第24話 ロザリア・ルシエンテス
◇お知らせ◇
本作品のコミカライズが【めちゃコミックオリジナル】さまにて開始しました!
とても素敵に描いていただいていますので、ぜひぜひよろしくお願いいたします(n*´ω`*n)
※タイトルは【年の差十五の旦那様~辺境伯の花嫁候補~】と微妙に変更になっております!
その後、私はエリカのことをマリンに任せて、クレアを連れてロザリア様のお部屋へと向かう。早足でお屋敷の中を歩いていれば、使用人たちが「どうなさいましたか?」と声をかけてきてくれて。だから、私は「ちょっと、ロザリア様に用事があるの」と笑って誤魔化しておいた。
(余計な心配は、かけられないものね)
リスター家の使用人たちは、みな優しい。そのため、余計な心配などかけられなかった。それに、中にはやっぱりエリカのことを好ましく思っていない人もいる。それも、関係している。
「……ロザリア様、いらっしゃいますか?」
それから、私はロザリア様のお部屋の前に立ち、ゆっくりと扉をノックしてそう声をかけた。すると、中から「はいは~い」とのんびりとした声が聞こえ、扉が開く。
ロザリア様はその茶色の髪を下ろしており、どうやら寛いでいたらしい。そんな彼女にお仕事を割り振るのは憚られたけれど、エリカの一大事なのだ。背に腹は代えられない。
「どうなさいましたか、シェリル様?」
ロザリア様はにこやかに笑って、私にそう問いかけてくる。なので、私は「……一つ、お願いがありまして」と彼女の青色の目をまっすぐに見つめて告げた。
「……かしこまりました。準備しますので、三分ほどお待ちくださいませ」
私の様子を見て、ただならぬことだと感じ取ってくれたのだろう、ロザリア様は扉を閉めてお部屋の中に戻っていく。そんな背中を見送って、私はただ俯く。……エリカのこと、助けてあげたい。でも、私じゃどうにもならない。『豊穣の巫女』だと言っても、こんな時に役に立たないのならば、意味なんてないじゃない。
「……シェリル様」
俯いて下唇を噛む私を見てか、クレアが私の背を撫でてくれた。
「……私は、あのお方のことを好いてはいません」
そして、クレアはそう続ける。
「ですが、シェリル様が悲しむ姿を見るのは、もっと嫌です」
「……クレア」
「だから、私も協力します。多分、この屋敷の使用人はみなそうだと思います。……サイラスさんも、です」
目を伏せがちにそう言うクレアの言葉は、とてもありがたかった。だから、私は「……ありがとう」と小さな声でお礼を言っていた。
そうしていれば、ロザリア様のお部屋の扉が開き、いつも通りの格好のロザリア様が現れて。
「シェリル様、用件をお話してくださいますか?」
ロザリア様はそう言って、私の目をまっすぐに見つめてくる。そのため、私はエリカの様子のことをお話した。多分、エリカの不調の原因が呪いやまじないの類であるということも、お話した。
「……私は、光の魔力を使えません。なので、私にはどうすることも、出来なくて」
視線を逸らして、自虐気味にそう言えば、ロザリア様は「人には適材適所がありますから」と言い、「行きましょうか」と続ける。
「まじないや呪いを解くのは、私にもある程度できます。……ただ、強すぎると私にはどうすることも出来ないかも、しれません」
「……そう、ですか」
「王国の認めた魔法使いは、主に浅く広くをモットーに学んでおります。王国が求めている魔法使いは、主にオールマイティな存在ですから」
まっすぐに歩きながら、ロザリア様はそんなお話をしてくれた。
ちなみに、ロザリア様曰く一部の分野に特化した魔法使いは主に研究機関に所属しているらしい。なので、そこから魔法使いを派遣してもらうには、また別の手続きが必要だとか、なんとか。
「……ですが、私も精一杯させていただきます」
「……はい」
こんな時、私に何かが出来たらいいのだけれど。そう思って手のひらを握る私に、ロザリア様は「大丈夫ですよ」と言って笑いかけてくれた。
「そもそも、症状から予測するに、相手はプロではありません。呪いや魔術をかじった素人。私は、そう予測します」
「そう、なのですか」
「はい、そうですよ。素人のまじないの類ならば、裏技を使えばシェリル様にも解くことが出来ると思いますし」
ロザリア様のその言葉に、私は驚いてしまう。……うら、わざ。そんなものが、あるのね。
「ま、専用の道具が必要ですが。シェリル様さえよければ、私がお教えしましょうか?」
……その提案は、とても魅力的だった。なので、私は「……後で、お願いします」と答える。今は、エリカの方が大切だもの。そんな、自分のことばっかり考えるわけにはいかないわ。
「はい。まずは、シェリル様の妹さんの方が先決ですものね。……ルシエンテスの名前、舐めない方がいいですよ」
そう言ったロザリア様の横顔は……とても、頼もしくて。私は無意識の内にホッと息を吐いていた。……ロザリア様がいてくれて、良かった。そう、心の底から思えた。