令嬢とデート その②
「どうした? 何かあったのか?」
「い、いえ、別にそんなことはないのだけれど」
と、匂宮は言い淀む。
それから思い切ったように声を上げた。
「ねえ又野くん、週末の予定は空いているかしら」
「週末? 空いてるけど……」
そもそも予定を立てるとかいう発想がなかった。
ごほん、と匂宮が咳払いをする。
「えーとそれはつまり、又野くんは次の土曜と日曜は暇だということね?」
「つまるもつまらないもなく、まあ、そういう意味だけど」
「要するに、私とどこかへ出かけることも可能ということよね?」
「もちろん可能だけど――え?」
「う、うまく伝わっていないようね。言い換えましょうか。又野くんは、週末、私とお出かけをします」
「……………」
お出かけを―――します?
えっと、ちょっと待って、理解できない。
お出かけって――デートってことか?
俺が何も答えられずにいると、匂宮の表情がだんだん不安そうになってきて、ついには目元に涙を浮かべながら、
「………………………もしかして、イヤ?」
「いやいやいや、全然嫌じゃないし。むしろ喜んで行くし」
「そ、そう。良かったわ。パートナーなのに一緒にどこかへ出かけたこともないなんておかしいと思っていたのよ――ああ、違うわね。ごめんなさい。財閥の代表なんて肩書があるとどうしても素直に物を言えなくなるのよ。本当は、その……又野くんと二人でお出かけしたいと思ったのよ」
まるで何かに言い訳をするみたいに、匂宮は早口でそう言った。
何に対しての言い訳なのか分からないが。
「じゃあ、どうする? どこに行くんだ?」
「こ――こういうとき、ふつうはどこに行くのかしら」
確かに。
虚無的で退廃的な自堕落じみた生活ばかり送って来たから、高校生の男女が休日に訪れるような場所を具体的に思い浮かべることができない。
そのとき、不意に、俺の脳裏に牛山の不健康そうな顔が浮かんだ。
なんで牛山が―――?
脳内の牛山が俺に告げる。
『若年層向けの喫茶チェーン店を全国展開する予定なんだ。ぜひ来てくれないか―――例えば、女の子と二人で、とか』
ああそうか、そういうことだったんだな牛山。
ゲッ〇ー線を浴びた人類のごとく、俺はすべてを理解した。
脳内の牛山が俺にウインクをする。
「そういえば俺、牛山から喫茶店のサービス券もらったんだよな。ちょっと行ってみないか」