表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

83/173

第26話 一人の容疑者

 その後、私はロザリア様と共にギルバート様が待っていらっしゃるであろう執務室に向かった。


 執務室に入れば、そこではギルバート様とサイラスさんが重苦しい表情でいらっしゃって。私は「ギルバート様?」と声をかけてしまう。


「……あぁ、シェリル」


 私の顔を見て、ギルバート様がほっと一息をつかれる。それから「……少し、面倒なことになりそうだ」とつぶやかれ、視線をロザリア様に移す。


「ところで、エリカ嬢は大丈夫だったか?」


 しかし、話を変えようとされたのか、ギルバート様はそう問いかけてこられた。なので、私は「今は、眠っています」と答える。


 エリカが無事だったことに一安心されたのか、ギルバート様がもう一度息をつかれた。が、すぐに「……俺は、この屋敷で死人が出るのが嫌なだけだ」と訂正されていた。どうやら、エリカのことをそれとなくは心配してくださっているらしい。


「シェリル。とりあえず座れ。立ち話もなんだからな」


 そう指示されて、ソファーに腰を下ろす。サイラスさんは私が腰を下ろしたのを見てか、「こちらを、どうぞ」と言ってお茶を出してくれた。


「……あの、ギルバート様」


 そのお茶に口をつけながら、私は小首をかしげてギルバート様に声をかけた。すると、ギルバート様は「……シェリルの知っている状況を、教えてほしい」とおっしゃる。なので、私はロザリア様に視線を向けていた。……情けないことに、私は何も知らない。


(……何か、できたらいいのだけれど)


 そう思うけれど、今の私は無力だ。今は、周りに頼ることしかできない。そういう意味を込めてロザリア様を見つめれば、彼女は「……とりあえず、呪いをかけたのが男性だということが、わかりました」と言って目を瞑っていた。


「年齢は大体二十歳前後。利用した魔道具からするに、身分はいいはずです」


 ロザリア様は、淡々とそう告げる。……二十歳前後の、男性。身分はいい。そうなると、貴族の男性が一番に思い浮かんでしまう。


(……エリカに、恋焦がれていた貴族の男性?)


 エリカは愛らしい容姿と性格から、貴族の男性にとても人気があった。とはいっても、実家が落ちぶれた侯爵家だったので、なかなか婚約の申し込みはなかったみたいなのだけれど。……エリカも、きちんとした家に生まれていれば、幸せになれたのだろうな。


「……あと、これはただの予想なのですが」


 私が考え込んでいれば、ロザリア様はそう前置きをして「……多分、このお方は騎士……の関係者だと思います」と言いにくそうに教えてくれた。


「……そこまで、わかるのか?」

「まぁ、予測でしかないですが。なので、外れている可能性もあります」


 胸の前で手を握りながら、ロザリア様がそう言う。……貴族の男性で、騎士の関係者。さらに、二十歳前後。そうなったら……一人、思い当たるお方がいる。


(エヴェラルド・パルミエリ、さ、ま)


 パルミエリ伯爵家の、長男。そして、私とエリカの幼馴染。それが、エヴェラルド様だ。


 エヴェラルド様の生家であるパルミエリ伯爵家は代々騎士も務めており、強さが尊重される家。ただし、エヴェラルド様自身は幼少期に病弱だったこともあり、騎士をやっていない。関係者というのは、その部分で合致している。


(……けれど、エヴェラルド様は)


 気が弱くて、人を呪えるような度胸のない人。彼が幼少期からエリカに恋慕を抱いていたことは、知っている。だけど、彼の性格上そこまでするとは思えない。


(……ううん、恋は人を愚かにするのよね)


 だから、そうなってもおかしくはない。そう思い、私は「ギルバート様」とゆっくりと声を発する。


「……どうした、シェリル」

「いえ、私、その情報から一つの心当たりが、あるのです」


 ゆっくりとそう告げれば、ギルバート様は「……俺も、一人きな臭い人物が浮かんでいる」とおっしゃる。


「まぁ、とりあえず情報共有をしよう。詳しいことは、そのあとでいい」


 ギルバート様は一度目を瞑って深いため息をされながら、そう告げられた。なので、私はうなずく。


 多分だけれど、ギルバート様もエリカに対してそこまでの感情は抱いていないのだろう。確かに、複雑な感情を持っていらっしゃるかもしれない。でも、少しは、エリカのことをわかってくれたのかな、なんて。


(私が、あの子のことを助けてあげたいの)


 素直になれなくて、ちょっぴりあまのじゃくで。可愛らしいのに、気が強いフリをし続けるあの子のことを……私は、守りたい。


 そう思うとほぼ同時に、開いた窓から風が吹き抜ける。その風は、私の長い髪を揺らしていた。


 そして……私の身体が、ふらついた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ