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恋愛キャンセル界隈に元勇者は無用(もちろん使役獣も)  作者: 紅かおるこ(ハノーバー)
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回想3 理沙との生活


思えば、あの時の俺は頭がイカレていたとしか言いようがない。

いや、イカれてるとわかっているのに、無理やりそれに気付かないふりをしていた。

あとから考えたら、その時にはもう、理沙に完全にロックオンしてたんだ。


俺は理沙に少しだけ待っててもらい、部下に一本電話をかけた。

そして再び理沙に向きなおった。

「おまたせ。待たせたついでに悪いんだけど、今からちょっとだけ、つきあってもらえないかな?」

「つきあうって、どこにですか?」

「悪いようにはしないから。とにかくついてきて。」

「……ドラマとかで悪者が言う台詞のまんまじゃないですか。怪しすぎますし無理です。」

「怪しくない。今後の仕事にも関係あることだ。」

「………本当ですか…?」

「君を騙してもメリットなんかないって、さっき君が言ったんじゃないか。」

「まぁ…そうですけど…。」


そんな感じで俺は理沙をフェラーリにのせ、自分の家に連れ帰った。

理沙は「ひぇぇ!!無理です!!」と言い、なかなか車に乗らなくててこずった。

乗ってからも内部に極力触らないように体を縮こまらせていた。


「…なんです?ここ。高いビルだからオフィスかと思ってついてきましたが、こ、ここはオフィスにはとても見えませんけれど。」

「まぁ、君のオフィスだ。俺の家でもあるけど。」

「……おっしゃる意味が、さっぱりわかりませんが……。」

「君は今日からここに住むんだ。」

「……………………では、さようなら。」

ハニワみたいな顔でくるりと背を向けた理沙の腕を俺はガッシリ掴んだ。

「ひっ!!かっ、かっ、監禁するにしても、もう少しマシな女性が居ますよね!?てか、こんなところに住むあなたなら、よりどりみどりでしょう!?」

理沙は目を剥いて慌てている。

「監禁なんかしない。君を、家政婦として雇いたい。」

「わ、わ、わ、私には仕事があります!」

「いくらもらってるか知らないけど、あんなところに住まなきゃなならないほどしかもらってないんだろ?」

「お、お、大きなお世話です!」

「ああ。大きなお世話かもしれないけど、俺はその十倍の金額で君を家政婦として雇いたい。」

「怪しすぎる!!私に一体何をさせるつもりなんです!?落ちぶれてはいますが、私は体を売るような仕事は一度も経験がありませんよ!?何の手練手管もありませんし、家事だって苦手です!」

「体目当てじゃネェわ!ちゃんと部屋にも風呂にも鍵がついてる(鍵を持ってるのは俺だけど)し、君の言う通り、女性には困ってない。強いて言うなら、俺に興味がない女性のほうが家政婦として雇いやすい、そうだろ?」

「なっ、なっ、なんですか、この、少女漫画みたいな展開は!わ、私は犬や猫じゃないんですよ!?飼い主がいないからって、『ほ〜ら今日からココが君の家だよ!』ってノリで、今日会ったばかりの赤の他人の家に住めるわけないでしょう!?」

「……犬や猫……。」

なるほど、確かにその時の自分の気持ちは捨て猫や捨て犬を拾った感覚に似ていると思った。

理沙を、とても、放ってなんておけなかった。

「……ちなみに、来る前に部下に指示を出して、あのアパートと土地を買い上げておいた。」

「…………は……はぁ………?」

理沙は首を傾げすぎて(90度か?)体が不自然に折れ曲がっている。

「だから、あのアパートの家主は、不動産の手続きが済み次第、俺だ。つまり、ここに住むのもあのアパートに住むのも、実質同じだ。」

「同じなわけないでしょお!?」

理沙の声が悲鳴じみてきた。

「なんでだ?同じ家主の持ち主なら、少しでもいい部屋の方が良いだろう?ふつう。」

「ふつうはね!?てか状況が普通ならね!?」

「な?そう思うだろ?」

「日本語が通じないの!?」

「まぁ、いいや。とにかく、君は今日から俺の家政婦。」

その時、秘書の澤井から電話が鳴った。

「あ、もしもし?うん…。さすがだなオマエ!サンキュー。ワリぃな、助かる。わかってるって。」

前では理沙が引き続きもらわれてきた保護犬みたいに警戒してる。

「あ、今の電話、秘書ね。ついでに君の退職手続きも済ませたって。やっぱあいつ、敏腕秘書だわぁ〜。」

「はぁーーーーーーー!?」

「というわけで、これからよろしくね。」

「金持ちの暇つぶしに付き合ってる暇ないんですけど!!」


そんな感じで、俺と理沙の暮らしは始まった。

当初の理沙は、まさに『なつかない保護犬』だった。

でも、生真面目な理沙はこちらがきちんと雇用契約書を提示して一定の距離を保っていると、家事も掃除もちゃんとこなしたし、なんなら俺の仕事の簡単な事務作業なんかも手伝ってくれた。

『家事だけでいただくにはお給料が多すぎますから』なんて言って。

俺が払っていたのは、ごく一般的な家政婦がもらうのに相応しい額だ。

本当はその倍以上払ってやりたいくらいなのに。


二人の距離がぐっと近づいたのは、俺が理沙の小説を元にゲームのアプリを作った時。

元々俺は、親父の会社を継ぐことが決まった、惰性で生きてるだけの人間だった。

「一生懸命生きている君を見ていると、自分がすごくつまらない人間に思えることがある。今までそんなこと、考えたことさえなかったのに。」

俺がそう言うと

「何でもできるんだから、思いついたこと何でもすればいいのに。お父さんの会社を継ぐからって、自分がしたいことを何もしちゃいけないんですか?」

「いや…そう言われたわけじゃないけど…。なんとなく、会社の役にたちそうな勉強を続けてるほうがいいのかなって……。」

「そんなこと言ってるうちに、すぐお爺さんになっちゃいますよ。月並みな言い方ですけど、明日死んだらどうします?きっと死ぬ瞬間、後悔しますよ。」


そう言って背中をおされて、ゲームソフトを作ることにした。

内容はもちろん、理沙の小説をベースに。

二人で設定をあれこれ考えるのは本当にわくわくした。

まるで小学校時代に戻ったみたいに。

…いや、小学校時代も、もう既に、そんな子供らしさはなかったな。

その時から、ようやく、「自分らしさ」を楽しめるようになったんだと思う。


ほどなくして、俺は理沙に想いを伝えた。

はにかみながら、理沙は俺を受け入れてくれた。

理沙の中に、俺に対する引け目やコンプレックスなんかがあることは、気づいていた。

半分くらい、冗談だと思ってて、ずっとは続かないと不安に思っていることも。

でも、いつかそんなことが全てバカバカしく思えるくらい、思いきり好きだと伝えて思いきり甘やかして、いつか俺の想いが本気だと認めさせてみせると思っていた。



そこに、あの事件が起こったんだ。


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