かつて姫だったもの その③
何、してんだ、あの人。
「どうしたの、又野くん」
匂宮が俺の方へ顔を近づける。
「いや、屋上に人が……」
そう言ってもう一度窓の外へ顔を向けたとき、屋上には誰もいなかった。
「人?」
「あ……あれ。見間違いかな」
「昨日から色々なことがあっているから、疲れているのよ。少し休んだら?」
「ああ、部屋に戻ったらそうするよ」
「屋敷に着くまで少し時間があるわ。横になっていたらどうかしら」
と、匂宮は自分の太ももに手を置く。
「え、何それどういうジェスチャー?」
「知らないの? 膝枕よ」
「いや概念としては知ってるけど……いいのか?」
「いいわよ。私はあなたのパートナーなのだから」
俺は匂宮の太ももへ視線をやった。
いや、視線をやったというと若干マイルドな表現になるけれど、実際はガン見した。
制服のスカートに覆われていても分かる、しなやかで柔らかそうな太もも―――に頭を乗せていいという許可をいただいたわけだ、俺は。
しかし一方で俺の中の理性が、年下の女の子にそんなことして良いのかという疑問を呈している。
だけど。
まあ。
いいか。
本人が良いって言ってるし。
「では少々失礼いたしまして……」
揺れる車の中で俺は横になり、匂宮の太ももに頭をおいた。
スカートの布の肌触りと、やわらかな弾力がダイレクトに伝わって来た。
これが―――膝枕。
今まで感じたことのない安らぎと温かみを感じる。
「ぅ……」
匂宮が声を漏らす。
見上げると、彼女は耳まで赤くしながら固まっていた。
「ど、どうした匂宮!?」
起き上がろうとした俺の頭を、匂宮が両手で抑える。
「い、いいから気にしないで! リラックスしていて!」
いやリラックスしてと言われても!
後頭部から抑えられた俺は、顔面を匂宮の太ももに突っ込むような形になった。
息苦しさを感じて思いきり呼吸すると、洗剤やボディソープが混ざったようないい香りがした。
「―――っ!?」
その瞬間、匂宮の身体が強張ったような気がして、俺を押さえつける強さが増した。