ラブコメみたいな日々 その⑤
「又野先輩、これで私の十連勝目ですけど……」
炭原さんは申し訳なさそうに言う。
それはおおよそ勝負事の勝者とは思えない控えめな態度だったが、無理もない。
なにせ本日、俺は彼女に一度も黒星を付けられていない。
パズルゲームも、格闘ゲームも、レースゲームも完敗とは。
この強さ、牛山の比じゃない。
「なんか……相手にならなくてすまない……」
「あ、ちょ、そんなに落ち込まないでください。又野先輩はすごいです。これだけボコボコにされても立ち向かってくる方、私、初めてです」
「それってぜんぜん褒めてなくない?」
「ご、ごめんなさい。一応、褒めたつもりだったんですけど……」
炭原さんはより一層、申し訳なさそうに背中を丸める。
カワイイ。
さて、負けた腹いせに後輩をいじめるのはこれくらいにしておこう。
ゲームチェンジだ。
「ねぇ炭原さん、昨日やってたFPS、俺もやってみようかと思ってるんだけどさ、よかったらコツとか教えてくれない?」
「あ、先輩も始めちゃいますか?」
「ああ、あれならそのうちパーティを組んで協力プレイもできるしね」
対戦ではなく共闘なら、炭原さんに複雑な思いをさせずに済むはず。
俺は件のゲームを起動し、さっそく戦いに赴こうとする。
すると。
「待ってください。先に感度を合わせた方がいいです」
「感度?」
「はい。キャラクターの視点を動かす速度のことです。これが自分に合ってないと本来の力を発揮できません。まずは中間あたりでプレイしてみて、それから少しずつ合わせていけばいいと思います」
「なるほどね。おっけー理解した」
俺はひとまずアドバイス通りに設定し、今度こそ戦場に赴く。
「あの辺、人がたくさん降りて行ってるな」
「はい。いわゆる激戦区ってやつですね。ああいう所は私でも生き残るのに苦労します」
「そうか。じゃあ避けた方が良いんだな」
「ってわけでもないですよ。ああいうところには強力な武器が集まる傾向にありますから、もし生き残ることが出来れば得られるものも大きいんです。どちらにせよ、守ってばかりでは勝てませんから」
「敢えて死地に向かうという選択もあるってことか」
炭原さんの言葉で闘志に火が付き、俺は激戦区に向かって突っ込む。
「先輩、勇気ありますね」
「ああ、けど勇気と無謀は違うからな」
「……それ、どっちかというと私のセリフだと思いますけど」
「ん、来たか」
これは決して後輩のツッコミを無視したわけではなく、降りて武器を拾うやいなや接敵したため、やむなく会話を中断しただけだ。
「お互いに遮蔽に隠れてて、そこそこ距離もある。ダラダラと撃ち合っていれば他の敵が援軍に来るだろうな。ここは味方の援護を待って一斉に……」
「いえ、他の味方はまだ武器が手に入っていないみたいです。ここは先輩が行くしかないですよ」
「初心者だし、姫プレイをと思ったんだけど」
「守ってもらえると思ったら負けですよ、先輩」
「肝に銘じておこう」
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