かつて姫だったもの その②
話は変わるけど、さっきから女子としかすれ違っていない。
本当に元々女子高だったんだな。
俺は明日からここに通うのか――あんまり実感わいてこないけど。
来客者用の玄関から外に出て、駐車場へ向かう。
お城みたいな見た目からは想像できないほど、中身は普通の校舎って感じだった。これで照明がシャンデリアとかだったらどうしようかと思ってた。
「お嬢様、又野さん、理事長との面会はいかがでしたか?」
黒塗りの高級車の前で待っていた麻里さんが俺たちに歩み寄って来る。
「理事長は留守だったわ。屋敷に戻りましょう。麻里、車を出してちょうだい」
「かしこまりました。……明日からはお嬢様も教室へ行かれるのですよね?」
何気ない――本当に何気ないその言葉に、匂宮の動きが一瞬だけ止まった。
「い―――行くわよ。又野くんを一人にはできないでしょう?」
匂宮が答えた瞬間、麻里さんが一万ルクスの笑顔を浮かべた。
「本当に行かれるのですね! では今夜はお祝いですねっ! この麻里が腕によりをかけた満漢全席を御振舞いたします!」
いやそれだと全部食べ終わるのに3日くらいかかっちゃうから――と心の中でツッコミを入れつつ。
「匂宮が学校に行くのがそんなに珍しいのか?」
「ええ、お嬢様は絶賛引きこもり中―――むぐぐぐっ」
麻里さんの口を後ろから抑える匂宮。
「余計なことは言わなくていいのよ、麻里。今までがどうあれ私は明日、教室に行くわ」
ぷはっ、と麻里さんが匂宮の手を振りほどき、肩で息をする。
「三途の川の向こうで、死んだおばあちゃんがリングフィットアドベ〇チャーやってました……」
なんでだよ。
なんで死してなお運動不足気にしてるんだよ、そのおばあちゃん。
「とにかく帰りましょう。又野くんの制服が届いているはずだから。もし留守の間に郵送されていたら、郵便局に連絡して再送してもらわなきゃならなくなるわ」
「……そこは意外と庶民的なんだな」
「昔、少しトラブルがあって」
「ああ、配達希望した時間に届けてくれなかったとかだな。俺も経験あるよ。あれ、一日の予定が狂うから困るんだよな。仕方ない部分もあるだろうけどさ」
「いえ、そうじゃないわ」
「え?」
「郵政民営化のときに利権関係で政府とトラブったのよ。それ以来、郵便局にはあまり口出ししないことにしているの」
「へー、そうなんだ……」
意外と規模のデカい話だった。
さすが金持ち。
「では急いで帰りましょう。お嬢様、又野さん、お乗り下さい。波動エンジンでぶっ飛ばして行きますよ!」
この車、イスカンダルまで行くつもりか?
硫酸の海に沈んだりしないだろうか。大丈夫だろうか……。
まあ、とにかく。
俺は明日からこの学校に通う。
母が死んでからのすべてのしがらみを捨てて。
後部座席に乗り込むと、麻里さんが車のエンジンをかけた。
静かな振動が伝わってくる。
俺は窓から校舎を眺めた。
何度見ても凄いデザインだ……うん?
校舎の頂上――フェンスが張り巡らされている箇所に、誰かいないか?
窓を開け、目を凝らしてみる。
ピンク色の髪をしたその人物はフェンスに腰かけ、両足をその外――万が一落下すれば助からない、数十メートル先の地面へ向けてふらふらと振っていた。
「な――」
何、してんだ、あの人。
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