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恋愛キャンセル界隈に元勇者は無用(もちろん使役獣も)  作者: 紅かおるこ(ハノーバー)
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19 虚無の中に、居る

【風雅視点】


チータリアの叫び声に振り向くと、理沙が宙に浮かんでいた。

その両手両足は、手首足首のところが真っ黒な穴に呑まれている。


「理沙!?」

「よそ見するとは余裕だなっ!!『死炎(デスフレーム)!!』」

死神の手から紫の炎が俺に向かって放たれた。

「『エクスティングィッシュ!』ぅ!!」

オッターリンが無効化してくれて助かった。

「ばぁかもぉん!!戦いの最中によそ見するやつがあるかぁ!!」

「ワリぃ!!てか非常事態だ!!とっとと終わらせる!!」

「ほざくな!!」

「シュープリームブラスト!!」

「っ……バカな…!!ここは……っぎゃーーー!!」


別階層でもこれほどの力が使えるとおもわなかったのだろう。

死神達は驚いた顔のまま消滅した。

「ちぃっ…!!」

羽鳥が盛大に舌うちしたが、その顔が一転。

不気味な笑顔に変わった。

「……ふっ…ははは!!見てよあれ!!」

理沙が両肘、両膝まで黒い何かに吸い込まれている。

ブラックホールのように全体が開いてるわけでもない、四肢を捉える黒い穴が4つ。

「羽鳥!!貴様、何をした!アレを止めろ!!理沙を元にもどせ!!」

俺は羽鳥に飛びかかり、胸ぐらをつかんで揺さぶった。

「知らないよぉ。アタシじゃないもん。ウフフ。神様がきっと、あんなやつ要らないって言ってんのよ。てか、親が死んだ時に一緒に死んでりゃ良かったのに。みーんな、ハッピーだったのにぃ!」

耳障りなブリッコ喋り、上目遣いの羽鳥が俺に言う。

「ねぇ!?理沙!聞こえてる?アンタは、早く親のトコにいったほうがいいよ。そのほうが、みんな幸せだから!あんたなんか、いなくていいから!!」

「黙れ貴様っ!!」

ブワッと黒い穴の一つ一つが広がり、両腕は二の腕まで、両足は太ももまで消えた。

俺は羽鳥を突き飛ばし、浮かぶ理沙の下にかけよる。

しかし何か透明な壁のようなものに当たり、理沙に近寄れない。

(なん)っだよ、これっ!!理沙ッ!!目を覚ませっ!!理沙っ!!」

「……いいの……これで……」

無表情のまま、理沙が言った。

意識はあるようだ。

「何がいいんだ!!なんも良くねぇ!!早く振り払え!!くそっ…!!なんで近寄れねぇんだ!!オッターリン!!何とかしてくれっ!!」


「無理じゃ……これは……『虚無』じゃ……。」

俺の側に浮遊してきたオッターリンが、ゴクリと唾をのみこみながら言った。

「虚無!?なんだそれ!!」

「存在の何もかもを呑み込む意思…。アンネリーサ殿…創世神様は、自らを消してしまおうと…なさっとる…。」

「大賢者様!!そうなると、我々はどうなるのです!?創世神様に創られし我々は!?」

チータリアの声は震えている。

「無に…還るのかの…?」

「ひぃっ!?」

「想像でしかわからん。ワシとて、言い伝えでしか聞いたことのないモノゆえ…。」

「んなこと…させるかよっ!!」


俺は理沙に向かって怒鳴り立てた。

「理沙!!いいかげんにしろ!!くだらねぇこと考えねぇで、とっとと俺んとこに帰ってこい!!」

「帰らなくていいよ〜!」

羽鳥があおる。

「貴様は黙っておれ!!」

チーターが羽鳥の肩にガブリと噛み付いた。

「ぎゃああ!!何すんのよこの獣ッ!!」

「黙れと言うておろうが!!」

オッターリンの手からリボン状のものが飛び出し羽鳥に巻き付く。

「ふぐっ!!」

ぐるぐる巻きにされた羽鳥は床に転がされ、チータリアに足で押さえられた。

俺はそれどころじゃない。

理沙はもう足の付根、腕の付根まで黒い穴に消え、胴体と首から上しか残ってない。


「ゴミみたいなヤツの言うことに耳を貸すな!!理沙!!俺はお前が必要だ!!必要なんだ!!頼む!!帰ってきてくれ!!」

「私が…いたら……風雅は……不幸……」

「んなわけねぇだろうが!!」

俺は絶叫した。

「お前がいなきゃ、朝も昼も夜も、何も楽しくねぇ!!だからわざわざ帰ってきたんだろうが!!必死に魔王クエストして、帰ってきたんだろうが!!誰のためにあんな苦労したと思ってんだ!!」

「私の…せい……」

「ちげぇわ!!俺のためだ!!俺が!!お前と!!居るためだ!!もう一度会うためだ!!もう一度、幸せになるためだ!!理沙じゃねぇと幸せになれねぇ!!理沙がいなきゃ幸せになれねぇ!キャンセル何かしてんじゃねぇよ!!俺の想いは!!キャンセル不可の!!永久保証なんだっ!!このオタンコナスがぁっ!!!」


「おたんこ………なす」


ピクリと理沙の頬が動き、瞳に少し、光が戻った。

「そうだっ!!このっ!!オタンコナスッ!!!」


「……あなた…ねぇ……この危機的状況で、もうちょっとロマンの…あるセリフ、出なかったの…!?」

「は…?」

理沙がボヤいた瞬間。

「ピュッチィ〜〜〜!!」

七色の尾の青い鳥がパタパタと舞い込んできた(ここは地下駐車場なんだが…)。

「ピュチ!!ピュチ!!」

怒ったように、青い鳥は理沙の頭をつつく。

「イタ!!イタい!!何!?ピッチュルン!?」

理沙の目に光が戻る。

ズボッ!と右手を黒い穴から引抜き、理沙は鳥の攻撃から頭をかばった。

メリッ…!と音がして羽鳥がオッターリンの結界を破き、立ち上がった。

「クッソ!!『鳥』まで逃げたの!?どうやってアタシの結界を破ったのよっ!!理沙!!テメェ!!勘違いしてんじゃないわよ!!甘いセリフに惑わされて、また同じこと繰り返すつもり!?また周りを不幸にするの!?」


「甘いセリフ………囁かれてないわっ!!」


理沙はもう片方の手もズボッと『虚無』から引き抜いた。

俺はオロオロと見ている。

理沙の目には光が戻っている。

(いいから、その調子で怒り散らかして、両足も引き抜いてくれ!!)

「私が言われたのは!!よりによって!!」

ズボンと右足が引き抜かれる。

「オタンコ!!ナス!!よーーー!!」

ズボン!!と左足が抜けた瞬間、蒸発するような音を立て、『虚無』が消え去った。


「チィィッ!!」

羽鳥が往生際悪く、ブラックホールを開いた。

「自分で行けないなら、アタシが行かせてやるよ!!」


「ピュッチィ〜〜〜!!」

理沙の頭の上に乗った青い鳥が、怒りの形相で一声鳴くと、ピカッ!!と我々のいる空間全体が光った。


ず……ずず……

薄気味悪い音がし始めた。


「何の音よ…?」


俺、オッターリン、チーターは息を潜めた。

本能的に、ものすごく良からぬものが近づいてくる気がする。

俺は理沙にかけより、口をふさいで腕に囲った。

何か抗議しようとした口は、俺の様子をみて空気を読み、静まった。


「なんなのよ!?」


羽鳥の手の中のブラックホールから、枯れ枝が突き出した。

それは、枯れ枝のように見えた、なにかの腕だった。


痩せこけ、肉が削げ落ち、それでも動いている、肘から先。

俺達のただならぬ視線に気づき、羽鳥が振り返った瞬間。

その腕は羽鳥の両腕ごとガッチリと羽鳥を掴んだ。

「ぎゃあああ!!何これ!!気持ち悪いっ!!」


ズル…ズル…とブラックホールから顔の肉が腐って削げ落ちた、魔王が現れた。


「やだ!!離せっ!!離せこの怪物!!」

《 ツレないではないか…我が妻よ…我は100年もの間…お前に恋い焦がれていたというのに…。さぁ…!お前が作った悠久の世界に、我だけ閉じ込めて……一人で放置とは……つれないではないか……?


俺は魔王が出てきても打ちとれるよう、背中に理沙を庇い、オッターリン・チータリアとともに攻撃体勢にはいった。

「かっ……こよ……」と後ろで理沙が呟いている。

そんな場合じゃネエだろうが、ったく!!


《我と永遠の命を楽しもう…なぁ?我が、パトリシア…… 》

魔王の腕の中でもがき続ける羽鳥に、ヌッと顔を出した魔王らしき存在が口づけた。

肉が腐り、目が落ちくぼんだ、ゾンビみたいな顔。

「 うぶっ!?おえっ!!やっ…!!やめっ…!!いやあーーーー!!」

ずるずると羽鳥の体がブラックホールにのまれていく。

「もう、いくらも力は残っておらんようじゃのう。」

目をすがめ、オッターリンが魔王のステータスを確認した。

助けようと思えば助けられるのに、誰も羽鳥を助けようとしない。

微動だにせず、気配を消すように、目の前の不気味な状況を立ち尽くしてみていた。

「やめっ!!なさい!!よっ!!」

羽鳥は自分を羽交い締めにしている腕に何か目茶苦茶に攻撃をあたえるが、なぜか無効化されて魔王はダメージを受けない。

「誰かっ!!たすけてよ!?先輩っ!!理沙っ!!助けなさいよ!!今こそ恩返しするときでしょう!?」

俺は理沙を抱きよせ、羽鳥の最後を見なくていいようにくるりと背を向けさせた。 

腕の中で理沙が震えている。

「これでいいんだ、理沙。」

理沙に言い聞かせると、理沙はコクりと頷いた。

「ちょっと!!やめてよ!!助けてよ!!いやっ!!いやーーーーー………」

絶望の叫び声とともに、ブラックホールはフッ…と音もなく閉じていった。


ブラックホールが閉じきったあとは耳が聞こえなくなったかのような静けさだった。

「ピッチュルン!」

ざまぁ!という様子で青い鳥が胸を反らせた。


……てゆんか、なんなんだこの鳥!?

そんなことより理沙だ!!

「理沙っ!!」

俺は理沙の脇の下から腕を回し、思いきり抱きしめた。

理沙は足がぷらりと宙に浮いて放心状態だ。

「私…」

「良かった……良かった理沙……今度は…今度は助けられた…!!」

このために帰ってきた。

もう二度と、誰にも、理沙を殺させないために。



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