置いて行かれた少女の末路《秋川大彌SIDE》②
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父にとって、あたしや母は道具に過ぎなかったのだと思う。
口ではいつもあたしを愛していると言っていたけれど、あたしを見る目は自分の子を見る目ではなく、出世の道具を見る目だった。
父はあたしや母を愛していたから結婚したのではなく、彼自身の自己顕示欲を満足させるため――彼がさらなる地位を獲得するために結婚したのだ。
中学校の二年生になる頃には、あたしにもなんとなくそのことが理解できていた。
父の興味はあたしたち家族には無かった。
いや、そもそもあたしたちは家族だったのだろうか。
同じ家で暮らす集団を、家族と仮称していただけだったように思える。
母もまた、あたしのことを疎んでいた。
自分の最も美しい時期を奪ったもの――母にとってのあたしは、そういう存在だったのだと推測できる。
地位を失った父親と血の繋がった娘を捨てて他所の男と結ばれたのも、その証拠だろう。
そんな母にとって、甘い言葉で彼女の価値を認めてくれたかつての父は、願ってもない人物だったのだ。
そして父に魅力を感じなくなると、また別の母の価値を認めてくれる男の元へと行ってしまった。
最後に、価値のないあたしだけが残されたというわけだ。
とある連続殺人犯は、『透明な存在』だった自分は殺人によって実在の人物になったと語っていた。
誰からも必要とされない、誰からも認識されない、ただそこに存在するだけの無価値な人間。それが『透明な存在』なのだ。
父や母にとって、あたしはまさしく『透明な存在』だった。
……又野さわるもあたしと同じ、『透明な存在』だ。
彼の母の葬儀で出会ったとき、あたしは一目でそれが分かった。
彼は誰にも必要とされていなかった。
知らないところで勝手に死んでくれ―――あたしの父親が彼にそう言ったのが、あたしには聞こえていた。
『透明な存在』に気付くことができるのは『透明な存在』だけ。
彼はあたしが初めて出会った同類だった。
だからせめて、あたしと同じように誰からも必要とされない彼を、あたしだけは必要としてあげようと思った。
それなのに彼はあたしを拒絶し続けた。
どんなに彼を思いやっても、どんなに彼を気にかけても、どんなに優しい言葉をかけても、彼は休み時間いつも一人で自分の机から動こうとしなかった。
彼もまたあたしを必要としていなかったのだ。
そして彼が匂宮と名乗る少女と行ってしまったとき、あたしは気づいた。
彼に必要とされたかったのはあたしの方だったのだ。