ラブコメみたいな日々のおわり その①
いよいよ最終章突入です!!!
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コンピューター研究部の存続が決まってから数か月が過ぎた。
いくらかの充足感を残しつつも、俺達には日常が戻っていた。
そんな日の朝、俺は匂宮の部屋をノックし、尋ねた。
「匂宮、準備できたか?」
「もう少し待って頂戴。制服のリボンが見当たらないの。麻里、私のリボン知らないかしら」
ドアの向こうから匂宮の返事が聞こえる。
それに反応するように、リビングの方から麻里さんが駆けて来た。
「こちらです、お嬢様! 失礼します!」
「え、ま、麻里! ドアを開けてはいけないわ!」
しかし、既に麻里さんの右手はドアノブに掛かっていた。
匂宮の部屋のドアがまるで天岩戸のように開いた。
その向こうにいたのは、ブラウスのボタンを両手で留めようとしている匂宮―――で、その傍らには制服のスカートがあった。
つまり、匂宮の上半身こそブラウスに包まれていたが、それより下は下着だけという姿だった。
下着の色は――そうか、白か。
匂宮と目が合う。
その顔がみるみる赤くなっていく。
いや、俺を借金地獄から救ってくれた恩人の恥じらう姿を綿密に描写することに一抹の罪悪感を覚えなくもないが、既に見えちゃってるんだからしょうがない。
「………又野君、先に行っていてくれるかしら」
周知を押し殺したような震えた声で、匂宮が言う。
「分かった、そうする」
俺は匂宮の部屋に背を向け、玄関へ向かった。
背後で麻里さんが何度も謝る声が聞こえた。
うーん、サービスサービス。
とにかく先に行けという話だから、先に行かせてもらおう。
今日もきっと何気ない普通の日になる。
それが一番だと思う。
匂宮と同じ教室で授業を受けて、放課後は牛山たちと部活をする。
で、帰り道はカフェかどこかによってくだらない話で盛り上がればいい。
俺の母親が死んでから学校を退学になって、俺を助けてくれた女の子も不幸な目に遭って―――そんな理不尽な毎日から、俺は逃れることができたのだ。
きっとこれからは良いことしかないだろう。匂宮も幸せになれる。
別に根拠があるわけじゃないけど、そんな風に明るい未来を思い描いて罰が当たるなんてことはないだろう。
通学バッグを片手にマンションのドアを開けた。
「久しぶりだな、又野さわる君。私の遺伝子上の息子」
周囲の空気をも凍り付かせるような、冷たい声音が響いた。
同時に俺の胸のあたりに金属製の何かが押しあてられた。
太陽を遮るように、マンションのドアの前に立っていたのは――――忘れられるはずもない、あの男だった。
「秋川……!」