対面の時 その④
「あなたが来てから、来夢の精神は非常に安定していたと聞いているわ。学校にも行けたそうじゃない?」
「……ああ、はい。まあ」
「だから私たちは、あなたを信頼している来夢を信じることにしたの」
「来夢? 匂宮を?」
「ええ、そうよ。来夢は将来匂宮グループを継ぐ存在。あの子があなたをパートナーに選んだのなら、あなたにはそれだけの資質があるはず」
俺に、資質?
一体何の?
「そう深く考えなくていい。君はこれまで通り来夢の傍に居てやってくれればいいんだよ。これは匂宮グループの代表としての依頼でもある。もし君が望むのなら契約書も発行しよう」
「い、いや、そこまでは……でも、良いんですか?」
「良いさ。君の身柄は匂宮グループが預かる。それとも、来夢とはもう関わりたくないかい?」
「まさか。匂宮は俺を救ってくれました。その恩は、俺の一生をかけて返すつもりです」
俺が言うと、匂宮の両親は顔を見合わせ満足げに頷いた。
「君の言葉が偽りのないものだと信じるよ。とにかく来夢のことは任せた。僕らはグループの信用回復に注力させてもらう」
「グループの信用、ですか」
「我々匂宮の一族は、匂宮グループという巨大な生き物を動かすための生贄さ。僕らが来夢に代表を任せて海外へ行かなければならなかったのもそれが理由だ。来夢を休ませるのも、将来的にはグループのためになるから―――ここで、父親として娘を守るため、と言いきれないのが辛いところだね」
「…………」
「そういったことも踏まえ、匂宮一族ではない君が来夢の傍にいてくれるのがベストな選択ということだよ。来夢のことは君に任せる」
匂宮の父親は、俺を正面から見つめながら、そう言った。
※※※
「色々大変みたいじゃないか」
牛山が、残像が生じるほどの速度でコントローラーのボタンを連打する。
「ああ、それなりにはね」
画面の中の、俺が操作するキャラがなすすべもなく攻撃され、体力ゲージが一瞬で削られていく。
「引っ越したんだろ? 新居はどう?」
「不満は無いよ。でも、匂宮がさ……」
匂宮の両親が用意してくれたマンションは、大鳥学院の近郊にあった。
その内装とか間取りとか立地とかには何の不満もないし、むしろ流石お金持ちという感じだったのだけれど、たとえ住む場所が変わっても匂宮の精神的な不安定さが回復するわけじゃなかった。
結局昨日もすっと俺に付きまとっていて、でなければ部屋に引きこもっているかのどちらかだった。
「学校に来られないのは残念だけど、きっと休息が必要なんだよ、彼女には。誘拐騒動から業績改ざん問題、そして代表交代だろう? ここ数日で色々なことが起こりすぎていると思わないか?」
「それは同感」
一瞬の隙をついて、牛山が操作するキャラに投げ技を発動する。
そのまま壁際に追い込み、下段の弱攻撃を連発した。
牛山のキャラは壁と俺のキャラとの間に挟まれ行動できなくなり、体力ゲージもそのままゼロになる。
「……又野くん、ハメ技は卑怯だと思わないか?」
「自分の得意なゲームでしか勝負を持ち掛けてこないのもズルいと思わないか?」
「もしかして練習したのかい?」
「牛山が部室に居ない間、少しずつな」
俺の言葉に、牛山がニヤリと笑う。
「やるじゃないか。それでこそ又野くんだ」
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