置いて行かれた少女の末路《秋川大彌SIDE》①
タイトル通り、秋川家のその後です。
父親が蒸発した。
母親はあたしを残して、別の男と再婚した。
本家である秋川家からは一方的な絶縁を告げられた―――。
そして。
「痛っ……」
ソファで寝ていた私は、何か固いものに触れて目を覚ました。
それはソファに貼られたシールだった。
シールに記されていたのは5つの文字――『差し押さえ』。
室内に置かれているありとあらゆる豪奢な家具にも、同じように『差し押さえ』と書かれたシールが貼りつけられていた。
数日前、あたしの父は全てを失った。
かつては名家である秋川家の次期当主とまで言われていた父だったが、その転落ぶりはあっけないものだった。
とある男子生徒を退学にしたことをきっかけに過去の不正が次々と明らかになり、秋川家の信用を損なったとして法外な金額を請求された。
それから数日も経たないうちに、何の前触れもなく父親は姿を消した。
結果。
私には父親の莫大な借金と、強制執行により『差し押さえ』のシールが所せましと貼られたこの家が残った。
ああ、そうそう。
もう一つ、残っているものを忘れてた。
テーブルの上にある薬瓶――秋川家の本家から贈られてきたものだ。
『差し押さえ』シールの上に置かれたその瓶の中には、一粒で全身の神経を麻痺させ死に至らせる劇薬がぎっしりと詰まっていた。
生き恥を晒し秋川家の名を穢す前に、尊厳を保って死ね―――そういうメッセージ代わりだ。
天井には点灯しない照明がぶら下がっている。電気が止められているからだ。誰がどういう根回しをしたのかは知らないが、電気や水道は父親の不祥事が判明した日の内に、完全に止められてしまった。
まあ、自業自得と言えば自業自得かもしれない。
あたしが彼を、又野さわるを痴漢扱いしなければ、父親の不祥事が明るみに出ることは無かった――少なくとも、それをもう少し遅らせることはできたのかもしれない。
何にせよ、今更後悔してももう遅い。
窓から差し込む朝日が眩しくて体を起こすと、不意に下腹部の辺りに痛みが走った。
吐き気が押さえられず、トイレに走った。
「う……ええ……」
白い便器に散った吐瀉物を流そうとレバーを引いても、当然ながら水は出てこなかった。
饐えたような匂いの中、あたしはトイレットペーパーで口元を拭いながら自分の体内にある子宮という器官を恨んだ。
「子供なんて、いらないのに……」
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