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百合カップルを眺めるモブになりたかっただけなのに。  作者: 蒼風
Ⅰ-Ⅴ.マイペースな先輩─馬部碧─
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27.部室と毛布と全裸の先輩。

 高等部の部室棟は二つに分かれていた。それぞれ文化部系と運動部系がなんとなくの分類で入っているらしい。


 部の設立には意外と面倒な申請が必要になっているが、その維持に関しては一定の活動と、部員が最低一名いればなりたつらしく。今日も大した活動もしていない部活動が立派な部室を貰っていることで、新興の部活動から文句が上がっていたりするという。


 ただ、それもあくまで「部室間の格差」というレベルに過ぎないものだし、一年ごとに「部員と部室規模のミスマッチ」は是正が行われてるとのことだった。


早い話が「部員が少ない部活動はそのうち小さ目の部室に移動させられる」ということのようだ。なるほど、良くできている。移動させられる方は大変そうだが。


 美術部室はそんな部室棟の三階にあった。部室の広さは階層が下から上に進むにつれて小さくなり、三階が最上階なので、一番小さいサイズの部室があてがわれていることになる。部員は馬部と育巳の二人なので当然と言えば当然かもしれない。


 そんなわけで、


「勢いで来ちゃったけど……どうしよう」


 実のところ、作戦もへったくれもなかった。


 なにせまず情報が少ない。馬部(うまべ)(あおい)という人間が本当に凄い絵を描くのかどうかすら、今の俺からは判断がつかない。育巳(いくみ)だって、本当に先輩である碧と上手くいっていないだけなのかもしれない。大嫌いがそのうち大好きになるというのは俺の百合脳が勝手に算出した妄想でしかない。


 だから、まず情報を集める。理想は片方だけ、出来れば碧単体と会話が出来るといいんだけど。


 考えていても始まらない。俺は部室のドアをノックする。


 コンコン。


 シーン…………


 コンコン。


 シーン…………


 へんじがない。


 ただのしかばねのようだ。


 いや、屍になっていては困る。というか、そんなとんでもない事件に遭遇するものなのだろうか。自慢じゃないがミステリーの素養は一切ないぞ。そんな俺の脳内から出た世界に「事件」という概念があるとは到底思い難い。


 反応が無い以上人がいないということだろうか。一応放課後の、しかもそこそこ時間が経ってから来ているので、部活動があれば流石に誰かしらが居てもおかしくはないんだけど。それともそんな「いつに部活動だから、集合ね」みたいな概念がないのかもしれない。ありえないことじゃない。二人しかいない上に、一人は全く絵を描かないわけだから。美術部員なのに。


 駄目元で扉をあけてみよう。


 これで鍵がかかってたら今日は諦めよう。


 そう思って、ドアノブに手をかけて、押してみると、


「鍵、かかってないな……」


 なんとも、不用心である。


 学校の部室に盗まれて困るようなものはないのかもしれないし、部室棟自体がそもそも完璧に近いセキュリティを備えているようなので、開けっ放しでもいいのかもしれないが。田舎の一軒家みたいなオープンさだ。


「失礼しまーす……」


 ゆっくりと、扉を開けて室内に入る。扉のガラスが、外からは内部を見ることが出来ない仕様になっていたため分からなかったが、部室内の電気はついていなかった。


 本当に誰もいないのだろうか。もしそうなら(いくら不用心だったのは相手方だったとはいえ)今俺がやっていることは、みようによっては空き巣そのものだ。やっぱり出直した方がいいのかもしれない。


「絵ってあるのかな」


 出直したほうがいい。


 明らかに不審人物になっている。


 頭ではそう理解していてもなかなか人間というのは理屈だけでは動けないものなのだ。端的に言えば碧の絵を見るチャンスだと思ったのだ。


 十分……いや、五分。


 五分探してなかったら帰ろう。そして、日を改めよう。


 そう結論付けて、部室内に一歩足を踏み入れ、


 ぐに。


「ぐに?」


 なんだろう。


 明らかに無生物ではない何かを踏んだ気がする。ただ、蛇とか、そういうやばいものではないような気もする。感触からするに、それは毛布のような、


 視線を下ろす。


「…………はい?」


 そして、固まる。


 そりゃそうだ。


 だって、普通思わないじゃないか。高等部の部室に、


 全裸に毛布一枚の女性が寝転んでいる、なんて。

次回更新は明日(9/17)の0時です。

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