74.綺麗に去るのは敗者の美学みたいなもの。
「いやぁー……練習したかいがあったな」
「…………卑怯者」
爽やかな笑顔の虎子と、恨みつらみをぶつける視線の九。対照的な二人だった。
結局、終わってみれば虎子の圧勝だった。
そもそも二曲目こそ全パフェを逃したとはいえ、一般的に見れば間違いなく「ありえないレベルの高得点」をたたき出していた虎子と、動揺に動揺を重ねた結果、三曲目。本来は得意のはずの譜面で、全パフェどころかフルコンすら逃してしまった九とでは天と地ほどの差があった。しかも、
「なんで貴方全パフェなのよ……」
そう。
三曲目。虎子は何事もなかったかのように全パフェしてみせたのだ。
彼女たちの弁を総合すると、三曲目に選ばれた曲は虎子屈指の苦手譜面で、対する九はそれを得意としていたらしかった。
が、それはあくまで数年前の話だ。
九だって相当練習を重ねていただろうが、それは虎子も同じだった。
結果として、苦手だった楽曲は、「調子が良ければ全パフェ出来る」レベルにはなっていたのだ。
「毎回ってわけじゃなんだけどね。最近はたまに出来るようになってたんだよ」
「うう……卑怯者」
そんな恨み節に虎子は、
「じゃあもう一回やる?今度はランダムで」
そんな提案に九は、
「やらないわよ。貴方が勝負を仕掛けてくるときは勝算がある時。そんなものに乗るほど私も馬鹿じゃないわ」
「ははは……」
まあ、正しい判断だとは思う。
虎子と九の実力がどれくらい拮抗しているかは分からない。だから、二人が全くの別室で、誰とも接しない状態で、スコアだけを競った場合、その勝負はもしかしたら永遠に決着のつかない無限サドンデス状態になってしまうかもしれない。
けれど、現実はそうじゃない。二人の周りは無音ではないし、言葉のやり取りだって可能だ。要は心理戦ってやつだ。
その土俵で、九は完全敗北してしまったのだ。まあ、それは俺が虎子に肩入れしちゃったからってのもあるとは思うけど、それだって立派な「勝算」の一つだ。九が戦略的撤退に出るのは至極当然ともいえるかもしれない。
当の彼女はと言えば、どこからともなく取り出した櫛を使って、乱れた髪を「取り合えず」というレベルで整え、
「貴方、白百合女学院の生徒よね?」
俺に語り掛けてきた。
「え?あ、は、はい」
九はにやりと笑い、
「そう。私もよ。虎子の周りはいつも賑やか。だから、オーディエンスが一人増えたくらいで気にすることは無かったけど、貴方は単なるオーディエンスではないみたい」
「は、はあ」
うーん、困った。
多分気に入ってくれているんだとは思うんだけど、いまいち意図がつかみにくい。中二病……とはまたちょっと違う感じがする。
九はスカートのすそを両手でちょいとつまんで、お辞儀をし、
「ごきげんよう。また、学校で会いましょう?笹木華さん?」
とだけ告げて、俺らの元を去っていく。虎子が後ろから「また遊ぼうぜー」と声をかけると、振り向くことはせずに右手を上げて、ふらふらとふってくれた。
◇
「なんだか巻き込んじゃってごめんな?」
と、申し訳なさそうにする虎子。
彼女曰く、九は中学校時代からの友人らしい。
「最初はびっくりしたよ。ゲームセンターにこんなお人形みたいな子がいるんだって」
どうやら、九の私服は昔からゴスロリらしい。それで今よりも年齢が幼いのだから、それは確かにお人形さんという表現が正しいのではないかと思う。
思うけど、君の可愛い女の子に対する表現はそれしかないのかと不安になる。一
一応、成績はそんなに悪くなかったはずなんだけど。どうも虎子から「アホの子」疑惑を拭い去れない俺がいる。こういう性格で、勉強が出来るって言うのは割と解釈違いな感じもするんだけど、どうだろうか。
「んで、実際に話しかけてみて、一緒に遊んで。そしたら、同じ白百合女学院の生徒だって言うからさ。そこから段々と仲良くなっていったんだ」
「へぇ……」
ちょっと意外だった。
いや、「見知らぬ女の子に話しかけて仲良くなる」というナチュラル王子様ムーブに関しては大変虎子らしいなとは思う。
だから、問題はそれ以外だ。もっと詳しく言うと、仲良くなって、一緒に遊んだって部分。
彼女のことだ。きっと中学時代も人気者だったに違いない。女子高だから男子にモテる……というイベントはないけれど、その代わりにきっと女子にモテたはずだ。というかモテないはずがない(※華の勝手な感想です)。その彼女が、特定の人間と仲良くしている、という絵面が若干想像しづらかった。彼女はあくまで博愛主義なイメージがある。
だから、
「我孫子さんと仲良かったんだ?」
ちょっとだけ探りを入れる。それに対する虎子の反応はというと、
「あー……まあな。途中からは九が俺に付きまとってたって感じだった気もするけど」
「ああ……」
容易に想像がついた。
彼女が何を考えているのかは正直分からない。
だけど、虎子のことが好きなのは間違いがない。その愛情がちょっとどころではない屈折をしているのは、この際見なかったことにしたい。多分成立しないと思うけど、あれも一つの百合の形だと思うからね。概ね虎子が受けっぽいのが悪いんだと思う。
「でもまあ、俺もゲーセンには良く行くし、同級生で同じ趣味持ってるやつもいなかったしで、一緒に遊んでた。でも何せ二人しかいないからね。お互いしかライバルがいない状態で、競い合ってたら、まあ、あんなことに」
「それで大会にも出たってこと?」
虎子は「げ」と露骨に不味ったという表情をし、
「……もしかして、知ってた?」
「えっと、まあ、一応」
それを聞いた虎子は必死になって、
「いや、違うんだよ?九が出ないの?って聞いてきて。俺は出るつもりはなかったんだけど、怖いの?とか、貴方の輝きはその程度なのねとか言ってきたからついカチンとなって。それで……」
「参加して、優勝しちゃったと」
「………(こくん)」
何故だか虎子はとても縮こまっていた。体感いつもの半分くらいの大きさになってしまったような気すらする。
うーん……どうしてこんなに隠したがるんだろう。やっぱり廃人って言うのはその廃人性を隠したいものなのだろうか。俺からしてみればとんでもないことだけどな。
しかも、彼女の話を聞く限り、優勝したのは中学生の時だ。年齢が大きく左右するようなゲームではないとはいえ、中学生の優勝というのはかなりのことなんじゃないだろうか。
「ちなみに、九は準優勝ね」
「すごぉ……」
とんでもない二人じゃないか。そっちのランカー事情は知らなかったなぁ……そんなに興味もなかったし。もっとも、元の世界でも彼女たちがワンツーフィニッシュしていたのかは分からないけれど。そもそも元の世界と、どれくらいの共通点があるのかが大概謎だしね。
「それで、まあ……色々あって、現在にいたるって感じかな」
「色々」
「そ、色々」
多分、その色々が重要なんじゃないかと思うんだけどな……
まあいいや。別に俺の目的は虎子の過去を暴いて、黒歴史を赤裸々に語らせることじゃない。
美咲との関係を考えた場合、知っておきたいことではあるけれど、これ以上余計な詮索をすることでも無いような気がする。
そもそも彼女が家の方針に従わなければならないタイムリミットは白百合女学院の卒業だ。それまではまだかなりの時間がある。この世界に進級という概念があるのかは分からないけど。その辺、アテナに聞いておいたほうがいいかもしれない。
次回更新は明後日(11/16)の0時です。




