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小動物の相棒と歩む、土魔術師の冒険譚  作者: 風間 義介
2章、軽薄な冒険者カイン
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3、準備は念入りに

 依頼主である商人の目的地がトネリコ村であることを知ったハヤトとアミアは、受付嬢とカインから半ば無理矢理頼まれはしたが、村長たちに顔を出すという目的が生まれた。

 人間というものは、目的があるかないかでやる気が変化するもの。

 依頼を受諾してから、ハヤトとアミアは面倒くさがるカインを引きずりまわし、準備をすすめていた。


「治療薬に携帯食料……あぁ、カンテラの油もそろそろ切れてきたかな」

「けど、今回は商人の護衛なんだから、ある程度は依頼者がそろえてくれるんじゃない?」

「あ、そうか。なら薬の類だけで大丈夫か」

「なぁなぁ、なんでそんなに念入りに準備するんだよ?」

「え? いや、依頼を受けるわけだから当然のことじゃないのか?」


 カインの問いかけに、あっけらかんとした態度でハヤトが返す。

 その顔は、何を言っているのかわからないといった様子だ。


「いやいや! 今回の依頼主は商人なんだから、必要な物資は依頼主から買い取れば」

「その商品は誰に提供することが目的なのか、ちゃんと理解してるの?」


 そもそも、今回の依頼人である商人の目的はトネリコ村での商売だ。

 当然、運ぶこととなる物資はトネリコ村で取引することを目的としたもの。

 護衛を依頼いしている冒険者や用心棒たちに支給するための物資もあるかもしれないが、トネリコ村と取引するための物資よりも扱う数が少なくなることは容易に想像できる。

 そのため、自分たちで用意できるものはある程度、用意しておかなくてはならない。


「それは……まぁ、そうかもしれないけどよぉ」


 アミアから指摘されたカインもそのことには思い至ったらしく、それ以上は文句を言ってこなった。

 そんなカインを無視して、ハヤトとアミアは準備を進めていくことしばらく。


「……まぁ、こんなもんかな?」

「そうだね」

「やっとかよ……いったいどんだけ時間かけんだよ? お前ら、休暇を満喫する女どもかよ?!」


 ようやく準備を終わらせたハヤトたちに対して、カインはじっとりとした視線を向けながら、溜まっていた鬱憤を晴らすようにわめき始めた。

 だが、そんなカインの言葉を聞き流し、ハヤトとアミアは店を出ていく。

 カインはその後ろを慌ただしく追いかけながら、次なる目的地へと向かう一人と一匹の背中にむかって。


「おいおいおいおい!! まだあるってのかよ?! そこまで念入りにする必要あるのか?」


 ようやく買い物を終ったというのに、まだ準備をしようとしていることに文句を言い出し、疑問をぶつけてくる。

 冒険者が行う護衛依頼前の準備と言えば、治療薬や携帯食料、カンテラの油や種火の補充などが一般的だ。

 だが、今回の依頼人は商人であるため、数があって困るものではない治療薬や携帯食料を補充すれば事足りる。

 だというのに、こうも念入りに準備をするというのは、はっきり言って異常なことだ。


「あぁ~……どうする? アミア」

「カインに話すかってこと? 一時的とはいえパーティを組むんだから、多少は手の内を明かしておいてもいいんじゃない?」


 ハヤトの問いかけにアミアがそう返すと、ハヤトはカインにむかってとりあえずついてきてほしいと伝える。

 さっさと話してくれないことに、カインはぶつくさと文句を言い出すが、ほかの冒険者が滅多に手の内を明かすことは滅多にない。

 ハヤトの手の内をひとつでも知ることができるのなら、とカインはぶつくさと文句を言いつつもハヤトを追いかけた。

 しばらく歩いていくと、ハヤトたちは魔法具を専門に取り扱う店舗に到着する。


「へ? なんで魔道具店なんだ?」

「え? 用があるからに決まってるじゃないか」

「いやいや、ハヤト。お前、たしか魔術師だろ?」

「うん」

「魔術師がなんでわざわざ魔法の道具を購入しようとするんだよ? 自前のがあるだろうが」


 カインが言うように、魔術師は基本的に魔道具を使用することはない。

 魔術師は魔術を操る人間のことであり、魔術とは自然界を構成すると考えられている、水、土、風、火の四大元素(エレメント)を操る術だ。

 一つの属性を操ることに注力するものもいるが、冒険者として活躍する魔術師たちはどのような場面にも対応できるよう、全属性の魔術を使えるよう鍛錬を積んでいる。

 そうして鍛錬して磨き上げた魔術は、戦闘以外の分野でも広く使用されており、焚火の準備や洞窟などで視界を確保するための明かり、汚れたものの洗浄などの用途でも使われることが多いため、魔術師がいればわざわざ荷物になる魔道具を持ち歩く必要はない。

 おまけに、いざとなれば材料さえそろえればいいだけのこと。

 むろん、品質はピンからキリまであるが、それでも購入するよりはずっと手ごろだ。


「まぁ、俺の場合、魔道具を作ることができないからさ」

「はぁっ?! 聞いたことねぇぞそんなの」

「まぁ、もっと聞いたことない事実を聞くことになるよ?」

「そりゃどういうことだよ、小動物!」

「小動物言うなっ!……まぁ、とにかくあんたはいったん落ち着きなって」


 小動物と言われ、カチンときたアミアだったがすぐに冷静さを取り戻し、興奮状態が続いているカインをたしなめる。

 いくつも湧き上がってくるハヤトの疑問で溜まりに溜まったストレスを、アミアをからかうことで発散しようとしていたカインは、予想よりも早く冷静になったため、ストレスのやり場がなくなった。結局、カインは自分の心のうちに悶々とするものを抱えながら、ハヤトの後ろにつき、魔道具店の中へ入っていく。

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