僕はまあ、なんか色々少ない。 その③
「俺、パソコンなんて全然詳しくないけど大丈夫なのか?」
「そんなこと気にしないでくれ。とりあえず入部さえしてくれればいいんだ。あとはこの部室も、パソコンも自由に使ってくれて構わない」
牛山に言われ、俺は机の上のパソコンを見た。
かなり使い込まれた形跡のある、古い型のパソコンだ。
「こんなこと聞くのもなんだけど、なんでそんなにこの部活にこだわるんだ?」
「……実は、この部を立ち上げたのは僕の父なんだ」
「牛山の――親父さん?」
そうさ、と呟いて牛山は腕を組む。
「かれこれ30年近く前になるかな。これからはインターネットの時代になると予見した父は、学校側に掛け合ってこの部を創設したんだ。当時最新の機器と共にね。それから十数年、このコンピューター研究部は文化部の中でもトップクラスの人気を誇っていたんだ。だから、僕の代でその伝統を終わらせたくはないんだよ」
そうか。この部は牛山にとって思い入れのある部活なんだな。
俺は匂宮の方を見た。
彼女は俺と目が合うと、かすかに頷いた。
「……事情は分かったよ、牛山。俺で良ければ入部してもいいけど」
「本当か! 助かるよ又野君! いや、転校してきて早々すまないね。もちろん他に興味のある部活があれば兼部してもらっても構わないから!」
牛山は俺の手を取り、興奮した様子で上下に振った。
「よ、よせよ。そんなに感謝されるようなことじゃねえって。……匂宮はどうするんだ?」
「又野くんが入部するというなら、私も入部しないわけにはいかないわ。よろしくね、牛山君」
「ああ、ありがとう二人とも。いやあ今日は何て良い日なんだ。そうだ、これを貰ってくれ」
牛山が俺に手渡したのは、何かのチケットのようだった。
「これは?」
「ウチの看板メニュー、チーズ牛丼の温玉付きの無料券だよ。ぜひ食べに来てくれ」
「あ……ああ、ありがとう」
俺は無料券を制服のポケットにしまい込んだ。
「おっと、忘れていた。これも一緒に渡しておこう」
「ええと……こっちは何の無料券なんだ?」
「今度、ウチのグループ――T牛グループというんだけどね、業務拡大の一環として若者向けの喫茶店チェーンを展開する予定なんだ。ついこの間、その一号店がオープンしたんだけど、そこのコーヒーサービス券だよ。ぜひ行って、感想を聞かせてくれ」
「ああ、分かった。色々ありがとな」
「お礼を言われるまでもないさ。入部してくれてありがとう、二人とも」
「これでコンピューター研究部は廃部にならずに済むのか?」
俺の言葉に、牛山が表情を曇らせる。
「いや……実はまだ足りないんだ」
「え?」
「今、君たちを含めて部員は3人だろう? 少なくとも4人は部員が必要なんだよ」
「じゃあ、あと一人は部員を集める必要があるってことか?」
「そういうことになるね」
そうか、あと一人か……。
匂宮の権力でどうにかならないだろうか。
「……私はここではひとりの生徒に過ぎないから、どうすることもできないわよ」
「なんで俺の考えてることが分かったんだ……?」
「顔にそう書いてあったもの」
うっそお……。
そんなに分かり易い人間なの、俺って……。
「どうしたんだ又野君、そんなに自分の顔をベタベタ触って」
「えっ、いや、別に……」
秋川みたいに無表情すぎるのも不気味だけど、思っていることが表情に出すぎるのも問題だよな。今後は気を付けるとしよう。