屋上にのぼって その④
「では大鳥理事長、業務へお戻りください」
「わ、分かりましたぁぁ!」
酒の空き缶を両腕に抱えながら、大鳥理事長は屋上から去っていった。
ちょうど風が吹いて来て、俺の足元にタバコの吸い殻が転がって来た。
まさか屋上で喫煙を……!?
「本当は優秀な方なのよ、彼女は」
「そうなのか? 失礼を承知で言うけど、あまりそうは見えないな」
「彼女は18歳のとき、MBAを取得しているわ」
「え……GBA?」
「何、それ?」
「いや、知らないなら別に……」
昔よく遊んだ携帯ゲーム機、GBA(GAME BASE ARTIFICIAL)。
懐かしいなあ。通信ケーブルを持ってる友達はそれだけで人気者になれたんだよな。
いつのまにか画面が二つあるゲーム機に立場を奪われてたけど。
「MBAというのは、経営学の大学院修士課程を修了した証明……要するに、彼女は18歳で大学院を卒業したということよ」
「へー、それはすごい」
「すごいはずなのにね……」
と、匂宮は足元に転がっていた空き缶を拾いあげる。
「まあ、アルコールの危険性はよく分かったよ」
「そう。じゃあ、食事を続けましょうか」
かくして俺たちは麻里さんの作ったお弁当を食べて、教室へ戻った。
※
「又野君、部活には入らないのかい?」
放課後、そう話しかけてきたのは牛山だった。
「部活?」
言われてみれば確かに、高校にはそんなものもあるんだった。
すっかり存在を忘れていた。
「前の学校では、何かやっていなかったのかい?」
「いや……帰宅部だったんだよ」
放課後に残ってまで秋川と同じ敷地内に居たくはなかったし、そもそも部活というものに興味もなかったし……。
「そうか。じゃあこの学校でも部活をやるつもりはないんだね?」
「ああ、まあ」
と言いかけて、ちょっと考える。
せっかく秋川から逃れられたんだし、部活くらい何かやってもいいかもしれない。
さすがに今から甲子園目指すとかは難しいだろうけど、気楽な感じの部活なら……。
「―――いや、何かやろうかなとは思ってるんだ。今はまだ考え中ってところかな」
俺が答えた瞬間、牛山の分厚い眼鏡の奥が光った。
「なるほど。では僕が部活を紹介させてもらっても構わないかな?」
「え? ああ、それは助かるけど……運動部とかはやめてくれよ。俺、経験ないし」
「文化系ってことだね。よし任せてくれ。早速行こう」
「あ、ちょっと待ってくれ。匂宮が」
帰りも麻里さんに迎えに来てもらう予定だ。時間が遅くなるなら伝えておかなければ。
そう思って俺が後ろを振り返ろうとするのと、匂宮が俺の袖を引くのが同時だった。
「その部活紹介とやらだけれど、私も同行していいかしら」