コンピューター研究部の一番長い日 その②
「匂宮、せっかく来てくれたのにごめん。ちょっとトラブルがあって、優勝は難しいかも」
「このどんよりした空気を見ればわかるわ。牛山くんが怪我をして戦えないんでしょう?」
「その通りだ。すべて台無しにしてしまって申し訳ない……」
「謝らないで。でもね、諦めるのはまだ早いわ――とっておきの秘策を、用意してあるの」
「「「……秘策?」」」
自信ありげに口角を上げる匂宮の言葉に、俺と牛山と炭原さんの声が綺麗に重なる。
「秘策って……すごく腕のいい医者を知ってる、とか?」
「いいえ、牛山くんの代わりに私が出るわ」
「……なるほどな」
その気持はありがたい。
ありがたいのだが……。
「匂宮、それはちょっと厳しいんじゃないかな……」
「厳しい? 私だって一応ここの部員なんだから、出場資格はあるでしょう?」
「いや、そうだけどさ。そうじゃなくて、現実的に、いくらなんでも初心者がいきなり出場するのは無謀すぎるっていうか……」
「初心者じゃないわ」
強い意志の込もった口調で。
匂宮は言い放った。
「三人一組で構成された複数チームでのバトルロワイアル。大会はトーナメント形式ではなく、同じメンバーで何度も試合を繰り返して、一番最初に既定のスコアへ到達したチームが優勝。そうでしょ?」
「な、なんでそこまで詳しく知って……」
「勉強して、練習したから」
「……え?」
「以前、又野くんの話を聞いてから、私も一か月間ずっと練習してたの。時間だけでいえば、又野くんたちよりもやりこんでるわよ?」
「…………」
あの手のマメは、それでか。
どうりで同じような位置にできてると思った。
「私だってこの部の一員だもの。存続の危機である以上、力になりたいと思うのは当たり前でしょう? だから一応、控えメンバーがいた方が良いかと思ってね」
「それで練習してたのか……」
「ええ、又野くんの秘策と私の秘策が揃った以上――負けるはずがないわ」
※
「あ、やばっ! 俺やられそう!」
「マズいですね、すぐに先輩の援護に行きたいんですけど、私も別の敵と戦闘中で……どうにか耐えて下さ――」
「又野くん、伏せて」
パァン!
言われるがまま地面に伏せた俺のキャラクターの頭上を掠めて、匂宮のスナイパーライフルの弾丸が通過した。
それはわずかな狂いもなく、俺を追い詰めていた敵プレイヤーへと直撃する。
「大丈夫、又野くん?」
「た、助かった……ありがとう」
「……意外とすごいんですね、匂宮先輩……」
一回戦。順位――一位。
キル数。匂宮7。炭原5。俺2。
※
「ヤバいです、私のところに二人で攻めてきました! 援護をお願いします!」
「よーしわかった! すぐに行く!」
「待って。この開けたエリアで戦うのは良くないわ。炭原さん、こっちまで下がってこれる?」
「やってみます! …………よし、体力はかなり削られましたけど、なんとか無事です」
「匂宮、戦わなくて良かったのか?」
「ええ、だってほら」
「……うわ」
先程まで炭原さんがいたエリアは、銃声を聞きつけて集まったチームたちで大乱戦になっていた。
「あの混戦が終わるまで待って――最後に生き残ったチームだけを攻撃しましょう」
二回戦。順位――一位。
キル数。匂宮8。炭原7。俺3。
※