらいの大きさの銀色のボール(調理用の)を手に戻ってきた。

この『水盆(ミラード)』は、術者の見たいものを写す魔道具だ。

俺は理沙と一緒に考えた『できるだけ呪文ぽく聞こえる呪文』を唱えた。

「おおっ!!これは……?」

動物たちが騒ぐ。


水盆に張られた水の表面が鏡のように変化する。

そこに写ったのは…元気に生きている理沙だった。

俺はホッと胸を撫で下ろした。

だがそれも一瞬のこと。

「……なんか…違う?」

俺が最後に見たときの理沙じゃない。

出会ったとき以上にヤボったい印象と髪型。

ガリガリに痩せていて、目は落ち窪んでいる。

「…なんだよ、これ。理沙、どうなったんだよ!?…おい、これいつだよ!?日付…日付は!?」

俺はミラードに写るカレンダーを拡大した。

俺が飛ばされた日より、2年前。

俺と理沙が出会うより前だ。

「なんだ…なんなんだよ…?理沙はタイムリープしてんのか……?」

ガシガシと頭を掻きながら俺は独り言を言った。


「あんのぉ~…」

そんな俺に遠慮がちに声がかけられる。

「っなんだよっ!今取り込み中なんだっ!!」

「はい…その…お取り込み中申し訳ないのじゃが…とりあえず、魔王を封印してくれるかどうかだけ…お話いただければ…幸いなのじゃが……」

揃いも揃ってキュルルンおめめで俺を取り囲む動物ども。

「てか、それどころじゃ……」

ない、といいかけて、俺は止まる。

頭にある、元の世界にとにかく早く帰る方法は二つ。

その1。

魔王を滅ぼして、『次元の鍵(ディマンシオン)』を手にいれ異世界に続く『(ゲート)』を立ち上げる。

その2。

『エターナリー』と呼ばれる、次元を自由に往来できる『越境鳥(レイヤークロスバード)』という種類の鳥を探し、テイムして(手なずけて)元の世界に返してもらう。


手っ取り早いのは1だ。

理沙との打ち合わせの会話とゲームのパッケージの絵レベルでしか存在していない鳥を探すより、魔王を滅ぼす。

なにせ、攻略方法もアイテムも、考えたのは俺なんだから。


***



















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