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恋愛キャンセル界隈に元勇者は無用(もちろん使役獣も)  作者: 紅かおるこ(ハノーバー)
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回想1 出会い

風雅視点の過去の回想が数回続きます。


三年前。

母親に頼まれ、父の会社の傘下の出版社で編集長を勤める姉の志藤風弥(しとうふみ)に渡すものがあり、編集部に立ち寄った。

ライトノベルの出版を担当している職員の結婚や病気、怪我が重なりピンチだと頭を抱える最中だった。

何かおすすめの作品はないかと聞かれ、俺はネットでその頃毎日更新を楽しみにしていたオンライン小説を紹介した。

姉はその案に飛び付いいた。

その後、新規事業としてネット小説の電子書籍化に着手したのだ。

俺が声をかけた作家の作品は飛ぶように売れ、一年もしないうちに書籍化の事業も始めることになった。


理沙の作品に出会ったのはその頃だ。

姉の出張中に頼まれて姉の名で理沙に小説投稿サイトを介してオファーのメールを出した。

バイト代もくれるというし。

何度かメールをやりとりし、毎回最後に一言ついてくるメッセージが面白くて、俺はそのまま理沙を担当した。

ちょうど本業も軌道にのってて金も時間もたっぷりあったし。

「一度、顔を合わせて打ち合わせしませんか。オンラインも良いですが、安寧様のご住居は弊社と近隣のようですし、直接はいかがでしょう?もちろんオンラインがよろしければ、そちらでも結構です。」

細かい設定をつめるのにメールではまどろっこしくなり、打ち合わせを提案した。

俺は基本的に他人には全く興味がないその性格なのだが、めずらしくその作品を書いた作者が、メールの送り主が、どんな人物なのか興味を持ったのだ。

そのときに、編集長のメールからやり取りしているが自分男性であることも明かした。

「念のため、ダサい格好でいくか……。」

メールのやりとりで実直そうな人物だと思ってたが、会ってみたらキャピキャピした女だったという可能性もなくはない。

なにせ、周りに言わせると見た目がモデルレベルなんだそうで、いままで散々苦労してきたもんだから。


理沙が休日しか時間がとれないというから、会社ではなく、自分が道楽で経営しているカフェの一つを指定した。

客の会話を邪魔しない程度に優しいジャズが流しているレトロな内装が自慢のカフェだ。

理沙が入ってきたとき、俺を上回るダサいかっこうにのけぞった。

おずおずと挨拶をし、席について打ち合わせを始めた。

おかしなメガネの奥に見える瞳は少し色素が薄い。

子犬の目を覗きこんだときのような、不思議な感覚。

俺が言う冗談にクスクスと笑うしぐさもかわいい。

(……なるほど。そっちも男よけってわけか。)

俺は、理沙も男性の担当者である俺を警戒して変装してきたのだと思った。

打ち合わせはスムーズで、小説の内容を越え、会話は多岐にわたった。

久しぶりに、誰かと楽しい会話ができたと思った。

理沙からは、俺の周りに多い、媚びた雰囲気がまるでなかった。


これからも、こうしてこの人と会って、話がしたい。

そう思った俺は、軽い気持ちで言った。

「安寧さんは用心深いんですね。」

「え……?」

理沙が不思議そうな顔をして首をかしげた。

「俺もなんです。見た目が割りと派手で目立つタイプなんで、()()()ダサくしてきたんですよ。姉には自意識過剰だって言われるんですけど、実際トラブルが多くて。安寧さんもわざとダサい格好してきたんでしょ?だって…」

真っ赤な顔をして、理沙が立ち上がった。

俺は間違えたのだと瞬時に悟った。

「……失礼します……っ!」

資料をひっつかむように黒いトートバッグにつめこみ、「あっ…おかねっ…」といってダサいジャケットのポケットから布のポーチを取り出した。

「す、すみません、安寧さん!ごめん!違うんだ!!」

何が違うのかわからないが、とにかく俺は謝った。

理沙は俺を無視してくたびれたポーチのファスナーをひいた。

それが財布なのだとすぐに気がついた。

「お金なんかいいから…」

「いえ、おごっていただく理由がございませんので。」

髪で表情は見えないが、そう言う声はかたく、首まで真っ赤だ。

(……っ!この子は、お金がないんだ…!)

「か、会社の経費だから、必要ないんです!」

俺はとっさに嘘をついた。

会社の経費で打ち合わせのコーヒー代なんか出ない。

ポーチから千円札を途中まで出した理沙は、ピタリと止まり、千円札を戻してファスナーをしめた。

「でしたら……ごちそうさまでした。」

消えそうな声でそういい、理沙は足早に店から出ていった。

「安寧さん!」

呼び掛ける俺に、入り口で背中を向けたまま、深々と頭をさげて。


「なんや?ボン。女の子にふられたんか?めずらしいな。」

カフェの経営全般を任せているマスターに言われた。

「だって…いまどきあんなダサい格好!!わざとじゃなくてするやつがいると思わないでしょう?変わり者とかならともかく、話したら普通に可愛らしい女の子だぞ!?」

他に客がいないのをいいことに、俺はワナワナと手をわななかせてマスターにくってかかった。

「なんの話や。ダサいなんか言われて怒らん女おらんやろ。なんでそんなワケわからんことゆーてん。ちゅーか、今初めて気ぃついたけど、今日のボンの格好、クソダサイなぁ!はっはっは!」

「うるせぇ!てか、その『ボン』ってのやめてくれるかな!?まっとうな仕事をしてない人間みたいじゃん。」

俺はまたドサリと椅子にすわり、冷めたコーヒーの残りを飲み干した。

「おおコワ。八つ当たりやな。ハッハッハ」。


俺は手元のスマホで理沙に詫びのメッセージを送った。

さっき、和気あいあいとした雰囲気のときに、今後の連絡がとりやすいようにとSNSのアドレスを交換したのだ。

(既読がつきますように……!)

俺の心配をよそに、返事はすぐにきた。



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