令嬢とデート その⑤
「そうなのか……」
大彌はどうなったんだろう。
それを匂宮に尋ねようとしたとき、ちょうどコーヒーが運ばれてきた。
店員さんが俺と匂宮の前にそれぞれカップを置いて、サンドイッチは少々お待ちくださいと告げて立ち去っていく。
「いい香りね。いただきましょう、又野くん」
「あ――ああ」
疑問と一緒に、俺はコーヒーを呑み込んだ。
苦みも強すぎず、かといって薄味というわけでもない。飲みやすい、ちょうどいい風味だ。
匂宮も、あら、と声を上げる。
「麻里が淹れてくれるコーヒーが世界で一番だと思っていたけれど、こちらもこちらで味わい深いわね」
「そうだな。価格もそんなに高いわけじゃないみたいだし、通うのにちょうどいいかもしれないな」
「又野くんはこういうお店、よく来ていたの?」
「いや、何かの付き合いで一、二回来たことがあるだけだな。ほとんど初めてだよ」
「高校生って、普通はこういうところで何をするのかしら?」
「何だろうな……。俺も友達多かったわけじゃないから分からないけど、テスト前の勉強とかを集まってやってるところは見たことあるかな」
「ああ、テスト勉強。定期テスト対策ということかしら?」
「そんなところだ」
俺は誘われたことなかったけど。
いや、別に僻んでるわけじゃねえし。むしろ一人の方が勉強捗るタイプだし。
「それじゃ、またテスト前になったら来ましょうね」
「ああ、それも良いだろうけど……別に匂宮の家で良いんじゃないのか? 同じ敷地内にいるわけだし」
あっ、と匂宮が気づいたように目を大きく開ける。
「そうだったわね。私たち、同じところに住んでいたのよね」
「だから……そうだな。テストが終わってから来たらいいんじゃないか。ご褒美みたいな意味合いで」
「ええ、そうしましょう。ふふ」
突然、匂宮は声を漏らすようにして笑った。
「なんだよ、急に変な笑い方して」
「嬉しいのよ。なんだか普通の高校生みたいじゃない、私たち」
「ああ―――まあ、そうかもな」
まさかこの美味しそうにコーヒーを口にする少女が、財閥の令嬢とは思わないだろう。
「このままずっと、二人で居られたらいいのに」
窓の外へ視線を向けながらそう呟く匂宮を見て、俺は無意識のうちに声を上げていた。
「……あのさ、匂宮」
「何かしら?」
「俺にして欲しいことがあったら何でも言ってくれ。一緒に喫茶店でコーヒーを飲むくらいなら、いつだって出来るから」
俺の言葉に、匂宮ははにかんだように笑う。
「……ありがとう。嬉しいわ」
そのとき、店員さんがサンドイッチのセットを運んできた。
高級感のあるお皿に、彩りよくサンドイッチが並んでいる。
わあ、半分こしましょう、半分こ、と、匂宮は楽しそうに言った。
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