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64.趣味仲間は余計な詮索をしないものだ。

「誕生日プレゼント、か……」


 夜。


 ベッドに横たわりながら、俺はぽつりとつぶやく。


 結局、あれから俺自身は若葉(わかば)とのコンタクトを取ることが出来なかった。勝負の話にしても彼方が連絡をして、その顛末を見守るだけだっただが、若葉の意思は固いようで、やっぱり勝負自体はすることになった。


 細かなルールもいくつか詰められた。値段に関してはどんなに高くても一万円程度。実際の勝負は四月二十五日(ちなみにその日は日曜日だ)の夜。彼方(と俺)の部屋で行われる。参加者は俺と若葉。審査員は彼方。審査、と言っても何か具体的な得点方法が決まっているわけではないので、完全に彼女の気分次第だ。


 正直、選択肢はいくらでもある。


 彼女のことだ。俺のオススメ百合作品をあげればそれで喜んでくれる可能性は高い。


 最近の作品にしても、彼方が何を持っていて何を持っていないのかをリサーチすることだって難しくはない。彼方本人に聞けばいいのだ。きっと包み隠さず教えてくれるだろうし、「欲しいけど買うかどうか悩んでいたもの」を一万円程度詰め合わせればきっと喜んでくれるだろう。


 だけど、それでいいのか、とも思う。


 彼方が言うには、若葉はあまり友達がいないのだという。


 俺も彼女と同じクラスなわけではないから詳しくはない。ただ、少なくとも彼女が俺たち以外と仲良くしているシーンはあまり見たことが無いような気がする。


 夢野や、虎子。美咲だって、他のクラスメートと会話しているシーンは見たことがある。けれど、彼女のそれを見たことは確かにない。


 それだけならば気にすることは無い。若葉自身がどう思っているかは分からないが、俺や夢野のように、一緒に昼食を取っている仲間は、友達と言っても差し支えないのではないだろうか。友達の定義なんて曖昧なものだ。後は双方がどうとらえるかだろう。


 問題は、彼女が部活動で孤立気味であった、ということだ。


 別の学校で、というのならばその関係性はリセットされているはずだからさほど問題にはならない。


 が、彼女のそれは白百合女学院中等部のものだ。白百合女学院は外部に進学する生徒の少ない学校だ。従って、その時の関係性がそのまま維持されている可能性が高い。


 部活動をやめざるを得なくなった、孤立、という関係性が。


 その彼女にとっての彼方というのは恐らく、外から想像する以上にウエイトが大きいはずだ。


 だからこそ彼方と同室で、仲良さげにする俺の存在がどうしても許容できないのだ。


 そして、だからこそ俺に勝負を挑んできたのだ。彼方の一番は自分であると主張するために。


 そんな心を考えた時に思うのだ。彼方と同室で、趣味も同じと言うアドバンテージを使って勝ちに行っていいのかと。


 勝負は勝負。どんな手を使っても勝ちなのは間違いない。


 けれど、それで若葉が納得するかと言われると、恐らく答えはノーだ。


 彼女は「自分こそが彼方の一番である」という事実が証明されない限りきっと納得はしないはずだ。


 そしてそれは、搦め手のない、正面からぶつかり合う正々堂々とした勝負の末で、彼女が勝ったと認められる必要性があるだろう。その土俵に上げるべきなのは、オススメの百合作品ではないはずだ。


 ただ、そうなると、


「彼方の喜びそうなプレゼントか……」


 勝負で勝つにせよ、負けるにせよ、俺の選択が中途半端では若葉が納得してくれないはずだ。そうなると、彼方が喜ぶアイテムを一万円と言う予算の中から、百合作品という分かりやすいアイテムを使わずに選ばなければならないことになる。


 困った。


 正直、俺にそんなものを選ぶ力はない。


 女子高生として生活を始めてまだ一カ月もたっていないんだ。毎日の服装だって、なぜそこに存在しているのかも分からない私服の中から、悩んだうえで選んでいるんだ。


 今日だって、私服のチョイスに対して、美咲や虎子からなんの疑問も挟まれなかったことに内心かなりほっとしていたんだ。女の子だった経験も、女の子の服を選んだ経験もない俺からすると、彼方への誕生日プレゼントを選ぶっていうのは正直言ってかなりの難問と言っていい。


 趣味のひとつが潰されているのも大きい。正直彼方の「百合好き」っていうこと以外の面をほとんど知らないのだ。同好の士というのはそう言った部分を詮索しないものだから余計だ。


「…………ん?」


 その時だった。


 スマートフォンがバイブレーションでメッセージが来たことを告げる。誰からだろう。


虎子(とらこ)……」


 虎子だった。


 そこには今日、途中で抜けてしまったことへのお詫びと、埋め合わせをさせてほしいという旨のメッセージが並んでいた。


 正直、虎子は付き合わせてしまった感があるので、謝ってもらうほどのことではないし、埋め合わせに何かしてくれるくらいならば、美咲と一緒にデートに出かけて、その日程を俺にこっそりと教えてくれるだけでいいんだけど、


「埋め合わせ……」


 思いつく。


 虎子に手伝ってもらうのはどうだろうか。


 男勝りで普通に考えれば女の子の誕生日プレゼントを選ぶというイベントへの助っ人としては力不足になる場合もあるかもしれないけれど、こと今回に限っては相手が彼方だ。彼女へのプレゼントならば虎子は助っ人として悪くないんじゃないだろうか。すくなくとも俺一人で悩むよりはずっといいはずだ。


 善は急げだ。


 俺は早速虎子に「彼方の誕生日プレゼントを選ぶのを手伝って欲しい」という旨のメッセージを送信する。ほどなくして虎子から、「いいよーいつにする?」という返事が来る。


 俺はカレンダーを見て考える。誕生日は四月二十五日。つまり来週の日曜日だ。平日に選ぶ……という手もなくはないが、その場合、他の面々をまいたうえで、合流する必要が出てくる。


 夢野やアテナあたりなら問題ない気もするんだけど、彼方には当日まで何を選んだかを伏せたままにしておきたい。そうなると、事情を知っている人間は少ない方がいい。


 ただ、その条件で考えると、平日より休日。今日から考えると選択肢は二日しかない。


 明日か、来週の土曜日か。


 一日で決めきれなかったときのことも考えると前日まで保留するのは出来るだけ避けたい。と、なれば、答えは一つだ。


 俺はメッセージで「明日は駄目かな?」と聞く。するとびっくりするくらいすぐに返事が来る。「明日?いいよー」とのことだった。なんともフットワークが軽い。多分俺が虎子の立場だったら少し抵抗感がある。連日出かけるなんてことはあんまり考えないからなぁ……


 ただ、今回はそんなことも言っていられない。俺は虎子に「それじゃ、明日で」と送る。細かな内容はこれから決めていくとして、取り合えず明日は虎子と出かけることに決定だ。客観的にみるとデートに見えなくもないけど、そんなことは無い。無い、はずだ。


 それからも暫くやり取りを交わす。その中で、彼方やクラスメートと鉢合わせたくないという俺の意思を尊重する形で、場所は渋谷に決定した。待ち合わせはハチ公前。なんとも若者っぽい感じだ。ちなみに俺はあの像を待ち合わせに使ったことは無い。


 何はともあれ、これで助っ人は確保できた。埋め合わせをしてもらうってうていだけど、むしろこっちが何かお礼をしたいくらいだ。


 何をしたら喜ぶだろう。そんなことに試案を巡らせているうちに、段々と意識が薄れていく。薄れゆく意識の中、スマートフォンのアラームだけ何とか設定する。二日連続で女友達と出かけるなんて考えたこともなかったな。ふと、そんなことを思った。

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