令嬢とデート その①
「とにかく、あと一人くらいなら僕が頑張ればどうにかなりそうだ。コンピューター研究部の存続への協力、感謝するよ」
深々と頭を下げる牛山。
「部員、見つかると良いな」
「君たちの協力に報いるためにも必ず見つけてみせるさ」
あら、と匂宮が声を上げる。
「そろそろ麻里が迎えに来てくれる時間だわ。牛山君、悪いけれど私たち、この辺りでお暇するわね」
「ああ、長居させてしまってすまないな。……今日は匂宮さんが来てくれてよかったよ。学級委員長としては心配していたんだ」
牛山の言葉に、匂宮が一瞬だけ表情を強張らせた――が、すぐに微笑を浮かべ、答える。
「ありがとう。お心遣い痛み入るわ。さて行きましょうか、又野くん」
「あ――ああ」
匂宮の後を追うようにして、俺は部室を出た。
廊下はまだ生徒たちで賑わっていて、まるでお祭りがみたいな活気だった。
部室棟の扉を潜り、駐車場まで歩いて来たところで、匂宮は大きくため息をついた。
「どうしたんだ? やっぱり鞄が重たかったのか?」
「違うわよ。一日中授業を受けたのは久しぶりだったから疲れたの。学校、あんまり通ってこなかったから」
言われてみれば確かに。
真面目に学校行ってるやつが平日真昼間の公園にいるはずないもんな。
「でも仕方ないんじゃないのか? 匂宮って財閥の代表なんだろ? そっちの仕事とかもあるだろうし」
「そう言ってくれると嬉しいのだけれど、そればかりを言い訳にはできないわよね」
はあ、と匂宮がため息をつく。
「お迎えに上がりましたよ、お二人とも」
振り返ると、そこには麻里さんが立っていた。
「ああ、ありがとうございます麻里さん。お弁当、美味しかったですよ」
「それは良かったです。また明日も楽しみにしていてくださいね」
麻里さんはそう言って笑顔を浮かべた。
※
大鳥学院での一日が終わり、俺は匂宮家の屋敷に帰って来た。
麻里さんが用意してくれた部屋着に着替え、ふかふかのベッドに横になる。
うーん。
現実味無いなあ。
ベッドから起き上がり、窓の外を眺めた。
広大な庭と、その向こうの街並みが一望できる。
あの薄暗い六畳一間とは大違いだ。
「現実味ないなあ……」
声に出したことで、現実味がないことの現実感が増した。
不意に部屋をノックする音が聞こえて、俺は立ち上がりドアを開けた。
「少しいいかしら、又野くん」
扉の向こうに居たのは匂宮だった。