僕はまあ、なんか色々少ない。 その①
「……良いと思うが……良いよな、牛山」
「当たり前じゃないか。人数は多い方が良いからね」
人数が多い方が良い?
その言い方に何か引っかかるものを感じないでもなかったが、まあ、ついて行って臓器売られるわけでもあるまいし、とりあえず気にしないことにした。
「というか匂宮も部活、やってなかったんだな」
「匂宮グループの業務があるのよ。定期的に顔を出さなきゃいけないような部活はまず出来ないわ。それに運動系の部活は体格差がありすぎて無理ね。私、飛び級生だから」
確かにそんな感じじゃ部活も出来ないよな。
エリートにはエリートなりの苦労があるということか。
「では行こうか二人とも。僕についてきてくれ」
牛山が鞄を片手に、颯爽と歩き出す。
「ちょっと待てよ、行くってどこに?」
「文化部の部室棟さ」
「そんなものがあるのか?」
文化部って空き教室とかで勝手に集まって部活やってるイメージあったけど……。
ひょっとすると俺が通ってた学校だけなのか?
「旧校舎を改修した建物があってね。様々な文化部が日々活動しているんだよ。さあ、ついてきてくれ。こっちだよ」
匂宮も両手で鞄を抱え、歩き出す。
男女で同じ鞄を使っているはずなのに、匂宮が持つと大荷物に見えた。
「……鞄、持ってやろうか?」
俺が言うと、
「このくらい持てるわよ」
と、怒ったように歩調を速めた――が、すぐに立ち止まり、こちらを振り返る。
「ごめんなさい、やっぱり持ってくれないかしら。少しの間でいいのだけれど」
※
匂宮の鞄は、結局俺が部室棟まで運んだ。
「中々趣深い建物だろう、又野君」
牛山が言う通り、部室棟はレンガ造りで瓦屋根のレトロ風なデザインだった。
「昭和初期に建てられた旧校舎のデザインをそのまま活かす形で改修したと聞いているわ」
匂宮が俺から鞄を受け取りながら言う。
「歴史ある建物なんだな」
「安全設備は最新のものを入れてあるそうだから安心して。鞄、ありがとね」
「大したことじゃない、気にするなよ」
部室棟の入口付近は、大勢の生徒で賑わっていた。
ひっきりなしに人が出入りしている。
中には私服姿の大人らしき人もいた。
「あの私服の人たちは何者なんだ?」
俺が訊くと、牛山が答えてくれた。
「あれは大学部の人たちだね。高校を卒業してもなお、部活をやめられないんだ。きっと彼らにとってかけがえのない場所なんだろうね」
「すごい話だな……」
「とにかく中に入ってみようじゃないか」
牛山は慣れた様子で部室棟へ足を踏み入れる。
両開きのガラス戸の向こうには、木造の廊下が続いていた。
中央には階段があって、二階、三階へと繋がっているようだ。