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第36話 シェリルとギルバートの視察(9)

(い、今、ギルバート様私のことを愛しているって……!)


 その言葉を理解して、私の乙女心が騒ぎ出す。


 ギルバート様はあまり私に対して「愛している」とか「大好き」とかおっしゃるタイプではない。そのため、私は少なからず不安を覚えてしまっていた。


 でも、人前でそんなことをおっしゃってくれるということは……真実なのだろう。


「だから、立ち去ってくれ。……そうじゃないと、俺はお前をどうするかわからない」


 ギルバート様はそうおっしゃってエヴェラルド様をにらみつける。


 それに完全に怯んでしまったのか、エヴェラルド様は「く、クソッ」と言った後慌てて立ち去っていく。結局、彼は昔から何も変わっていなかったのね。それを、実感する。


 そして、エヴェラルド様がいなくなられると……私のことを力いっぱい抱きしめてくださるギルバート様の腕が、バッと離れていく。


「シェリル。……悪いな。咄嗟のこと、だったから」


 しどろもどろになりながらギルバート様がそうおっしゃる。……私は迷惑だなんて思っていないのに。真実、助けてくださったことも愛していると宣言してくださったことも、嬉しいと思っているのに。


 そう思って、私はギルバート様に抱き着く。あまり積極的なのは私らしくないけれど、このお方の場合は私が積極的にならざるおえないのだ。


「ギルバート様」

「……あぁ」

「私、嬉しかったです」


 静かにそう告げれば、ギルバート様は「……シェリル」と私の名前を呼んでくださる。そのため、私はギルバート様の首に腕を回しながら「私のこと、愛しているって宣言してくださったことも、嬉しかったです」と言う。


「……あれ、は」

「嘘だったのですか?」


 少し悲しい声音でそう問えば、ギルバート様は「違う!」と慌てたようにおっしゃった。それから「……咄嗟、だったんだ」と小さな声で零された。


「嘘じゃない。けれど、咄嗟だったからあんなことをここで……!」


 確かに場所はちょっと悪かったかもしれない。周囲には野次馬らしき領民たちが集まりつつあり、私とギルバート様のことを興味深そうに眺めている。


(でも、これって逆に良かったんじゃないの?)


 けれど、私はそう思ってしまう。領主夫妻の仲が良ければ領民たちにとっても嬉しいことのはずだもの。そう思って私が視線だけで周囲を見渡せば、ターラさんがこちらに近づいてきていた。


「ターラさん」


 彼女の名前をゆっくりと呼べば、ターラさんは「シェリル様」と優しく私の名前を呼んでくださった。


「領主様のこと、大好きなのですね」


 そして、彼女はにっこりと笑ってそう言ってくれる。なので、私は力強く頷いた。


「私、ギルバート様のことが大好きです。だから……その、出来れば、お支えしたいと思っております」


 最後の方は消え入りそうなほど小さな言葉になってしまった。でも、領民の人たちにはしっかりと聞こえていたらしく、小さいけれど歓声らしきものが上がりつつあった。


「いやぁ、ようやく領主様にも春が来たってか」

「こんな可愛らしい婚約者に愛されて、領主様は幸せだねぇ」


 何処からかそんな声が聞こえてくる。それに対して、ギルバート様は顔を真っ赤にされていた。……こういうところ、好き。っていうか、この場合顔を赤くするのは私なのでは?


(でも、自分よりも慌てている人を見ると人間って冷静になっちゃうのよね……)


 そう思いながら、私は領民からの祝福を受けたりからかいを受けたりされるギルバート様を見つめていた。……なんだろうか。ギルバート様って、やっぱり慕われているのね。


「シェリル様、どうか領主様のことをよろしくお願いいたしますね……!」


 対する私は、気がついたらご老人から拝まれてしまっていた。挙句の果てにはギルバート様の幼少期のお話を聞かされる始末。……面白かったから、別にいいのだけれど。


(それに、ギルバート様の幼少期のお話を知れるのは嬉しいわ……)


 素直にそう思いながら、私はご老人たちのお話に耳を傾ける。


 ご老人たち曰く、幼少期のギルバート様はよくここら辺の田舎町に顔を出されていたらしい。だからこそ、ご老人たちからすればずっと成長を見守ってきていた子供という印象が強いみたいだった。


「いやぁ、挙式が終わった際にはぜひともこちらにいらっしゃってくださいな」

「は、はい」

「生きているうちに領主様が幸せになるのを見れるなんて、幸せだわぁ……」


 ギルバート様、本当に愛されているのね。私はそれを実感していた。


(受け入れられて、よかった)


 それとほぼ同時に、すっと心配が消えていく。結局、私はギルバート様の婚約者として領民の人たちに受け入れられるかが不安だったのだ。……特に、こういう田舎町で。


 そんなことを考えながら、私は丁寧な言葉でからかいを受けるギルバート様のお姿を眺めていた。……このお方と、ずっと一緒にいる。それが、今の私の夢なのだ。


 そして、そのためには――。


(エヴェラルド様のこと、何とかしなくちゃね)


 そう、思うのだ。

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