令嬢とデート その④
「人気のあるお店なのね」
辺りをきょろきょろと見渡しながら、匂宮が言った。
今日の匂宮は春らしい暖色系の、チェック柄のワンピースを着ていた。
鮮やかな金髪はポニーテールにしていて、唇には薄いピンクのリップを塗っている。
その美少女ぶりは言うまでもないだろう。さっきから周囲の客が匂宮を盗み見しているくらいだ。
「注文はどうする? 一応コーヒーのサービス券はあるけど……っていうか、匂宮ってコーヒー飲めるのか? ココアとかに変えられないのかな、これ」
「もう。子ども扱いしないで欲しいわね。コーヒーくらい飲めるわよ。今朝も一緒に飲んできたじゃない」
匂宮はくすくすと笑いながら言った。
その表情があまりにも可愛らしすぎて、俺はメニューに片手を伸ばしたまま一瞬固まってしまった。
我に返って、慌ててメニューを開く。
「じゃ、じゃあ、食べ物は? 昼飯まだだし、何か頼むだろ?」
「サンドイッチのセットをいただこうかしら。又野くんは?」
「そうだな……あ、サンドイッチのセットって2種類あるみたいだけど、どっちにする?」
「AセットとBセットがあるのね。……Aセットにはハムチーズのサンドがあるけれど、Bセットは代わりに卵サンドが……どうしよう、迷うわ」
真剣な顔でメニューをみつめる匂宮。
「だったら、俺がAセットを頼むから匂宮はBセットを頼めよ。半分ずつ食べれば両方食べれるだろ」
俺が言うと、匂宮は顔を輝かせた。
「天才だわ、又野くん。そうしましょう」
頷いて、俺は店員さんを呼んで注文を伝える。
メニューを元の位置に戻していると、不意に匂宮が口を開いた。
「又野くんのお母様ってどんな人だったの?」
「え……俺の母親?」
唐突な質問に、俺は思わず訊き返していた。
「そう。亡くなっている……のよね?」
「ああ、俺が中学に入学してすぐだったな」
ソファで倒れていた様子を今でも鮮明に覚えている。
震える手で救急車を呼んだ時にはもう、遅かった。
「優しい人だったんでしょう?」
いくつもパートを掛け持ちして、夜寝る間もないくらい忙しかったはずだけれど、家にいる時はいつも笑顔で疲れた様子なんて少しも見せなかった。
「いや……優しいというよりも、強い人だったんだと思う。とにかく良い母親だったよ。俺が――もう少し早く、無理してることに気づいてやれてればよかったのかな」
「亡くなられたのは残念なことだけれど、その強さや優しさは又野くんに受け継がれていると思うわ」
「……それなら良いんだが。っていうか、なんで急にこんな話を?」
「いえ、ちょっと気になっただけよ。又野くん、お父様には全然似ていないもの。お母様の方に似ているのかなって」
「ほとんど会ったことのない父親だったからな。今は何してるんだろうな」
「行方不明だそうよ」
「え」
予想外の言葉だった。
驚いている俺を他所に、匂宮は話を続ける。
「つい先日、そんな話を聞いたわ。消息もつかめないんですって」




