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百合カップルを眺めるモブになりたかっただけなのに。  作者: 蒼風
Ⅱ-Ⅱ.幼き日々と、淡い思い出。
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56.天然ジゴロ同士はひかれあう。

「それは……」


 どうだろう。


 あくまで俺の持っている情報は、現在の虎子と、今美咲から聞いたものだけだ。だから、断定は出来ない。


 出来ないが、虎子はきっと美咲のことを特別に思っていたのではないだろうか。それが恋愛的な意味を持っていたかどうかまでは分からない。けれど、虎子にとっての美咲は、特別な友人だったんじゃないだろうか。


 だけど、当時の美咲は全く逆の判断をしたらしい。


「小学校がね、ちょっと家から遠いところにあったの。だから、私はいつもトラと一緒に帰るようにしてたし、それが習慣で、楽しみでもあった。一緒のクラスって言っても、違うことをしてる時間もあるじゃない?帰り道はそんな話をお互いに報告する時間だった」


 言葉を切り、


「だけど、あの日はそれをする気にならなかった……ううん。それをしちゃいけないと思った。私と一緒に帰るために、皆と放課後に遊ぶ時間が無いんじゃないか。皆から九条虎子というヒーローを奪っちゃってるんじゃないかって」


 相手の時間を奪っているのではないか。そんな思いやりで、自ら身を引く。彼女らしいと言えばらしいし、今の彼女ならもうちょっと自分を出して、「自分と一緒に帰ってほしい」と主張するような気もする。


 美咲は手に持っていたコーヒーカップをことりとテーブルに置いて、


「それで、言ったの。今日は用事があるからって。先に帰ってていいよって。トラは最初待ってるって言ってくれた。だけど、私が譲らなかったら、「じゃあまた明日な」って言って引き下がってくれた。引き下がって、友達と一緒に帰っていった。私はそれを見て、これで良かったんだと思った。思ったけど、なんだか悲しくなった。悲しくなって、家に帰りたくなくなっちゃった。だけど、いつまでも小学校にいるわけにはいかないから、家には向かった。それでも帰りたくはなかった。そんな時、公園が目に入った」


「公園?」


「そ、公園。家の近くの小さな小さな公園。子供が遊んでることなんてそんなになくって、あの時も、誰もいなかった。だけど、私にはそれがちょうどよかった。ここにしようって決めた。ここで思いっきり遊ぼうって。最初は楽しかった。けど、ちょっとしたら飽きてきて、ブランコに座ってゆらゆらしながら空を眺めてた。そしたら、急に雨が降り出した」


 ひとつ、深呼吸。


「最初私は「あ、雨だ」くらいにしか思ってなかった。だけど、次第に強くなっていったから、あわてて近くにある遊具の下に隠れた。それでもびしょ濡れになっちゃったから、寒かった。孤独だった。私はこのまま死んじゃうんだなんてことも考えたかもしれない。当然そんなことないんだけど、小学生だからね」


 苦笑い。その笑いは俺に伝染ることは無かった。


「……どれくらいだったかな。それこそ体感だと数時間くらいしたくらいでね、足音と声がしたの。足音は分からないけど、声は誰のかすぐに分かった。どうしてって思った。逃げなきゃとも思った。だけど、雨は相変わらず凄くって、外になんて出られるわけもなかった。そしたら、覗き込んでくる……トラと目が合った」


 凄い。


 虎子のことだ。きっと後から気になって美咲の家に行ってみるか、電話してみるかしたのだろう。


 だけど、当然帰ってきているはずの時間になっても美咲が帰宅していないことに気が付く。外は雨だ。美咲の話を聞く限り、朝の時点では雨の予報なんてなかったんだろう。


 そんな中、虎子は一目散に駆け出して、美咲のことを探しに行ったんだ。それは確かに、ヒーローと言っても差し支えないかもしれない。


「最初はね、怒られた。なんでこんなところに居るんだって、心配するじゃないかって。当然だよね?だけど、その時の私は泥沼にはまったみたいな状態だったから、言い返しちゃった。別に迎えに来てくれなんて頼んでないって。私のことなんて放っておいて、他の友達と遊んだらいいって」


「うわぁ」


 苦笑い。これは美咲にも伝染し、


「とんでもないでしょ?小学生の私」


「えっと……そんなことは」


「本音は?」


「……とんでもないと思います」


「よろしい」


 美咲が楽しそうに笑う。うう……この人、嘘とか誤魔化しが通用しない……


「それでね。そんなとんでもないことを言った私をね、トラは思いっきり抱きしめたのよ」


「あっ」


 あらーーーーーーーー!!!!!!!!


 口に出すのは我慢した。そんなのもう完全に百合じゃないか。むしろどうしてここ二人は付き合わないんですか?


「それで、そんなこと言わないでくれって。美咲は俺にとって大事な友達なんだから、いなくならないでくれって。泣きながら言われて。結局、私もわけわかんなくなっちゃって、最終的には二人して泣いているところを、ママが保護した……ってわけ」


「それは……」


 良い話じゃないか。素直にそう思った。虎子は美咲を大切な友達として認識し、美咲は虎子というヒーローに救われた。何一つあとくされのない、綺麗な物語。後日譚は甘い展開のアフターストーリーがお似合い。そうとしか思えない。


 でも。


 この話を美咲が「今」しているということは。


「さっきちょっと口走っちゃったからその話もするけど、トラはね、良いところのお嬢様なの。だけどほら、正直そうは見えないでしょ?」


「まあ、それは……」


 これに関しては虎子には申し訳ないけど、違いますとは言い切れなかった。


 もちろん、着ている服はきっと俺からは想像が出来ないほどの上ものだろうし、そのセンスだってボーイッシュではあるものの間違ってはいなかったように思える。その辺から推察すれば、確かに裕福な家庭に育っているのではないかということは理解できる。


 だけど、それはあくまで「一般的なレベルで」の話だ。


 なにせ虎子や俺が通っているのはお嬢様学校だ。


 転生というイレギュラー中のイレギュラーでこの世界へとやって来た俺には分からないが、あれだけの施設だ。恐らく学費だってその辺の私立高校が泣いて逃げ帰るレベルの額である可能性が高い。


 従って、そこに難なく通っている虎子の家庭が「裕福でない」というのは余り考え難い話だ。そういう「一般的な基準」での裕福かそうでないかの足切りはクリアしているはずなのだ。


 が、逆に言えば、それ以上に関しては全くのブラックボックスなのだ。虎子が世界の名家出身か、そこそこ裕福な一般家庭出身かの判別はかなり難しいと言える。


 美咲はその反応を見た上で、


「虎子はね、今自由にしているの」

次回更新は明日(10/23)の0時です。

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