コンピューター研究部の一番長い日 その③
※
破竹の勢い――というのはこういうことを言うのだろう。
気付けばもう、俺たちは優勝まであと一歩のところに迫っていた。
残りの敵チームは1つだけ。それを倒せば優勝だ。
「二人ともスゴいぞ。もう俺なんかいてもいなくても同じようなもんだな」
「そんなことないわ。チームは全員そろっているからこそ意味があるの。今だって、又野くんにしかできない役割があるわ」
「俺にしかできない?」
「ええ、ここまでの戦いで、敵は私と炭原さんを重点的に警戒している。それを逆手に取るの。最後のチームと接敵したら、ここで私たちが敵の注意を引いておくから、又野くんはその隙に裏へ回り込んで」
「ああ、わかった」
俺は匂宮たちと別行動を取り、建物の陰に潜伏する。
「――来たわ」
「では時間を稼ぎますね。これで、向こうは私たちが二人しか残ってないと思ってるはずです」
匂宮と炭原さんが最後の敵チームを抑えてくれている間、俺は単独で裏へ回り込む。
「準備オッケーだ」
「いよいよトドメね。思いっきりやっちゃって」
「よし、いくぞ!」
今は亡き牛山の分も――いや、別に死んでないけど!
俺は敵の背後から飛び出し銃弾の雨を浴びせる。
作戦は見事に決まり、敵は全滅。画面には試合終了を知らせる文字が表示された。
「……勝った……ってことは」
「私たちの優勝ですよ! 又野先輩!」
「そうだよな……やった!」
俺たちは席を立って互いにハイタッチを交わす。
「やりましたね!」
「ああ、大活躍だったな、炭原さん!」
「いえいえ、私なんかより匂宮先輩ですよ!」
「私だけじゃないわ。全員の力で勝ったのよ。牛山くんが事前に情報収集をしてくれていたおかげで、敵の戦略に嵌められることもなかったしね」
「そうだな、まさに総力戦だった」
俺は観客席に目を向け、我らが部長を探す。
そこには。
怪我のことをすっかり忘れ、嬉しそうに手を振って痛がっている牛山の姿があった。
※
後日談――というか、まあ、正確にいえば、試合終了から数時間後の帰り道でのこと。
「そういえば……又野先輩の秘策ってなんだったんですか?
「え?」
「ほら、試合前に匂宮先輩が言ってたじゃないですか。だから私、先輩がなにか良い作戦を練ってるのかと思ったんですけど、試合では使いませんでしたよね?」
「ああ……俺の秘策は常時発動してる感じだから」
「パッシブってことですか?」
「そんな感じ」
「よくわかんないです」
「いいんだよ、分かんなくて」
試合は無事に終わったんだから、説明するのは野暮ってものだ。
「それにしても、匂宮先輩が来てくださって助かりました。まさか部長があんなことになるなんて」
「惜しい人物を亡くしたな。将来は偉大な人物になっただろうに」
「生きてるんだが僕は」
牛山が横からヌッと顔を出して訂正する。
思いのほか近くに居て多少びっくりした。
そんな俺にお構いなしに、牛山はハイテンションな口調で続ける。
「今日は本当に良い日だった! 素晴らしい部員に恵まれて、僕は幸せだ!」
「匂宮先輩は、牛山先輩がこういう調子に乗りやすいタイプの方だから、万が一のことを考えて練習してらしたんですか?」
「おいおい、失礼だな。僕はただ、我々コン研の輝かしい未来に思いを馳せてスキップしながら帰っていたら転んだだけだ」
「ほらぁ、もう……。やっぱり匂宮先輩は、私たちの誰かが出場できなくなる可能性を考慮してたんですよー」
「そうね。そうかもしれないわ」
「それってすごいです。だって、もし何事もなかったら努力が無駄になっちゃうのに」
「ふふ、それでも備えるだけの価値がある部活ってことよ」
「そうだったのか。俺はてっきり、自分だけ遊んでないと仲間外れにされるかもしれないから、部活に来た時に会話へ入るために始めたのかと思った」
それでたまたま、そのスキルが役に立ったのかと。
「………………そんなわけないでしょう、子供じゃあるまいし」
匂宮は目を顔ごと逸らして、そっぽを向きながら言う。
「…………」
怪しいなぁ。
でも、ま、理由なんてなんでもいいか。
なんだかんだで楽しかったしな。
これにて一件落着ってことで。
だからまあ。
大鳥理事長が顧問を続けてくれるようになったことと。
たまにサボるために部室にやってくるようになったことと。
匂宮が再び外へ出られるようになって、放課後の部室が四人体制になったことと。
毎回、毎回、部室のソファで誰が俺の隣に座るかで揉めたことは――
また別の話だ。
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