世界を革命する力を その②
「そうですか……」
理事長は机の上の灰皿で、短くなった煙草をもみ消す。
それに被せるようなタイミングで牛山が言う。
「しかし、行ってどうする? 確かに何もしなければ状況は悪化するばかりだろうが、かと言って策もなく敵地に向かっても成果は上げられないだろう」
「………」
牛山の言う通りだ。
このままいけば匂宮と会うことはできるかもしれないけれど、秋川から匂宮を取り戻すことにはつながらない。
「それでも……匂宮に会うことで何かが変わるかもしれない」
「又野君……」
「無駄に終わるかもしれないけれど、とにかく匂宮に会う。どうにかして匂宮を取り返すきっかけにする」
「つまり、又野君は世界を革命するつもりなんですね?」唐突に理事長が呟いた。「自分自身の手で、自分が置かれた状況を変えようとしているんですね?」
「……そんな難しいことは考えていません。ただ、匂宮を助けたいと思ってるだけです」
「なるほど、あなたの気持ちはよく分かりました。とりあえず、私は匂宮本家に連絡をしておきましょう。細かいところはあなたたちで話し合ってください」
そう言うと、理事長は缶ビールを片手にふらりと立ち上がり、理事長室から出て行ってしまった。
俺は牛山と炭原さんの表情を伺い見た。
二人とも、何も言おうとはしなかった。
「とにかく俺は匂宮に会う。秋川の手から匂宮を取り戻すことはできないかもしれないけど」
理事長室に静寂が訪れる。
少し間を置いてから、牛山が答えた。
「君の言うことに異論は無いよ。僕にもいいアイデアがあるわけじゃない。企業の乗っ取りを企てるような人間にどうすれば勝てるかなんて―――いや、いずれ僕もT牛グループを背負って立つ身。いずれはそんな権力争いを勝ち抜く戦略を身につけなきゃならないんだろうけどね」
「企業内の争いっていうのがどんなものかは知らないけど、秋川は異常だよ。あの男とは俺がカタを付けるべきなんだ。俺の―――遺伝子上の父親だから」
「又野君、あまり思い詰めてはいけないよ。コンピューター研究部は君の味方だ」
「分かってる。俺、理事長を追いかけてくるよ。細かい日程とか聞いておかないといけないし」
俺は二人に背を向け、理事長室を出た。
匂宮に会いに行けば、あの男も現れる。そうすれば何らかの決着が着く―――そんな気がした。
恐らく理事長は屋上へ向かったのだろう。あの人は屋上なら飲酒して良いと思ってるところがあるから……。
「又野先輩!」
背後から呼び止められる。
炭原さんだ。