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屋上にのぼって その①




 昼休み。


 トイレから戻ってきた俺を、教室の入口のところで匂宮が待っていた。


「どうした? 匂宮もトイレか?」

「そう訊かれても問題ないように、先に済ませておいたわ。ところで昼休みになったわね。お腹は空いていないかしら」

「え? ……ああ、実はそうなんだ。弁当買ってくるの忘れたなって思ってたところだったんだよ」


 朝は麻里さんが運転する黒塗りの高級車で送ってもらった。


 前の学校に通っていた頃は登校中にコンビニで何か買っていたのだけれど、すっかり失念して

いたのだった。


「麻里から二人で食べるようにとお弁当を作ってもらっているの」


 と、匂宮は背中に隠していた包みを取り出す。


 匂宮の身体を半分くらい覆ってしまうようなその包みの大きさに、俺は思わず尋ねていた。


「ええ……と、今日は運動会だったっけ?」

「いえ違うわ」

「じゃあ……修学旅行?」

「今日は平日よ。特にイベントは無いわ」


 麻里さん気合入りすぎだろ……!


 とにかく、と匂宮は言葉を続ける。


「い―――一緒に食べましょう、又野くん」

「ああ、ありがとう。弁当箱、持つよ」

「え? あ、うん、ありがとう……」


 匂宮が拍子抜けしたような顔をする。


「どうしたんだ? 調子悪いのか?」

「い、いえ。違うわよ。ただ……誰かを食事に誘うのは初めての経験だったというだけよ」

「ん……ああ、そうなのか」


 言われてみれば、俺も昼食を誰かに誘われたのは初めての経験だ。


「こ――これが初体験というやつなのかしら」

「いやそれはちょっと意味が違うと思う」


 弁当箱はそこそこの重みがあった。


 昼休み中に食べ終えることができるのだろうか、これ。


「では又野くん、私のとっておきの場所へ行きましょう」

「とっておきの場所?」

「そう。人があまり来ない、静かで落ち着ける場所よ」


 ちょっと待て、それってトイレの個室とかじゃないだろうな。


 二人で便所飯っていうのはさすがの俺も気が引けるぞ。


 それに匂宮は女子だから、便所は必然的に女子便所ってことになる。


 女子トイレで弁当たべるなんて、異常性癖にも程がある。


 性欲と食欲がいっぺんに満たせる的な発想なのだろうか。


 うーん、アブノーマルでアングラな世界だなあ。


 なんてことをぼんやり考えているうちに、匂宮は階段を上へ上へと昇っていき、到着したのは古びた扉の前だった。


「匂宮家の特権で、ここの鍵のスペアを預かっているのよ」


 そう言って匂宮は扉に鍵を差し込み、回した。


 扉が開き、その向こうに青空が広がっているのが見えた。


「……屋上か」



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『お前のように怠け者で醜い女は必要ない』と婚約破棄されたので、これからは辺境の王子様をお支えすることにいたします。
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