相対の時 その①
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翌日。
授業を受けていた俺は、校内放送で理事長に呼び出された。
逸る気持ちを抑えながら学園の正面玄関へ向かうと、理事長がオープンカーの運転席で待っていた。
「理事長……車、直ったんですね」
「壊れてしまったときのことを想定して、同じ車を3台持っているんです。これは2台目」
マジか。
意外と金持ってるんだな、大鳥家って。
「では行きましょうか、又野さん」
「いや、ちょっと待ってください。同行したい人がいるんです」
「コンピューター研究部のみなさんですか?」
「いえ、匂宮をもっと昔から知っている人です」
背後から重たい足音が近づいてくる。
「お待たせして申し訳ありません。よろしくお願いいたします」
そう言って現れたのは、麻里さんだった。
いつものメイド服姿―――に加え、背中には異様な殺気を放つ長方形のバッグ、脇にはやたら存在感のある大きめのショルダーバッグを抱えていた。
「……………」
「又野さん、この方も一緒に?」
「え、ええ。匂宮を助けたい気持ちは同じですから」
「そうですか……あの、すみませんけど対物ライフルとショットガンは置いていってくださいね。さすがに怪しまれますから」
理事長の言葉に意外そうな表情を浮かべる麻里さん。
「え。これからお嬢様を攫った相手を襲撃すると言うのにですか?」
「……あなたたちは大鳥家の代理としてあいさつに行くんですよね?」
「あ、あれ? 又野さん、そんな話でしたっけ!?」
麻里さんが助けを求めるように俺を見る。
「一応、そう伝えたつもりだったんですけど……」
「し、失礼しました。そういうことであればこちらは持っていけませんね」
麻里さんが抱えていたバッグをアスファルトの地面におろすと、ゴトッ、という殺人的な音が上がった。
それだけではなく、麻里さんはメイド服の裾を持ち上げると、白い太腿に仕込まれていたホルスターから拳銃を抜き取り、地面に捨てた。同時に裾の裏側から手榴弾が数個転がり落ちてくる。
「……麻里さん、あなた何者なんですか?」
「私はただのメイドにすぎません」
「にしては殺意が高すぎるというか……」
「この程度、メイドの嗜みですよ」
そうなのか。
俺の中のメイドの概念が180度変わった。
「準備が出来たようなら行きましょーか。約束の時間が迫っていますし」
「はい。お願いします、理事長」
俺たちはそれぞれオープンカーに乗り込んだ。
理事長がエンジンを掛け、アクセルを踏む。
オープンカーが重たい排気音を響かせながら発進する。
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