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『私たちは世界を革命するしかないでしょう』




 下校時間になり、牛山と二人で校舎を出た俺は何気なく屋上を見上げた。


 すると、フェンスに凭れるピンクの髪の人物と目があった。


 理事長だ。


 彼女は俺に向かって片手を挙げ、手招きをした。


 俺を呼んでいるのだろうか。


 ちなみにもう片方の手には円柱の何かを握っていた。ここからじゃよく見えないけれど、恐らくはビールかチューハイの缶だろう。


「すまん、牛山。ちょっと忘れものだ」

「それはいけないな。待っておこうか?」

「いや、探すのに時間がかかりそうだから先に帰っておいてくれ」

「分かったよ。また明日学校で会おう、又野くん。匂宮さんにもよろしく」

「ああ。またな」


 牛山は手を振りながら、校門の方向へと歩いて行った。


 俺はそれを見送り、校舎へ戻って屋上へと向かった。


 扉の鍵は開いていて、ドアを開けると強い風が吹き込んできた。


「……ど、どうも、又野さん」


 ピンクの髪をはためかせながら、理事長は言った。


 白いブラウスの胸元を大きくはだけている。


 ……………意外とサイズがある。


「こんにちは、理事長。こんなところで何をしているんですか?」

「えっ? あ、いや、アルコールの毒性を確かめていたんですよ。大人になってもこんなものに依存してはいけませんよ、又野さん」


 そう言って理事長は缶チューハイを飲み干し、ぐしゃっ、と空き缶を握りつぶした。


「あの――俺に用があるのかと思って来たんですけど」

「あ、ああ、ごめんなさい。帰っている途中にわざわざ来てもらって。理事長として確認しておきたいことがあったんです」

「確認ですか?」

「は、はい。匂宮さんの様子です。今日は欠席みたいでしたから……。やはりショックを受けているんでしょう?」

「ええ、まあ……あんなことがあった後ですから」

「そうですか……仕方のないことかもしれませんね」


 ずるずるとフェンスに身体を擦りつけるようにしながら、理事長は床に座り込んだ。


「秋川家の人間が関係しているんですか?」


 俺は先日の理事長の話を思い出しながら言った。


 財閥同士の勢力争いの陰に、秋川家の姿があった―――。


「あ、あくまでも私の推測です。大財閥の匂宮家の監視網を潜り抜けられるとすれば、そうした手の内を知っている存在しかないと思ったんですよ。ちょうど因縁が出来たばかりのようでしたからね」

「因縁……。秋川代表補佐の件ですか?」


 俺の言葉に、理事長は顔を上げた。


 そして俺の顔をまっすぐに見つめる。


「あなたの父親の件、ですね」

「……遺伝子上の父親というだけです。あの男も、俺のことをそう言っていました。いや、話が逸れましたね。理事長が仰りたいのは、秋川家があの男の復讐のために匂宮を襲ったってことですか?」


 ゆっくりと首を振る理事長。


「まさか。失態を犯した人間のために動くほど秋川家はウェットな組織じゃありませんよ」

「じゃあ誰が……」

「誰がも何も……一人しかいないでしょう」


 缶を地面に置き、理事長は煙草に火をつけた。


 屋上の風に乗り煙が宙を舞う。


「………あの男、ですか」

「まあ、あくまでも私の考えですよ」


 秋川が?


 なんで? 


 いや、そんなの決まってる。復讐のためだ。


 消息不明って聞いたけど、死んだわけじゃなかったんだ。


 泣いている匂宮の顔が思い浮かんだ。


 匂宮を怖い目に遭わせて、何が楽しいんだ?


 なんでそんなことを―――なんで。


「なんであの男が、俺の父親なんですか……?」

「そこに理由は無いと思いますよ。あるのは、父親だという事実だけです」

「……………」

「一本、どうですか?」


 理事長が俺に細長い煙草を差し出す。


「未成年に喫煙を進めるのは犯罪ですよ」

「おっと」


 慌てて煙草のケースを引っ込める理事長。


「……匂宮は、明日は学校に行けると思いますか?」

「難しいでしょうね。心の傷というものはそう簡単に治るものじゃありませんから」

「まるで経験者みたいな言い方ですね?」


 理事長は何も答えず、空に向かって煙を吐いた。


 遠くで烏が鳴いている声が聞こえた。


 しばらくして、理事長は呟くように言った。


「私たちのように行き詰ってしまった人間は、誰かが環境を一変させてくれることを期待するしかない―――いうなれば、誰かが世界を革命してくれるときを待つしかないんですよ」




読んでいただきありがとうございます!


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『お前のように怠け者で醜い女は必要ない』と婚約破棄されたので、これからは辺境の王子様をお支えすることにいたします。
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