ラブコメみたいな日々 その⑥
俺は相手に数発、牽制射撃を行って威嚇した。
これで相手は迂闊に顔を出せなくなっただろう。おそらく味方の援護を待つ方針に切り替えたはず。
その隙を衝くべく、俺は隠れていた遮蔽から飛び出して距離を詰める。
そして狙い通り、相手は俺が仕掛けてくると思っていなかったらしく、こちらに対しての反応が少し遅れた。
その一瞬が命取りだ!
「おぉ、初めての戦闘でいきなり倒せた!」
「すごいです。先輩、良いセンスしてますよ」
「待たせたな(低音)」
「あ、すごい。似てます。似てますけど……」
「?」
「先輩のキャラ、モノマネをしている間に敵二人に囲まれてます……」
「マジか」
お互いに三人チームだから、一人倒しても油断できないシステムになっている、と。
「先輩が一対一で戦っている間、向こうは二対二で戦っていたみたいですね。既にこっちの仲間は倒されてます」
「ということは、あとは俺一人だけか。いいね、燃えてきた。絶対に生き残ってやるとも!」
まあ。
そんな威勢のいい啖呵を切ったところで。
俺が初心者であることに変わりはなく、多勢に無勢であっけなくやられてしまった。
俺はコントローラーをソファに置いて頭を抱える。
「くぁー、ダメだったか」
「でもナイスファイトです。とても初心者とは思えないですよ」
「いやいや、炭原さんのアドバイスのおかげだって」
「これならすぐに上達します。私たちが組んだら無敵ですね。今の戦いを見てて思ったんですけど、先輩は少し高めの感度が合うかもしれません。私に設定させていただけます?」
「あ、それはぜひお願いした――あっ」
俺が、置いていたコントローラーを持って渡そうとするのと、炭原さんが自分で取ろうと手を伸ばしたのは、ほぼ同時だった。
必然的に、お互いの手が触れてしまう。
「ごめん。すまない。申し訳ない。決して悪気があったわけじゃなくて……」
「あ、いえ、全然いやじゃないので、平気です」
「え? ああ、ならよかったけど……」
年頃の女の子だし、好きでもない奴に触られるのは嫌だろうなぁと思って平謝りしてみたが、なぜか空振りに終わった。
……終わったのは別にいいんだけど。
今度は、なぜか密着した手が離れない。
俺の手の上に炭原さんの手が重なっている形なので、彼女が先に離してくれないと俺もどかし辛いのだ。
「……先輩、たとえばの話ですけど」
「え?」
「先輩のことを好きな女の子がいたとして、でもその子はどうしても素直に好きって言えないんです。そういう子のこと、どう思いますか?」
「どう思いますかって言われても――――」
炭原さんの顔を見てみると、心なしかその頬は紅潮していた。
「えっと、なんか、どきどき――しますね」
「……あのー、炭原さん?」
「先輩」
ぐいっ、と。
炭原さんは俺に顔を近づけ――囁くような声色で言う。
「じゃあ逆に、先輩は私のこと、どう思ってますか?」
「ど、どうって……」
人気のない放課後の部室で。
可愛い後輩の女の子と二人きり。
どこか見覚えのあるような澄んだ瞳に見つめられて。
なんかもう、自分以外にも聞こえているんじゃないかってくらい心臓がドキドキしている。
けどダメだ。俺には匂宮が……!
「その、実は……私、又野のことが好――」
「いやーーー! おはよう諸君!!!」
青色の春を帯びた静寂を打ち破って。
ついでにそのまま人様の鼓膜も破りそうな大声と共に。
部長である牛山が意気揚々と部室に入って来た。
うるせぇ……!
直近の、炭原さんの囁き声との対比で余計にうるさい。
まあ、いきなりの大声にびっくりした炭原さんが小動物用のような速度で俺から離れたため、牛山に気づかれずに済んだのは幸いだった。