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小動物の相棒と歩む、土魔術師の冒険譚  作者: 風間 義介
1章、帝都グランバレアへ
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5、帝都へ向けて~迫りくる不穏な影~

 翌日。

 ハヤトとアミアはトネリコ村を出立することとなった。

 少し急ぎ足のようにも感じられるが、もともと、あまり長居をするつもりもなかったため、予定通りといえば予定通りだ。

 しかし、やはり名残惜しく思ってくれている人はいた。


「もう少しゆっくりしていけばよろしいのに」

「ハヤトさん、もうちょっとのんびりできないんすか?」


 自分たちを泊めてくれた村長と、この村に来る途中で出会ったアリシアの二人だった。

 特にアリシアは村の外のことを知りたいという好奇心もあるのか、アレックス村長よりも強く引き留めようとしている。


「ねぇ、ハヤトさん! もっと冒険の話、聞かせてよ!!」

「ん~、そうしたいのはやまやまなんだけど……俺も生活があるからね」

「いつまでも村で厄介になるわけにもいかんだろう?諦めなさい、アリシア」


 頬を膨らませながら文句を言うアリシアを、村長は苦笑しながらなだめた。

 どうやら、村長の方がハヤトとアミアの事情を察してくれているようだ。

 さすがに村長に諭されては、アリシアも引かざるを得なかったのだが。


「むぅ……」


 納得いかない、という表情で、いまもなおふくれっ面をしながらハヤトを見ている。

 だが、言っても無駄だということがわかったのか、アリシアもとうとう折れた。




 その頃。

 トネリコ村から馬で数週間ほど移動した場所に、『ファーランド』有数の巨大国家『グラン帝国』の帝都『グランバレア』。

 その王城は、異様な静けさに包まれていた。

 いや、より正確にはその場所は『止まって』いるのだ。

 比喩でもなんでもない。

 本当に、見回りをしている衛兵や門番ですら、まるで石造であるかのように動かなくなってしまっているのだ。

 そんな中、一人の少年が王城の門から歩み出てきた。

 周囲の人々が動くことを許されていないなか、まるで、彼だけが動くことを許されているかのように。


「『ファーランド』最大の国家、『グラン帝国』といってもこの程度か。魔術の対策がまるでなってない……まぁ、おかげでこうして無駄な労力をかけずに侵入ができたわけだけど」


 黒にも近い藍色の髪を背中の中ほどまで伸ばした、若干、幼さの残る顔立ちをした少年は、ため息交じりにそうつぶやいていた。

 どうやら、この現象はこの少年が魔法で引き起こしたもののようだ。

 だが、口から漏れ出てくるその言葉に、呆れや憂いの感情はまったくなかった。

 むしろ、いたずらがばれずにうまくいったことを喜ぶような、そんな印象すらある。


「真典『バビロニア』。まさかこの国が持っているとはね。灯台下暗し、とはこのことかな」


 そうつぶやきながら、少年は胸元から一冊の本を取り出す。

 表紙の劣化具合から、古い時代のものであることは一目瞭然だ。

 どうやら、この少年は、この古書を手に入れるため、時間を止める、という大胆なことを行ったらしい。


「イオン様」

「ソロモスか」


 不意に、少年の背後で少年の名を呼ぶ声ががした。

 どこからともなく突然、イオンと呼ばれた少年の背後に、新緑のように鮮やかな緑の髪をした糸目の少年が現れると、イオンはその少年の名を呼んだ。


「間もなく、刻限です。お急ぎください」

「あぁ、わかった」


 刻限、というのは、この魔法が効力を発揮し続けることのできる時間のことなのだろう。

 魔法とは、ここ『ファーランド』に住む、ある程度の知性を持つ存在であれば何物でも行使することができる能力のことだ。

 『ファーランド』に偏在する不可視のエネルギーである『マナ』を使うことで、様々な現象を引き起こすことができる。

 だが、引き起こすことができる現象の規模が大きくなればなるほど、消費するマナの量も増えてしまう。

 限定的とはいえ、時間停止という現象を引き起こすには、相当な量のマナを消費することは想像に難くない。

 停止できる時間も限られているのだろう。


「それじゃ、動き出す前に立ち去ろうか」

「はい」


 イオンがソロモスと呼んだ少年にそう話すと、ソロモスは二つ返事でうなずき、イオンとともに歩き出した。

 だが、立ち去ろうとするイオンを止める声が背後から聞こえてきた。


「ま、待ってくだせぇ! イオン様!!」


 呼び止められたイオンが背後を振り向くと、いつの間に現れたのか、鋭い目つきの男が控えていた。

 いかにも残忍そうなその顔立ちだけでなく、その場にいるだけで寒気すら感じる気配から、その男がただものではないことが素人目にも窺える。


「ザァスか。どうした?」

「ど、どうしたじゃねぇですぜ! せっかくここまで来て、何もしないで帰るってんですかい?!」

「僕らの目的はすでに終えているからね。長居は無用だよ」


 あっけらかんとした様子で、イオンはそう返す。

 その態度が、いや、返ってきた言葉がおもしろくなかったのか、ザァスと呼ばれた男は反論してきた。


「ここまできてそりゃねぇですぜ! こんな城一つ、俺一人で落とすことだって……」

「だめだよ、ザァス。さっきも言ったけど、この魔法の効力はあと少しで切れてしまう。君の腕前を信用していないわけではないけど、この城まるごと一つの戦力をたった一人で相手すれば、いくら君でも無事では済まない」


 どうやらザァスは城を落とすのならば今が好機、と捉えているようだが、イオンはその提案を却下した。

 単にザァスの身を案じて、というわけではない。

 祖逆的な笑みを浮かべながら、イオンが告げてきた却下の理由がその証拠だ。


「それに、ここでこの城を落としてもつまらないじゃないか」

「つ、つまらない?」

「そうだよ。これは僕たちと彼らのゲームなんだ。ゲームは、公平性が大切だろう?」


 どうやら、このイオンという少年は、これから何か、大きなことを引き起こすつもりのようだ。

 それも、なおも冷たい印象を受ける笑みで『ゲーム』と言っている以上、この城の。いや、おそらくは『グラン帝国』史上最大の危機を迎える事態を。

 もちろん、ザァスはその返答に異論を唱えようとする。

 だが、それをわかっていたイオンは、彼をなだめるように笑いながら続けた。


「それに、何もわからないまま終わったんじゃつまらないじゃないか」


 抗っても抗っても、足掻いても足掻いても。

 一縷の希望すら見いだせないほどの絶望に打ちひしがれた人間の顔を見ることができなくなる。

 そんなつまらないことは、したくない。

 イオンのその言葉に、ソロモスもザァスも、わずかながら背筋に冷たいものを感じた。

 その後、イオンたちは静かにその場から立ち去っていく。

 その瞬間、魔法が解除され、グランバレアにいるすべての人々が動き出したが、イオンが盗み出した『禁断の書物』が王城の宝物庫からなくなっていることに気づくまで、実に数週間という時間を有することとなった。

 そして、この事件がハヤトとアミアを、『ファーランド』の命運がかかった大いなる戦いへと誘うことになるのだが、それはまだ先の話。

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