屋上にのぼって その②
「そうよ。一人になりたいときはよくここに来るの」
屋上からは大鳥学園学院の敷地内が一望できた。
涼しい風が吹いていて心地よかった。
「いい場所だな」
「そうでしょう」
匂宮が得意げに俺を見上げる。
「じゃあ早速、昼飯にするか」
フェンスの傍らのちょうどいい広さの場所に、俺は弁当の包みを置いた。
その包みを開けるとレジャーシートや紙皿と箸、そして弁当箱――というより重箱が入っていた。
レジャーシートを広げ、その真ん中に重箱を置き、皿と箸を匂宮に手渡す。
「ありがとう、又野くん」
「大したことじゃねえよ」
「では開けるわね」
匂宮が重箱の蓋を開けると、卵焼きや炒め物、煮物や焼き魚など色とりどりの料理が姿を現した。
重箱は全部で3段あり、一段目と二段目にそうしたおかず類が、三段目におにぎりや巻き寿司などのご飯類が詰め込まれていた。
食欲をそそる匂いがして、俺は思わず唾を呑んだ。
「すげえなこれ。食べていいのか?」
「当たり前よ」
「じゃあ遠慮なく……!」
唐揚げを一つ、自分の皿にとりわけ口へ運ぶ。
調理してから時間が経っているはずなのに、その食感やジューシーさは損なわれていなかった。
微かに香辛料の香りがして、それが更に食欲を増進させる。
ああなんてことだ、食べ始めているのにさらに腹がへっていくかのようだ!
そして俺は人間火力発電所だ!
次から次へ料理に箸が伸びていく。
こんな重箱みたいな弁当、絶対食べきれないと思っていたさっきまでの自分は間違っていた。
麻里さんと匂宮と、この世のすべての食材に感謝を込めていただくとしよう。
3つ目のおにぎりを口に運んだとき、匂宮が鈴のなるような声で笑った。
「ん、どうした?」
「又野くんって、本当に美味しそうに食べるのね。見ていて気持ちが良いわ」
「あ……いや、めちゃくちゃ美味かったからさ。よく考えたら手作りの弁当なんて食べるのも久しぶりだし」
「きっと麻里も喜ぶわよ。今度機会があれば、私も料理に挑戦してみようかしら。そのときは又野くんも食べてくれる?」
「当たり前だろ。俺は好き嫌いがないことが自慢なんだ」
「そう。楽しみだわ。では私も少しいただこうかしら」
匂宮は卵焼きを齧り、甘くておいしいわ、と笑みを浮かべた。
空は透き通るように青かった。
つい一昨日まで、人目を盗むようにしながらコンビニの弁当を食っていたのが嘘みたいだ。
そのとき、不意に甲高い金属音が聞こえた。




