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対面の時 その①


「とにかく朝飯食えよ。せっかく麻里さんが作ってくれてるのに、冷めるぞ」

「分かったわ。あーん」


 俺の肩に顎を乗せ、口を開ける匂宮。


 皿の上のトマトをフォークで刺し、その口の中へ入れてやると、匂宮は美味しそうに顎を動かした。


「食べ物くらい自分で食べたらどうだ?」

「そんな重労働、私にはできないわ。フォークを握るのでさえ精一杯だもの」

「代表の仕事の方がよほど重労働に思えるけど?」

「その仕事のせいで、食事をするエネルギーも残っていないのよ」

「だったら仕方ないな」


 パンを千切って匂宮の口の中へ入れてやる。


 匂宮は嬉しそうにパンを咀嚼する。


 まるで餌付けみたいだな……。


 ふと麻里さんの方へ顔を向けると、俺と目が合ったことに気付いた彼女は困ったように微笑を浮かべた。


 あの誘拐未遂事件とグループ内の不祥事。その反動で匂宮がこうなってしまったのだと思うと、匂宮を責められない。


 というか、誰にも責める資格はないはずだ。


 結局のところ、彼女は一人で重圧と戦ったのだから。


 その重圧を肩代わりできる人間は誰一人としていないのだから。


 いるとすれば―――匂宮の両親くらいだろうか。


 そういえば何をしているんだろう。海外に行っているとかいう話は聞いた覚えがあるけれど……。


「やあ。帰ったよ」


 ダイニングルームの扉が開く。


 びっくりしたような挙動で、匂宮が俺から離れる。


 扉の方を振り返ると、そこにはカジュアルなジャケットを羽織った男性と、動きやすそうなワンピース姿の女性が立っていた。


 一体何者―――というか、この人たち、どことなく匂宮に似ているような―――。


「お父様、お母様……!」


 目を大きく開き、匂宮が呟く。


「え。この人たちが、匂宮の?」

「君の話は聞いているよ、又野さわる君」


 お、俺の名前まで!


 パンを握ったままだったことに気付き、俺は右手に握っていたそれを皿の上に戻した。


「なんで俺の名前、知ってるんですか?」


 質問すると、男性――匂宮の父親は、柔和な笑みを浮かべながら答えた。


「娘を救ってくれた恩人だからね、覚えていて当然だろ? まさかこの屋敷に住まわせるとまでは思わなかったが」

「……ど、どうも。お世話になっています。又野さわるです」

「そうかしこまらないで良いのよ」安心するような声音で、匂宮の母親が言う。「娘がお世話になっていることについては感謝しているの。たとえあなたのバックグラウンドがどうであろうともね」

「………!」


 俺は自分の顔が強張るのを感じた。


 一方で、匂宮の両親は表情を変えない。


 この辺りの冷静さは匂宮と同じだ。



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『お前のように怠け者で醜い女は必要ない』と婚約破棄されたので、これからは辺境の王子様をお支えすることにいたします。
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