世界を革命する力を その④
とにかく今は大鳥理事長を追いかけよう。
いくつも階段を駆け上がり、屋上のドアを開く。鍵はかかっていなかった。
「大鳥理事長……!」
「どうしました、又野さん」
そう答える大鳥理事長は、フェンスに身体を預けるように座りながらビール缶を啜っていた。
「匂宮家へは俺一人で行きます」
「そうなるんじゃないかと思ってましたよぉ。今回の事件、結局はすべてあなたの個人的な問題に集約されますからね。決着をつける資格があるのはあなただけだと、私は思っていますよ」
「決着をつける……」
「あなたの父親との決着。匂宮さんと匂宮グループとの決着。あなたの過去を、あなた自身が清算する。そういう時が来たんです。羨ましいです」
「羨ましいって、どういう意味ですか?」
「私は私の運命に決着をつけることができなかった。ただ、大鳥家の人間としての役割を果たしてきただけです。あなたは違う。あなた自身の意思で、自分の運命を決められる。それを羨ましいと思わないで何と思うというんです?」
ふふ、と大鳥理事長は笑みを漏らした。
「……運命とか過去の清算とかはよく分かりません。ただ俺は、匂宮を取り戻したいだけです」
「その意思自体に、私は敬意を表しますよ。私には出来ない決断ですから」
理事長の目がどこか遠くを見つめる。
ふと気になって、俺は尋ねてみた。
「もし大鳥理事長が俺とおなじ立場だったらどうするんですか?」
「どうもしないと思いますよ」即答だった。「私なら諦めます。相手はクーデターによって匂宮グループの全権を掌握している。仮に大鳥家のような弱小グループが盾つくような真似をすれば、その意思を表明した時点でおしまいですからね。家の存続すら危ぶまれます」
「それなのに俺たちに協力してくれるんですか?」
理事長が再び俺に顔を向ける。
「何の話かよく分かりませんねぇ。私はただ、匂宮家の代表へご挨拶に、自分の代理人としてわが校の優秀な生徒を向かわせるだけですよ。しかし、挨拶に二度目はありません。チャンスはこの一度だけと考えてください」
「分かってます。必ず匂宮を取り返します」
俺が言うと、理事長はビール缶片手に立ち上がった。
「あまり気負いすぎるのもいけませんよ。この世の中にはどうしても手に入らないものもあるのです。もちろん、欲しいものに手を伸ばす権利は誰にでもありますけどね」
理事長は俺の横を通り過ぎ、屋上のドアを開ける。
「どこへ行くんですか?」
「理事長室に戻ります。君を匂宮代表に会わせることができるよう、準備が必要でしょうからね。明日中には匂宮本家へ向かいますよ。そのときが来ればお知らせしますから、又野さんもそのつもりでいてください」
「……はい。ありがとうございます、理事長」
「構いませんよ。生徒の期待に応えるのが理事長の仕事ですから」
颯爽と身を翻し、理事長が階段を降りていく。
らしくないくらいカッコいいな、なんて思った直後、大きなものが階段を転がり落ちる音が聞こえた。
きっと理事長が足を滑らせたのだろう。俺は慌てて階段に駆け寄り、階下を見下ろした。
「大丈夫ですか、理事長!?」
あおむけの状態で廊下に寝そべった理事長が、俺の方に親指を向ける。
「心配いりません。私に任せておいて下さい」
……任せて大丈夫だろうか。
いや、今はもう理事長しか頼れる人がいない。何が何でも理事長にどうにかしてもらうしかない。
俺は階段を降り、起き上がろうとする理事長に手を貸した。
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