新入生 その②
「……やるじゃないか、牛山」
「君の成長性もなかなかのものだよ、又野くん」
「じゃあ、最終ラウンドとしゃれこもうか」
「望むところだ」
そして画面に『FINAL ROUND』の文字が表示された瞬間、俺たちの背後でドアが開く音が聞こえた。
「……あのー、すみません。コンピューター研究部の部室ってここですか?」
突然聞こえた女子の声に、俺と牛山は同時に後ろを振り返った。
そこに立っていたのは、ショートヘアの前髪に赤いヘアピンを付けた、同級生くらいの女の子だった。
俺は牛山の方を見た。
「……知り合いか?」
「いや、僕は君の知り合いかと……」
「そんなわけないだろ」
「なるほどね。では、ここは僕が部長として」
そう言って牛山は咳払いをし、ソファか立ち上がった。
女の子は不安そうに牛山を見つめている。
「やあ、そんなに緊張しないでくれ。君の言う通りここはコンピューター研究部の部室だよ。入部希望なのかな?」
「は……はい、一応」
牛山が僕の方を見た。
その目が、『この子を部員として確保できればコンピューター研究部は部として存続できる、やったね又野くん!』と言っている―――かどうかは分からないが、多分似たようなことを考えていると思う。
「そうかそうか。僕は牛山。そしてこちらが又野くん」
「どうも、又野です」
俺は少女に向かって少し頭を下げた。
「……又野さわるさんですか」
えっ、なんかめっちゃこっち見てる。
もしかして俺の知り合い? いやでも、こんな知り合いに覚えはないけど……。
「ところで君は?」
牛山の質問に、少女が慌てたように答える。
「ああ、すみません。私は炭原冬優です。一年です」
「一年……ってことは新入生?」
「はい。といっても、つい最近転入してきたんです。それからずっとこの部活のことが気になってて」
「そ、そうか! いや嬉しいよ炭原さん。さあこっちに座って、飲み物を用意するよ。コーヒーと紅茶と牛丼ならどれが良い?」
「え? ええ……それなら紅茶で」
牛山は壁際に置かれていたポットでお湯を沸かし始めた。
「又野くん、お湯が沸くまで炭原さんの相手を頼む」
「俺が? ……ええと、とりあえず座れよ、炭原さん」
「は、はい。失礼します」
そう言って炭原さんは俺の隣に座った。他に空いている椅子があるにもかかわらず。
めっちゃ距離詰めてくる、この人……。
話題に困った俺は牛山の方を見た。
牛山はポット横の籠の中から紅茶のパックを選ぶ作業に集中して、こっちの方を気にも留めないでいる。……ダージリンでもアッサムでもどっちでもいいだろ、今。この微妙な空気をどうにかしてくれよ。
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