俺と令嬢はひかれあう その③
※
「絶対うそよ」
「うそじゃない」
薄暗い六畳一間(1K・トイレ風呂付)――つまり、俺の部屋。
俺と匂宮はちゃぶ台を挟んで向かい合っていた。
ちゃぶ台の上にはカップラーメンが二つ。
「あの固形の物体が3分待つだけで食べられるようになるなんてありえないわ」
「俺の主食にケチをつける気か?」
「私が空腹なのを良いことに、変なものを食べさせようという算段なのかしら。親切なひとだと思ったけれど見損なったわ」
「どうかな? 逆に見直すことになるかもしれないぜ」
「ふん。そんなことは3分待ってみれば分かることだわ。あなたと私どちらが正しいのか、はっきりさせましょう」
「良いだろう。約束の3分まであと5、4,3,2,1……ゼロだ」
俺と匂宮は同時にカップラーメンの蓋を開けた。
匂宮が息を呑む音が聞こえた。
「―――確かに見た目は麺料理ね。そこは認めるわ。でも味はどうかしら」
「試してみろよ」
俺は匂宮に箸を差し出す。
「たったの3分で美味なものが出来るなんて、そんなのはもう魔法よ」
匂宮は箸を取ると、挑戦的な目つきで俺を見つめたまま麺を啜る。
その瞬間、表情が変わった。
「―――魔法だわ!」
「フッ、どうやら俺の勝ちみたいだな」
「く――悔しい! でも箸が進んじゃう!」
ずるずるとカップ麺を啜る匂宮。
俺もそれに続こうと箸を取る。
が、ふた口も食べると自分の置かれた状況のヤバさに気付き始めた。
……痴漢冤罪で退学ってどういうことだよ!
俺の人生めちゃくちゃだよ!
挙句の果てに1000万円の借金。
詰んだ……。
こうなったら、樹海でキャンプでもしながら暮らすとするか……。
「又野くん、どうしたの? さっきから全然食べていないようだけれど」
「ああ……ちょっと思い出したくないこと思い出しちゃってな」
「何? 学校に忘れ物でもしたのかしら?」
「学校はもう行かなくていいんだ。退学になったから」
「退学? そんなに悪いことをしたの? 人は見かけによらないって本当だったのね。で、何をしたの?」
「ち……痴漢」
すっ、と匂宮が一歩下がった。
「まあ―――気の迷いというのは誰にもあるわよね。私、気にしないわ」
「その割にちょっとずつ俺から離れていってますよね? 身体は正直だなあ?」
「又野くん、本当に痴漢したの?」
「……冤罪なんだよ。別に俺は何もしてないんだけど、勝手にそういうことにされちゃったっていうか」
「あ、そう。そんなことだろうと思ったわ。ひどい話もあるものね」
言いながら、匂宮は元の位置に戻って来た。
本当に正直な奴だ。