外の世界へ… その①
それから俺たちは。
一か月、毎日練習を重ね、初心者だった俺もそこそこ戦えるようになってきた。
牛山は元々それなりに遊んでいたらしいので、上達の幅は俺よりも大きい。
そしてなにより、炭原さんだ。
彼女は練習開始時から凄まじい能力を誇っていたが、現在、さらにその強さに磨きがかかっている。
これ、案外イケるんじゃないか?
「では、明日の大会に備えて、今日は英気を養うように!」
「わかりました」
「了解だ」
「よし、では解散!」
と。
牛山が部長らしい挨拶で締め、本日の部活動は終了。
「お疲れさまでしたー。それでは先輩方、お先に失礼します」
「ああ、お疲れさま」
「うむ、さらばだ」
ペコリと頭を下げて退室する炭原さんを見送りつつ、俺たちも帰り支度を済ませる。
「よし、帰るか、牛山」
「ああ、しっかり鍵をかけて……と。これで盤石だ」
部室の戸締りを終え、俺たちは人気のない廊下を歩いていく。
いよいよ明日か……。
「いよいよ明日だな、又野くん」
「え? あぁ……うん」
びっくりした。
どうやら牛山も同じことを考えていたらしい。
「明日の大会を迎える前に、僕は君に言っておきたいことがある」
「なに?」
「又野君がいなければ、我がコンピューター研究部はもっと早い段階で、なんのスペクタクルもなくひっそりと、その活動を終えていただろう。だから君には感謝している。本当にありがとう」
「何を言い出すかと思えば……らしくないな」
「そうか? 僕は割と真摯な人間だという自覚があるんだが」
「そういうことはさ、全部が無事に終わってから言うもんだよ」
「なるほどな。僕としたことが、少し感傷的になってしまったか。おほん、では取り直しだ。こういう大事を控えている時にふさわしい言葉を語ろうではないか」
「聞かせてくれ」
「僕はな――この戦いが終わったら結婚しようと思ってる」
「おいおい……そんなあからさまなフラグ立てるなよ」
あと、そんないい笑顔で言うな。
※
「ただいま」
「おかえりなさい、又野くん」
自宅の玄関先にて。
半日ぶりに会えた俺に抱き着こうと、ウズウズしている匂宮。
彼女はこの一か月で、ハグというものを「俺が靴を脱いで、手を洗って、リビングにカバンを置いて『よし』」と言うまで我慢できるようになった。
家の中にいる間ずっとベッタリだった頃と比べると、すさまじい成長だと言える。
なにせトイレやお風呂に付いてこられるのを、恥ずかしがるようになったのだ。
……まあ、それを「成長」と呼ぶのが倫理的に正しいか分からないが。
ともあれ。
良い意味で――匂宮は昔の彼女に近づいている。
あとはきっかけさえあれば、きっと。
きっかけ――か。
「さぁさぁ、早く上がって。今日も話したいことがたくさんあるの」
「あぁ……うん」
「……どうしたの?」
俺の雰囲気がいつもと違うことを感じ取り、不思議そうに首を傾げる匂宮。
そんな彼女に、俺はある提案をしてみる。
「匂宮、今からちょっと散歩にでも行かない?」
「そ、外に出るの?」
「怖い?」
「…………」
匂宮は目を伏せて沈黙する。
怖くない――と否定はしない。
だが。
怖い――とは言わなかった。
以前のように、外界を拒絶しようとは、しなかった。
だから、今ならきっと大丈夫。
一人で出る勇気がないのなら、誰かと一緒だっていいのだ。
俺は匂宮の右手を自らの左手で優しく握り――手を繋いだ。
「又野くん……?」
「大丈夫だ。外にいる間、絶対に離さないから」
「…………うん」
笑顔で頷いて。
匂宮は靴を履き、俺に手を引かれて外へ出た。
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