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百合カップルを眺めるモブになりたかっただけなのに。  作者: 蒼風
Ⅰ-Ⅲ.ぶっきらぼうなお隣さん─九条虎子─
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8.無自覚天然ジゴロってこういうこと。

「ちょっと、いいかしら?」


 にっこり健やか満面の笑み。自分でも感心する。人間、あらゆる感情が極限まで高まっているときは逆に笑えるのかもしれない。にっこり。


 女神……もとい、アテナは、なんとも美しいほほえみで、


「あら、どうかしましたか?あなたはえっと……笹木(ささき)さんでしたっけ?私に何か用でしょうか」


 こんのクソ女神。


 なにが「用でしょうか?」だ、白々しい。何も告げずにいきなり教室に潜り込んできてそんな言い分が通用すると思うなよ。仏の顔も三度までというけれど、俺はそこまで優しくはないぞ。


『いいからついてこい。話がある』


 よし。どうやら脳内の会話も通用するみたいだ。これが通用しないといよいよめんどくさかったところだ。


『えぇーいやですよ、めんどくさい。私、この後お友達とお茶しに行くんですよ?』


 この野郎。


 何が友達とのお茶だばかばかしい。そもそもわざわざ生徒に扮してまでここにいるってことは俺のサポート役だろう。そのサポート役がなんでサボろうとしてるんだ。


『いいからこい。じゃないと、脳内でずっと百合の尊さについて語り続けぞ』


『はぁ~~…………わかった。わかったわよ。いきます。いけばいいんでしょ、まったく』


 アテナは教室の出口にいた女子生徒たちに向かって、


「ごめん。先にいってて!後から追うから」


 そんな言葉に女子生徒たちは「分かった」とか「はやくきなよー」などと思い思いの言葉を投げかけて、教室からフェードアウトしていった。


 やがて、アテナが、


『ちょっと待っててね』


 指を鳴らす。それに呼応するようにして、周りの生徒が、教師が、時計が、窓からうっかり入り込んだ虫が、全てが完全に動きをとめてしまった。


「んで?なにか御用ですか?」


 いかにも不満げな声。だが、そんなことよりもきになるのは、


「御用だけど……今の何?」


「ああ」


 自らの指を眺めて、


「私、これでも女神だから。この世界の時くらいは止められるの。もちろん、誰の時を止めるとか、そういうのも選べるってわけ。凄いでしょ」


 凄かった。


 ただ、それを素直にほめるのはなんだか尺なので、


「凄いけど……そんなことまで出来るのになんでこの学校の生徒になったんだよ?」


「暇つぶし」


「おい」


 アテナは手をひらひらさせて、


「冗談ですよ、冗談。一応、これでもサポート役ですからね。だったら近くにいたほうだいいだろうってことで、生徒としても生活することにしたんです」


「生徒として“も”?」


「お、察しがいいですね。私もそうですけど、女神には時間や空間と言う概念がないんですよ。だから、ここで生徒として生活する傍らで、あなたみたいに寿命よりもかなり早く死んじゃった人の対応をしてるんです」


「なんていうか……なんでもありなんだな」


「ええ。女神ですから」


 どうやらなんでもそれでごりおすつもりらしい。


 アテナは「そうだ」と話題を変え、


「あなたにいいものをあげましょう」


 といいつつ、懐から小さな物体を取り出して、俺に握らせる。見た目的には小さなドローンのように見える。羽根と機体と、それから下部にはカメラのレンズらしきものも見える。サイズは手のひらサイズで、とても大した距離を飛行できるようには見えない。


「……これなに?」


「定点観測器」


「ていてんかんそくき?」


 そのままリピートする。アテナは軽く頷いて、


「そ。それを掲げて、顔と名前が一致する誰かひとりのことを思い浮かべると、その人の上空をひたすら浮遊して、その映像情報をあなたの脳内に提供してくれるわ」


「へぇ…………でも、これって気が付かれないんですか?」


「それは大丈夫。これはあなたと私にしか見えないものだから。ちなみに、行方不明になったら、手を広げて「戻ってこい」って念ずると戻ってくるから安心して頂戴」


「なるほど……」


 改めてまじまじと手元の機械を眺める。


 ぶっちゃけそんな高性能なものには見えないが、アテナが言うならそうなのだろう。


「でもまた、なんでこんなものを?」


 アテナがため息をついて、


「だって、必要でしょう?どうせあなたのことだから「百合カップルのいちゃつくところが見られないと嫌だ!」とか言い出すでしょうから、先回りしておいたの。まったく、めんどくさいんだから……」


 めんどくさいといいつつ、しっかりと用意してくれるあたりは流石だ。なので、


「そうなんですか……あの、ありがとうございます、色々」


「は、はい?」


 不思議なものを見るような目で見られた。そんな反応しなくても……


「いや、だから。こういうの用意してくれたりとか、そういうことですよ。寮のことだって対応してくれたんでしょ。だから、お礼、言っておこうかなって」


 それを聞いたアテナは、椅子ごと後ずさり、


「…………一応聞いておくけど、あなた本当に百合恋愛を眺めたいだけなのよね?女の子になって女の子といちゃこらしたいんじゃないわよね?」


「?そうですけど、それがなにか?」


 アテナはぽつりと、


(無自覚かよこっわ……)


 何かを呟く。なんて言ったんだろう。良く聞こえなかったな。


「とにかく。それはあげるから、好きにやってちょうだい。私は友達とお茶しに行くから。それでいい?」


「はい、いいですけど……あの、女神さん?」


「なにかしら。後、神泉アテナって仮の名前があるからそっちで呼んで頂戴」


「じゃあ、神泉さん」


「そっちか……なに?」


「もしかして、この世界、楽しんでます?」


「…………悪い?」


 どうやら、女神にも女学院で生活してみたいという願望くらいはあるみたいだった。

次回更新は明日(8/29)の0時です。

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― 新着の感想 ―
[一言] うん、好きなように世界を変えるとか、ちょっと自分勝手し過ぎる気がします。。。 しかしまぁ、とりあえず主人公さん、引いて作者さんが百合への想いはマジガチだと理解しましたw
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