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恋愛キャンセル界隈に元勇者は無用(もちろん使役獣も)  作者: 紅かおるこ(ハノーバー)
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16 引き続き憎悪の中に、居る。

詩亜の過去回想、後編です。

先輩のマンションの地下で待ち伏せして、刺して、刺して、もっと滅多刺しにしてやらなきゃと思って振りかぶったら、先輩が間に飛び込んできた。

とっさに止まれなくて刺しちゃった。


絶望したのなんのって。

まさか彼を刺してしまうなんて!

刃渡り25センチの出刃包丁で背中から一突き。

救急車を呼ばなければならない。

でもそしたら、この事件がバレちゃう。

理沙だけなら、殺して埋めたって誰も探しやしないのに。

そう思った瞬間。

地下駐車場だというのに、どこからか一羽の鳥が舞い込んできた。


その鳥が耳障りな声で鳴くと、ブワッと風が吹いて景色が一変した。


そして気がついたらアタシは異世界にいた。


勇者が先輩によく似てるって気がついた時には、嬉しくて叫んじゃったよ。

神様がついに、アタシにご褒美をくれたんだなって。

ついてない人生ばっか与えて、ゴメンなって、やっと思ってくれたのかぁ~って。

聖女なんて超チートだったし、勇者はヤバすぎかっこよすぎで、毎日楽しいったらなかった。

どうやらアタシは理沙が書いた超くだらない小説の中に飛ばされたみたいなんだけど、適当に読んでたからか設定がちょっと違う。

だいたい、アイツの小説には聖女なんて出てこなかったと思う。

でも、大筋は同じだったから、アタシの『予言能力』の素晴らしさは皆に女王様みたいに讃えられたよ。


魔王討伐も勇者強すぎチョチョイのチョイだったし、さぁ、これで聖女と勇者の結婚式かぁ!?

と、思ったら、どうなったと思う!?

勇者への報奨は、理沙そっくりの、姫との結婚だとよ!

勇者のやつ、アタシというものがありながら、あっという間に恋に落ちたし!!

憎くて憎くて、魔王を閉じ込めたブラックホールにその女を閉じ込めてやろうと思ったのに、見つかって処刑されかける始末。

見張り役の神官を誘惑して、牢から逃げて、なんとかこっちの世界に帰ってきた。


…つもりだった。


ところが、帰ってきたのは前とは別の世界。

なにせ理沙が生きてる。

「願い星の園」に園長はいなくて、出入りの職員数名と、管理者で運営されてた。

理沙の金を管理者がくすねてたのは前の通り。


アタシの頭の中に、()()()の不在中に起こった出来事が『記憶』として流れ込んでくる。

アタシは『小枝恵(こえだめぐむ)』という男に養女に出されたことになっていた。

アタシに脅された管理者が、復讐のつもりで組んだ養子縁組らしい。

小枝はロリコンじじいだった。

管理者も小枝も、前の世界の『園長』より転がしやすかった。

小枝はアタシの色仕掛けにひっかかって、当時未成年であったアタシに、()()()()()()()()ことをしたのだ。

アタシに動画撮影されているとも知らずに。

「この動画、世に出したら、あんたの社会人生命、オワリだねぇ?」

というわけで小枝のジジイは、絶対アタシに逆らえない。

アタシに言われるとおりに理沙をこきつかい、ボーナスはアタシに振り込まれ、残業代も私に。

給与振り込み口座が二つ存在することさえ、世間知らずで馬鹿な理沙は知らない。

あいつが稼いだ金で、アタシは生活してる。

なんといっても、アタシはこの世界で()()()()、聖女として覚醒したことになるんだから。


藤井先輩とまではいかなくてもハイスペイケメン見つけてやるよ!って思った。

アタシが帰ってきた時には藤井先輩はこの世界には存在していなかった。

先輩と出会ったボルダリングサークルの写真にも写ってない。


ある日、机の上に飾りっぱなしにしてあったその写真に、藤井先輩が現れた。

(先輩、帰ってきたんだ!!)

アタシは狂喜乱舞した。

だって、どこをどう探しても、やっぱり藤井先輩ほどの男なんて見つからなかったんだもん。

問題は、理沙だ。

あの二人がドコでどう出会ったか、アタシは知らない。

()()藤井先輩が何を考えているのかわからない。

けど、多分、あの人は理沙のところに帰ってきたんだと思う。

二人が出会う前に、今度こそ理沙を始末しないと!


藤井先輩が存在しないんだから、生かしておいても害はないと野放しにしてたのは失敗だった。

あの女の不幸そうな様子を高みから見物するのは胸のすく思がして生かしておいたのだ。

小枝に『藤井風雅(かぜまさ)』という男を雇うように指示した。

その『風雅』はもちろんアタシ。

気持ちの悪いスライムを頭からかぶって、完璧に先輩に変身した。

二人の出会いを潰してやろうと先輩本人に変身して理沙を毎日見張ってた。

愚図で鈍い理沙は、()()()と同じ空間で働いているというのに気づきもしない。

それでいいのよ!

似合うわけないんだもん!

アンタはそうやって、ダサイ服きて、ボロいアパートで、必死で生きてるのがお似合いなんだって!

ダサくて哀れな理沙を眺めて過ごす毎日は最高だった。

ある日、フジマール・コーポレーションから、『藤井風雅(ふうが)』という派遣社員を3ヶ月ほど雇うように依頼する(実質命令する)電話が入った。

電話に出たのがアタシでよかった。

「所長は不在ですので、そのように申し伝えます。」

そう言って電話を切った。

ヤバイ。

急がないと。

理沙と出会うために、先輩は強引に理沙の会社に乗り込んでくるんだ。


ぷっくりと膨らんだ憎悪が、また、体を食い破る勢いで肥大化した。

その次の日だ。

理沙がアタシの机に付箋を貼ったのは。


アタシは今日明日中に決着をつけると心に決めた。

理沙を始末して、そのあとは理沙になりすまして、藤井先輩のとなりで生きていく。

そう決めた。


それなのに呼び出したはずの理沙が姿を消した。


しまった!!

アタシの手の届かないところに保護された!?


歯噛みして、どう手を打とうかと考えていたら、理沙からメッセージが。


ああ…理沙…。

テメェが馬鹿で、本当に助かったよ……。

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