対面の時 その③
「さあ来夢、食事が終わったら部屋に戻って荷物の準備をしなさい。あとは全部僕と母さんに任せて」
「ええ。行きましょう、又野君」
「あ、ああ」
匂宮に言われ立ち上がると、匂宮の母親に呼び止められた。
「又野君は少し残ってくださるかしら。お話ししたいことがあるの」
「……俺に、ですか?」
「ええ。ごめんね、来夢」
「でしたら私、先に部屋に戻っておきます。またあとでね、又野君」
そう言い残し、匂宮がダイニングルームを出て行く。
それを見て、父親は麻里さんの方へ身体を向けた。
「悪いが麻里も席を外してくれないか?」
「承知しました、ご主人様」
麻里さんも匂宮の後を追うように部屋を出て、残されたのは俺と匂宮の両親だけになった。
奇妙な沈黙の中、匂宮の父親は鷹揚なしぐさで俺に椅子に座るよう促すと、自分もその向かい側に座った。続いて匂宮の母親がその隣に腰かける。
「まずは感謝をしなければならないな。誘拐事件の際、娘を助けてくれてありがとう」
整った造形の顔を俺に向けながら、匂宮の父親は言った。
「いえ、まあ……半分は俺のせい、みたいなものですから」
「君のせい? ……ああ、君の父親とされる人物のことを言っているのかな?」
「!」
やっぱりこの人も、秋川のことを知ってるのか。
「本当に恐ろしい人物だよ、彼は。だが彼と君は別人だろう? 責任を感じることはないさ」
「でも……匂宮が誘拐されたのは、匂宮があいつから俺を救ってくれたから、その復讐で……」
「主観的な考えで物事を判断してしまうのは良くないな、又野君。あの誘拐事件は匂宮グループの情報収集能力をもってしてもまだ真相は謎のままだ。もちろん君の遺伝子上の父親が関わっている可能性というのは否定できないがね」
「そうなんですか……」
「かといって、僕らも君を完全に信頼してしまうわけにはいかない。あの人物と繋がっているという可能性もまた否定できないからね」
まあ、そうか。
当たり前だよな。
秋川が俺の父親であることは事実だもんな。
疑われるのも無理はない。
「でも、だからと言ってあなたを来夢の傍から離すつもりもないのよ」
そう言ったのは、匂宮の母親だった。
「え?」