18 勇者が、居る
「理沙!!」
光とともに飛び込んできたのは風雅だった。
風雅の手から出てきた光線で私の背中に馬のりになっていた詩亜が吹き飛ぶ。
(風雅だ…。風雅…。)
私をかばって死んだはずの風雅がいる。
詩亜に暴力をふるわれていた最中は絶対に泣くまいと思っていたのに、目にブワリと涙がたまった。
「理沙っ!大丈夫か!!」
風のように駆けつけた風雅はわたしを抱き上げ、私の酷い有り様に怒りで顔を真っ赤にした。
「貴様…!!」
風雅が詩亜を振り返った。
「なっ!?なんでここがっ……!!」
吹き飛んだ時に痛めたらしい腕を押さえ、立ち上がりながら詩亜が言った。
ヒュワッとオッターリンが詩亜と私達の間を浮遊する。
「おのれごときの脆弱な結界を、この大賢者オッターリンが見通せぬわけがあるまい。愚者めが。」
オッターリン!!
かっけぇ!!
またヒュワッと風が吹いたとおもったら、私の側に豹か何かが居た。
……チーター……?
ああ…もうだめ。
やっぱりコレ、全部夢だね?
「創世神様!!なんというおいたわしいすがた!!このチータリア、すぐに治癒魔法をかけますゆえ!!」
そう言いながら、チーターの手が光る。
肉球はなくて、毛の生えた指が5本…。
フワリと温かな光りに包まれたら、あちこち痛くて頭が朦朧としてたのが瞬時になくなった。
体が重くて思うようには動かないんだけど、とりあえず傷と痛みはなくなった。
「…痛く…ない…やっぱ、夢…」
「夢じゃない!!理沙っ!!良かった!!」
ガバリと風雅に抱きしめられた。
「ふ……なんで…来たのっ…。」
「なんで!?来るに決まってるだろうが!!」
「また…死んじゃったらどうするの……っ!私のせいで、死んじゃったら…!!」
「お前を守って死ねるんだったら本望だ!!何回だって死んでやる!!てか、もう死なねぇし死なせねぇ!!……ん?……また…?」
「ゴメン…風雅…私のせいで…!」
それしかセリフが出てこない。
「…思い出したのか…?」
風雅の声が震えている。
「うん…ごめん…。ごめん風雅……。」
「理沙のせいじゃねぇだろ!?あの女の頭がおかしいのはあの女のせいだ!理沙は関係ない!俺が死んだのは理沙のせいじゃない!」
「イチャイチャしてんじゃねぇよっ!!状況わかってんのか!!」
詩亜が叫んだ。
死神みたいなのが2体、詩亜のそばにブン!と現れた。
ちょっと怪我をしてて、ボロボロだ。
元々なのかもしれないけど。
「パトリシア様!申し訳ごさいません!足止めに失敗しました!!」
「この役立たず!!今から挽回しなっ!!」
「はっ!!」
死神が両手を開くと黒ずんだ紫の何かが両手の間にひろがっった。
アレは当たったらダメなやつだって、ド素人でもわかる。
「チータリア、理沙を頼む。理沙、すぐ終わらせるからちょっと待ってろ。」
私に優しく言った風雅が、ユラリと立ち上がった。
怒りの真っ赤なオーラが立ち上ってる。
「おおぅ。魔王を倒した時ぐらいのパワーですねぇ」
チータリアと呼ばれたチーターがつぶやいた。
「恋人同士の再会を遮るなんて、てめぇこそ状況わかってんのか、このバカ女。」
詩亜がギリィ…と歯ぎしりした。
「……ずっと聞きたかったことがあるのよ。」
「俺はテメェに話してぇことなんかネェよ。」
「くっ…!その女の!!理沙なんかのどこがいいの!?ブスだしバカだしキモいし、私に勝ってるとこなんか一つもないじゃない!!理沙でいいなら、私の方がずっといいじゃない!先輩のこと、好きなのかどうかもハッキリしない適当な女だよ!?だったら、あなたを心底好きな私でいいじゃないのっ!!」
そうだ。
そうだと思う。
何で私なんかにかまうの?
風雅のシャツの左そでは肘から先が破けて無い。
多分、上であの死神と戦った時にやられたあと、治癒したんだ。
治ったって、シャツがあんなボロボロになるほどの攻撃を受けたんだもの。
痛かったはず。
私なんかに関わったがために。
だから、詩亜のいうとおりなんだ。
私なんか、消えればいい。
頭の中でそう思った瞬間。
両手と両足が、ズン…と重くなった。
横でチーターの悲鳴が聞こえる。
「創世神様っ!!理沙様!!何っ!!何なのこれはっ!!勇者さまぁあ!!創世主様の一大事ですぅ!!」




