表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
百合カップルを眺めるモブになりたかっただけなのに。  作者: 蒼風
Ⅱ-Ⅱ.幼き日々と、淡い思い出。
64/137

58.悩み多き帰り道。

 結局、あれから虎子(とらこ)は現れなかった。


 気になった俺が独自に観測器を飛ばして状況を確認してみたりもしたけど、彼女は至って普通に、旧友たちと遊んでいた。


 そのノリは男友達同士という感じで、正直ちょっと混ぜて欲しい気もしたけど、今の俺は完全なる部外者だ。いや、仮に俺が佐々木(ささき)小太郎(こたろう)だとしても部外者だけど、やっぱり性別ってのはそれだけ大きな壁になるのだ。本来ならば。


 虎子に連絡を取ってもなかなか返事がなく、漸くきた返事が「ごめん、今日は合流出来ないかも」という、実に短い内容だった時には美咲も多少ご機嫌を崩していたが、それも俺が必死になだめていると、逆に笑われてしまうという塩梅だった。今日はずっと空回りばかりしていた気がする。あれ……気が付いたら俺、ずっとこんな感じか……?


 帰り際、寮ともそう遠くない距離にあるということもあり、美咲は虎子との思い出の公園に俺を案内してくれた。小さな小さな、それこそ歩いている時に、道沿いにあったとしても気にも留めないような地味な公園。


 だけど、その場所は、美咲にとっては思い出の場所だという。人にとって何が思い出となるかなんて分からない。そんな当たり前すぎる感想を抱いた。


 公園の中にはほとんど人がいなかったので、俺と美咲は未就学児に戻ったような気になって、遊具で遊んだ。美咲なんか着ている服が服だから汚れたら大変だろうに、滑り台を思い切り滑り降りていた。


 あまりに自由気ままに遊びまわっていたからか、ブランコに揺られていた女子は気が付いたらいなくなってしまっていた。


 それにしてもあの子は大分特徴的なビジュアルだったな。顔立ちとかは見えなかったから分からないけど、髪の色が緑ってのもなかなかないと思う。染めたのだろうか。この世界のことだから「あれくらい普通にいる」って可能性もなくはないと思うけどね。現に美咲は全く存在を気にかけてなかったし。


 今日は楽しかった。最初の内は正直どうなるかと思ったし、結局虎子と美咲のデートに持ち込むという作戦は実行する隙すらなかった。


 だけど、公園で遊ぶのは久しぶりに童心に帰った気がするし、美咲に見立ててもらった服も、最終的には割と「可愛いな」と思うものばっかりだったので、全額奢って貰ったことが、むしろ申し訳ないくらいだ。


 でも。


「はぁ…………」


 ため息。


 これで今日何度目だろうか。ため息をつくと幸せが逃げるなんて迷信もあるけど、そんなことなんか考える気にもなれなかった。


(どうしたらいいんだろうな……)


 正直、もっと単純な話だと思っていた。


 美咲も虎子もお互いのことが友達以上に好きで、ちょっと背中を押してやれば無事に付き合いだすのだと。そんな風に認識していた。


 実際間違ってはいないのだ。直接確認はしていないし、もし確認したとしても本人は否定するかもしれないが、美咲の虎子に対する感情は間違いなく友情より上のものだ。きっと虎子が本当の意味で自由になって、美咲に告白したとして、彼女は断らないのではないだろうか。


 だけど、事はそう単純じゃない。


 美咲は虎子を「皆のヒーロー」だという。その評価に関しては俺も納得のいくところだし、事実彼女は小学生時代の、男友達とあれだけナチュラルに遊べるのだ。


それも、一度告白された相手が含まれているかもしれないのに、である。


その後腐れの無さは、ヒーローと言われるにふさわしい気もする。


(でもなぁ……同時に美咲のヒーローなんだよな……)


 そう。


 虎子は「皆のヒーロー」である前に、「美咲のヒーロー」なのだ。これは恐らく虎子の側からしても同じことだ。


 だけど。


 そうだとしても。


 虎子は美咲と付き合ったりはしないだろう。


 それは何も虎子が「女性同士はちょっと……」ということで尻込みしているわけではない。恐らくどちらか男性で、どちらかが女性でも同じことになったはずである。彼女は誰かと付き合う気はないのだ。


 それはなぜか。


 きっと、自分の「規格外」の人生に、親しい相手を巻き込みたくないのではないか。


 あくまで俺の想像だ。だけど、そこまで的外れでもないような気がする。


 虎子は、高校を出たら嫁ぐという。そんな家が未だに実在しているという事実には驚いたけど、もしその荒唐無稽な話が事実だとするならば、彼女は誰かと付き合っても、最終的には分かれなければならないことになる。


 だからこそ彼女は「皆のヒーロー」であり続ける。特定の相手と、深い関係性を結ばない。そうすれば、最終的に「別れを告げる」なんてことにはならないから。


「はぁあ~~…………」


 最早何度目かも分からないため息をついていると、目の前に明るい建物が見えてくる。白百合学院高等部の学生寮だ。どうやら無意識のうちにここまで歩いてきていたらしい。慣れというのはなかなか凄いものだ。ここに通うようになってからまだそんなに日が立っていないというのに。


 俺は仰々しすぎる扉を開け(ちなみに自動ドアになっているため、正確には前に立っただけ)、その中に入る。眼前に広がる広すぎる上に豪華すぎるエントランス部分もすっかり見慣れた光景だ。これに慣れてしまうと今後が怖いような気がするけど、そのあたりがどうなているのかはよく分からない。

次回更新は明後日(10/26)です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ