ラブコメみたいな日々 その⑧
「そ、それってマズいですよね……」
「いいや、なんら問題はない。顧問がいなければ廃部ということは、顧問がいれば存続ということだ」
「そ、そりゃそうだけどさ……ねぇ?」
「はい……」
二人とも考えていることは同じらしく、俺は炭原さんと目が合った。
「大半の先生は既に、どこかしらの顧問を担当されていますから……お願いする場合は掛け持ち、ということになりますけど……皆さんお忙しいでしょうし、とても無理じゃないですか?」
「そうだよなぁ……」
俺は腕を組んで途方に暮れる。
暇を持て余している生徒はいても、暇を持て余している先生などいるはずもない。
この学園に、暇そうな大人なんて――
あ。
一人だけ心当たりがあるかも。
※
「……なるほど、事情は分かりました」
俺があらかたの説明を終えると。
大鳥理事長は座っていた豪奢な椅子に、ギシッと背中を預ける。
思案中、という様子だ。
あれからほんの数分、俺は牛山と炭原さんに心当たりについて話し、その後、交渉のために一人で理事長室を訪れていた。
「――まあ、我が校の学生がより良い学校生活を送れるように努力するのが、私の一番の仕事ですからね」
「おぉ、だったら……!」
「ですが今回はお断りします」
「ありがとうございま――あれ?」
思っていた返事と違うぞ?
勝手に口から出ていた感謝の言葉をひとまず飲み込み、質問してみる。
「ちょ、ちょっと待ってください。なんでダメなんですか? もしかして、既に他の部活を担当しているとか?」
「いいえ、どこも」
「なら、どうして? 今、割とオッケー貰えそうな雰囲気だったんですけど……」
「気のせいです。パチンコと一緒です」
「演出なんですか、今の……」
『CR理事長』なの?
だが、それなら当たるまでトライし続けるだけだ。
「名前だけでいいんです。部室へ来る必要はありませんから」
「私、これでも割と忙しいんですよ?」
「俺、理事長が仕事してるシーンが記憶に残ってないんですけど」
なんかいつも、片手に缶チューハイやタバコといった嗜好品を携えてるイメージがある。
「うっ……! 痛いところを突いてきますね……しかし、あれは不可抗力です。私だって好きで堕落しているわけではありません。仕事のストレスを中和するために、仕方なく、あくまで仕方なく嗜んでいるのです」
「はぁ……」
「なんですかその目は。まるで『ダメな大人』を見るような目をしてますけど」
「理事長、これは『駄目な大人』を見る目です」
「ダメを漢字にしないでください! 本当に救いようが無いみたいじゃないですか……!」
焦った様子でそう言って、気持ちを落ち着けるためだろうか、理事長は胸元のポケットからタバコの箱を取り出した。
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